第14話: 弾数(∞)ガトリング(部品交換不要)とか反則でしょ……
※ちょい、残酷な描写有り
注意要
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──これはけっこう勘違いしている人が多かったりするが、ガトリングガン(あるいは、ミニガン)は本来、手で持って使う武器ではない。
勘違いしている人が多い理由は、映画や漫画の影響だ。
ガトリングはその見た目のインパクトと、破壊力という一点においては凄まじいので、どうしても印象に残ってしまう。
けれども、実際のガトリングガンは三脚などで足場を用意したり、装甲車などを砲台として固定したりして使う、連続かつ連射出来る重火器なのである。
もちろん、歩兵用として開発されたガトリングガンも実在する。
しかし、それでもなお持ち運びに難が有り、だったらマシンガンで良いだろうという結果となり、日の目は今も浴びていないのが現状である。
理由としては、なんと言っても重すぎるからだろう。
多少なり軽量化が成されていても、その総重量は100kgを越える。砲身の長さや重心の関係から、体感する重さはそれ以上に感じるだろう。
なにせ、ガトリングガンの最大の利点は、毎分数千発を発射する圧倒的な発射サイクルだが、言い換えればそれこそがガトリングガンの最大の欠点でもある。
どうしてかって、それだけ速く打てるということは、それだけ速く弾切れを起こすからだ。
ガトリングの砲身を回転させるモーターと、一分間発射し続けるだけの弾丸だけでも、総重量は数十kgにもなる。
破壊力こそ他の追随を許さないにしても、だ。
たった一分間の攻撃の為に三桁近くある重さの銃器を担いで移動するなんて、効率が悪過ぎる。
2分間、3分間、少し時間を増やすだけで数十kgずつ重くなってゆく重火器なんて、いくら鍛えた兵士でもすぐに動けなくなってしまう。
体力の消耗もそうだが、重すぎるゆえに細やかに照準を変えられないのも悪く、また、それほどの速射性を持つ銃身を人の身で押さえるのは無茶なのである。
……とはいえ、科学力の発達したこの世界では、多少なり問題点が改善されている。
破壊力・貫通力・射程距離は悪くなるが、弾丸を全てバッテリー式のレーザー弾に替えることで、歩兵でも持ち運べるようにはなった。
ただ、それでもなお、弾の重量がバッテリーに置き換わっただけという揶揄があるぐらいには重く、辛うじて……という前置きが付いてしまう程度の改善ではあるのだが。
ゆえに、前世よりもはるかに科学力が発達したこのSF世界であっても、そいった武装は最低でもパワードスーツとセットというのが常識とされていた。
「──諸君! 私はこれより囚われていたアルクサリア王女を救出し、この星の悪事を白日の下に晒す! 邪魔をしないでもらいたい!」
が、しかし。
この日、リゾート惑星として有名な惑星ズービスの、一般には知られていない隠された場所へと白昼堂々侵入を果たした者が。
「私たちへ攻撃しない者に対しては、私からも攻撃しない! だが、私たちへ攻撃する者は、悪事を成した者たちの仲間と判断し、私も容赦しない!」
常識的に考えたら、だ。
両手が掴んでいる二丁のガトリングガンという分かり易い脅しに加えて、黙って法の裁きを受けろとお優しく忠告までする者が。
「身に覚えが無い、自らを潔白であると思う者は武器を下げて引け! 立ち塞がるのであれば、自分たちの命で持って償え!」
まさか、ソレが見せかけでも何でもなく、実際に使用出来る本物のガトリングガンで。
そんな馬鹿げた物(それも、実弾式)をパワードスーツも使わず振り回し、絶え間なく速射し続けて来るとは。
……戯言をほざく愚か者に対して、アルクサリアを傷付けないために狙撃で答えた地下施設の兵士たちは。
直後に、狙撃した兵士がガトリングガンによてミンチにされるまで、誰も彼女の言葉をまともに聞いてはいなかった。
『くそっ! なんだアレは!? シールドを張ってやがるのか!? レーザーが到達していないぞ!』
『──こちら、F-155部隊! パワードスーツによる制圧に失敗! 援護を頼む! 敵の火器の威力は想定以──』
『ちくしょう! ちくしょう! くそったれ!』
『総員気を付けろ! 敵のガトリングは普通じゃない! 防護壁を貫通するほどの特注品で、しかも実弾だぞ!』
『どうなってやがる!? 実弾なら、どうして弾切れを起こさない!? どこから弾を補充していやがるんだ!?』
『射線に出るな! 防護壁が約に立たねえ!? 一瞬でミンチにされるぞ!!』
『──こちら、G-33部隊! ジャミングは正常に働いているのか!? 敵の照準が正確にこちらへと向けられているぞ!!』
『下手に防護壁を出るな! 流れ弾でも致命傷だ! シールド用バッテリーを消耗させろ! シールドさえ解けたらこっちのもんだ!』
『馬鹿野郎! 前衛は何をやってんだ! 何でもいい、とにかくシールドを解除させろ!』
『ありえねえ! ありえねえ! どうしてシールドバッテリーが底を尽かないんだ!』
『ジャミング出来ているのか! このままだと俺たちの部隊がやつに狙い──きぉ』
『どうなっている!? 粉塵によってバッテリーは消耗しているはずなのに……シールドが弱まる気配も──』
そして、それらは何の言い訳にもならず……兵士たちが気付いた時にはもう、一発で顔を粉々に吹き飛ばす弾丸が自分たちへと連射されていた。
──最初こそ、兵士たちはアルクサリアの事があって強力な重火器は控えていた。
だが、そんな対応を取っている間にも、ガトリングの銃口の先に居た兵士たちがミンチへと変えられてゆく。
一人、また一人、アルクサリアの事など頭から吹っ飛び、諸共殺そうとお偉方からの命令を無視する者が現れてからは……早かった。
最初の一人が諸共殺そうと放ったロケットランチャー……それが、彼女のシールドに阻まれて無傷に終わってから……30分。
その、たった30分の間に……一般には秘匿されていた地下施設の光景は、酷いモノになっていた。
通路のいたる所には弾痕や焦げた跡、衝撃で飛び散った肉片がこびり付き、硝煙と血肉の焼けた臭い、死に損なった肉塊が転がっている。
彼女の足を止める為に破壊された照明。散らばったガラス片などをパキンと音を立てて踏み砕きながらも、その足は全く止まらない。
何故なら、彼女には見えている。そして、直後に彼女が設置したライトによって、それらが無駄に終わったからだ。
兵士たちは急いでそのライトを壊そうとするが、彼らは知らない。
そのライトはあくまでもアルクサリアのための代物であり、破壊したところで彼女から向けられる照準に狂いはなく、更には、いくらでも補充が出来るということを。
ソレによって生じた隙を、己の命で支払ってゆく。
その事にいち早く気付いた者たちが、ライトの破壊を諦め遮蔽物や防護壁に身を隠すが……結果は変わらない。
何故なら、彼女が使用しているガトリングガンはただのガトリングガンではない。『ストア』によって強化された特注のガトリングガンである。
重量120kg。
これは、使用する弾丸の重量を抜いた重さである。バッテリーを除いても、その重さは100kgを越えていて……弾は、常時『ストア』から供給される仕様となっている。
どうしてそれだけ重いのかって、それは使用する弾丸が特別製(つまり、『ストア』による強化済み)であるからで、それに耐えるための砲身にした結果だ。
ちなみに、ストア通貨がある限りは弾数無制限で。
ガトリングそのものが使用中に壊れないようにする為の処置だ。まあ、壊れなくとも、パワードスーツ着用でもひっくり返ってしまうほどの反動が生じるから、ある意味では壊れているけれども。
このガトリングど同レベルの威力を出そうものなら、それこそ対航空機用の機関砲ぐらいは用意しなければ……というぐらいのイカレタ重火器なのである。
そして、そんな武器を向けられて、果たして生存が可能なのか……答えは、『否』である。
悲しい現実だが、兵士たちは……相手の、彼女が保有している戦力を完全に見誤っていた。
ただのガトリングガンであれば防げる防護壁も、対航空機用の機関砲レベルの銃弾に耐えられるようには設計されていないし、設計しているわけがない。
しかも、『ストア』によって改造され、常識外の威力にまで底上げされたガトリングガンだ。
1発2発は防げても、10発20発……時間にして、約0.1秒気を抜いた時にはもう、粉々になった防護壁ごと蜂の巣にされて終いである。
対して、兵士たちからの攻撃はどうだ。
兵士たちが所持している武器ではシールドは突破できず、パワードスーツ着用時のみ使用出来る重火器ですら、シールドを突破出来ない。
ゆえに、シールドの弱点であり、どうにも出来ない欠点であるバッテリーを攻めてみたが、どうしてかバッテリーが切れる様子が見られない。
目視やカメラにて兵士たちが確認した限り、外部エネルギーではなく、内部エネルギーを使用した一体型のシールド。
敵はアンドロイド(あるいは、サイボーグ?)だと判断した兵士たちは、怒鳴りつつも冷静に動いたのに……どうしてか、シールドが一切弱まらない。
──外部エネルギーと連結……いや、見た限り、それらしい装置は見られない!?
異常な状況に、兵士たちは恐怖よりも先に困惑した。
何故なら、彼らの常識の中には、だ。
それほどに長時間&強度が落ちない人型(推定160~170cm程度)のアンドロイドに納められるサイズのシールド装置なんて、存在しなかったからだ。
けれども、現実として目の前に存在している。あらゆる攻撃がなされても、何一つ通じず、その歩みを止める事すら出来ない。
ならば至近距離にてガトリングを押さえようにも、信じ難い速さで接近に気付き、そのガトリングを鈍器として、即死するほどの威力で叩きこんでくる。
なのに、ガトリングの砲身が歪む気配は全く無い。ましてや、長時間の連続使用による砲身の焼け付きすらも見られない。
パワードスーツの分厚い装甲を陥没させても無事ともなれば、兵士たちの銃器では砲身を破壊する事は不可能……と、兵士たちが判断するのも当然の流れである。
『くそっ! くそっ! 俺はもう逃げるぞ! こんな化け物とやっ──っ』
『逃げるな! ここで逃げたら、駆け付けたエルフのやつらに全員皆殺しにされるぞ!』
『メーデー! メーデー! 足をやられた! 救援も──っ』
『駄目だ! バズーカも設置爆弾も効果無し! 誰でもいい、地上用戦車をここへ──』
『ふざけんな! ふざけんな! みんなやっているじゃねえか! ちょっと金を貰っただけじゃねえ──』
『頼む! 開けてくれ! おい、おまえらだけ逃げるな! 置いて行くな、頼む!』
『地上に出せ! なんとか地上におびき出せば、爆撃で粉々に──』
『駄目だ! 地上で戦闘なんて起こってみろ! 隠し通せなくなる!』
『通路が狭すぎてパワードスーツが──や、に、逃げろ! 狙い撃ちにされ──っ』
そして、濁流が如き勢いで行き交いしている通信を傍受(当然、盗み聞き)され、次の行動が完全に予測されていることすら気付いていない彼らにはもう、逆転の目は皆無であり。
そうなれば……戦局は完全に彼女が優位のままに進むしかないのである。
二丁のガトリングガンを構えたまま悠々と歩く彼女と、その後ろを青ざめた顔で、けれども確かな足取りで付いて行くアルクサリア。
どちらも、怪我等は一切無い。
物騒な装備をしているが、まるで近所を散歩するかのような……対して、周囲に広がる光景は、どうだ。
どこへ隠れようが、そこへ向かって正確に放たれるガトリング。
射程距離が数kmもあるだけでなく、分厚い防護壁を容易く貫通するソレを前に、耐え忍ぶなんて手段は愚策も愚策。
胴体に当たれば一発で致命傷、手足を掠めただけで肉が抉れて大出血を起こし、足なら歩行困難な状態にまで陥ってしまう。
だから……怯えて怖気づいてしまった兵士たちの中には、通路の隔壁を閉じて、自分だけでも逃げ出そうとする者が現れ始めていた。
『か、隔壁が!? どうして! 緊急コールは出ていないはず──』
『おい! おい! コントロールルーム! こちらテスDの19部隊! どうして隔壁を下ろした! 開けろ! ここを開けろ!』
『──施設の全隔壁が下ろされ──駄目です! コントロールを一切受け付けません!』
『──一旦全ての電源を落とせ! 手動にて予備電源に切り替え、全通信機能を一時的に遮断した後、オフラインにて復旧しろ!』
『開けろ! 頼む、開けてくれ! こんな薄っぺらい隔壁じゃだめだ! あいつ、ガトリング以外も武器を──』
『──だ、駄目です! 手動操作も受け付けません! 完全に、全施設の機能が掌握されています!』
『くそっ! くそっ! ちくしょう! なんで俺が! 俺以外にもいっぱいいるじゃねえか! なんで俺が──』
『──あり得ない! 手動による物理的な遮断だぞ! どうして電源が落ちないのだ!?』
『──全施設の隔壁が完全に落とされました! 侵入者は変わらずDブロックからGブロックへと移動中!』
『ごめんなさい! ごめんなさい! 許してください! 許してくださ──っ』
『──外部との通信、完全に遮断されました!』
『──絶えず救援要請を送り続けろ! このままでは全員やつに殺されるぞ!』
だが、もはや、それも出来なくなっている。
何故なら、既に施設のコントロールは全てムラクモによってハッキングされ、内部の者たちがいくら頑張ったところでどうにもならなくなっているからだ。
おかげで、手動による電源停止も出来ない。だって、既に予備電源が使用されているからだ。
そう、コントロールルームの者たちは誰も気付いていなかったが、モニターに映し出されている情報も、送られてくる映像も、全てがフェイク。
仮に、兵士の一人がこの部屋に入ってモニターを見たら……驚愕に言葉を失くしただろう。
なにせ、映し出されている映像は、防護壁にて互いに身を隠し、あるいは移動して、一進一退の攻防を繰り広げている銃撃戦。
いや、一進一退どころか、むしろ侵入者を押している。
互いに致命的な損傷こそないが、状況は明らかにこちら側が有利。そうなるのも当たり前だ、保有している戦力が違い過ぎるから。
既に、『件の少女は確保した』と現場の者たちより連絡が来ている。ならばもう、焦る必要はない。
袋小路に追いつめられるネズミのように、確実に仕留めれば、それでこの騒動は終わり……そう、コントロールルームの者たちは思っていた。
だが、それは……ただ、フェイク映像を見せられた彼らが出した、誘導的な結論でしかない。
映像では、互いに銃撃し合っている──実際は、防護壁や通路の隙間に身を隠し、あるいは、我先に逃げようとしている兵士たちが諸共ガトリングガンでミンチにされている。
映像では、位置が悪いと侵入者が移動する──実際は、コントロールルームより送られた嘘の情報を信じて動いた兵士たちが、事前に構えられていた射線の上に移動してしまう。
コントロールルームからの指示により、侵入者の逃走経路を限定──実際は、手動にて下ろされた防火壁ごと、レーザーバズーカによって蒸発してしまった兵士たち。
映像では、保護されたアルクサリアが後方へと下げられてゆく──実際はそこにアルクサリアはおらず、コントロールルームからの初動を遅らせる偽造情報。
そんな感じで、だ。
コントロールルームの彼らは誰一人、実際の状況を理解出来ないまま、状況は加速度的に彼らにとって取り返しのつかない方向へ悪くなっていて。
もはやフェイク映像による時間稼ぎも必要無いと判断したムラクモが、隠さずに堂々とハッキングを行い、彼らが気付いた時にはもう全てが遅く。
『よし、アルクサリア。非常に胸糞悪い光景だとは思うが、お前の目で左右の光景を見ておけ』
『こ、これはいったい……』
『宇宙中から掻き集めた美男美女のクローンだろう。用途は不明だが、全身クローンは宇宙法で禁止されているからな……ロクでもない使い道なのは間違いない』
『そんな……これを、叔父様が……』
『叔父が先か、義母が先か、それは私にも分からんが、お仲間だ。なので、証拠としてアルクサリアにはこれらを見てもらう必要があるわけだが……出来るね?』
『──っ、はい、やります! これ以上、我ら一族の者より、恥を晒し続けるのを私は許しません!』
そんな会話が2人の間で成されている……か、どうかは彼らには分からない。分からないが、そうとしか思えない動きを行っている。
それは、彼らにとって絶対に許されない行為である。
この、リゾート惑星にて最も秘匿されなければならない、クローン製造施設を、よりにもよってエルフに見られているという光景をモニターより見やった者たちは、皆。
「 」
モニターの映像を理解出来ず(要は、信じたくなくて)、言葉を失くして呆けるしかなくて。
「 あ あ あ 」
ようやく……ようやく、状況を理解し、自分たちの立場がどのような状態になっているのかを悟った、その瞬間。
「あ、あ、あいつ、あいつを……!!!」
誰もが……現場の兵士からすれば、それが出来たら苦労はねえよと本気で殴られるような。
「あいつを殺せ! は、早く殺せ! そうしなければ、我らが破滅するぞ!!!!」
そんな戯言を、彼らは唾を飛ばしながら……叫ぶしか出来なかった。
本当に、それが出来たら誰も苦労はしないのだけれども。
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