✝️仏打サイド✝️ 鳥帽子事件より一月前、11月のライオン
ちん、
ちんちん、
ちんぽこ俺ら。
氷川きよしの歌を替え歌にして俺は佐世保のアーケードを歩いている。
にやにやブツブツ。
ハハッ糞みてえな社会だ。
俺は何も悪くない、社会が悪い。
案の定無職の俺は案の定精神状態がすこぶる不調だ。
案の定バイトの面接は昨日も落ちた。
社会が悪い、いや名前も悪いんだ。
なんだ俺の名前。
松本仁示。
本名だぞ。あの糞みてぇなお笑い芸人と発語は同じだ。
名前だけで笑われる。
笑われるのはまだいい。
受かればそれでいい。
しかし現実はどうだ。笑われるだけ笑われて落とされるだけ。
馬鹿なコンビニオーナー如きに馬鹿にされ名前を弄られる。
誰だってオカシクなる。
現に俺はなってる。
バイトの面接さえ突破できない俺は今日も家に居づらく何となく街を歩く。
佐世保市のくだらないアーケード街を彷徨う。
夕方や土日祝日は人が多くなるので避けてだ。
平日の昼過ぎは人もまばらになり歩きやすくなる。
爺か婆しかいなくなるからだ。
ちん、
ちんちん、
ちんぽこ俺ら。
おおきな声で歌い屁をひり出しながら歩けば爺や婆がぎょっとして怯えた目で見てくる。
それが快感なんだ。
ぶりぶりと糞を出しているように重量感のある屁をひっていると婆がこちらを凝視していた。
「なんやっ!婆!なんば見よっとや!くらすっばい!(殴るぞ)」
またわざとでかい屁をお見舞いしてやろうと尻に力をこめると驚愕するほどの量の糞がでた。
もりもり。
ああ。
糞が出たことにあの婆は気づいたのか気づかなかったのか這々の体で去っていき糞を漏らした俺だけが残る。
たぶん、たぶんだが動くとズボンの裾から糞が転げ落ちるちは思うのだが尻にこの柔らかく熱い違和感を持ったまま此処に立ち尽くしていてもどうにもならない。なるべく糞を落とさないよう歩幅を小さくして近くの公衆便所をめざす。
確か先の公園に便所があったはずだ。
よちよち小幅で歩き目的の公衆便所に到着。
楠の木の枝葉がもっさりと覆い被さりなんとまあ陰鬱な便所になりさがっている。
もっと綺麗な便所でこの熱い糞を処理したかったがしかたがない。
中に入るが案の定掃除が行き届いていない。
大便器以外の場所にも紙が散乱し濡れて床にへばりついている。
個室の中に入るも、もちろん紙は無し。
とりあえずズボンを脱いで尻の所を見る。裏側に多少糞は付いているが表までは浸透していない。指でぬぐい膝をついて和式便所の水を流しながら指を洗う。
パンツはもう駄目だ。これはパンツというよりもウンチだ。
もう床に放った。そして尻の周りを指でぬぐっては洗い拭っては洗い。なんとか糞を処理した。
指を嗅ぐ。薄らと糞の匂いはするが尻が膨らむほどの糞をため込んでいるわけでは無くなったのだっから良しとしよう。
便所から外に出た時の空の青さが白々しかった。
しらふになったように我に返った俺が公衆便所から足早に立ち去ろうとした時ふと草むらの茂みに違和感を感じた。
目を凝らして見ると足が見えた、安っぽいスニーカーを履いた足。
寝ている?地面に?死体?
恐る恐る近づくとひと目見ただけで死体ではなかった。顔を真っ赤にした飲んだくれの爺が寝転がっているだけ。
なんだつまらん。
立ち去ろうとした時に爺の腹の上に財布があることに気づく。
あ、俺のおこづかい。
そっと手を伸ばし財布を手に取る。中には五千円札が一枚と千円札が二枚。なんてことだ、なんて心が痛まない額。遠慮無く札をすべて抜き取り自分の財布に移す。
「なにしてんすか?」
本当に!本当に心臓が飛び出るかと思った。
振り向くとクリーム色のコートを着た線の細い長髪ツーブロックのガキが立っていた。破れる程に鼓動する心臓の音を聞きながら警察じゃなかった事に心底安堵する。
目だけでガキを見る。オシャレなガキだ、警察では無いみたいだし俺をいきなり強請タカリをしたいわけでもなさそう。
数秒の間。その後俺は何故か強がった嘘をつく。
「こいつばケンカでぶっ倒してやったけん金ばもらいよっとばい、そがん約束やったけんね」
俺は何を言い出してるんだ?自分でも何が何だか。
「へーすごいっすね、強いんすか?」
「あたりまえたい!空手ばしよったけんね」
そして聞かれてもいない、ありもしない武勇伝を数話こしらえて語り出す。いやいや止まれ俺。何がしたいんだ俺。
俺の武勇伝をおとなしく聞いていたガキが頷きながら俺に一枚の名刺を差し出す。
リスペクトスターCEO 桃野鉄平
薄いアルミ板みたいな素材で出来た珍しい名刺だ。こんな初めて見た。
「俺、飲み屋とか何件かやってるんですが今度用心棒してみませんか?」
「おう!よかばい!」
嫌、良くねえよ俺。馬鹿か俺。
「良かった、そしたら今度こちらから連絡しっますね!」
俺が言った名前と電話番号をメモすると、なんと桃野は一万円をくれた。
そして桃野は去っていった。
なんだったんだ。
俺は恥ずかしい作り話をペラペラ喋っていて自分を嫌悪しながら競輪場に向かう。
競輪で勝って忘れよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます