第7話: あと数センチ余計に開いていたらアウトだった



 彼女が身に纏っているコートの性能は事実上、この世界の人類の常識の外にある。



 防寒防熱を始めとして、ありとあらゆる外部からの攻撃に対して無類の防御力を持っている。完全にコートの中に包まれば、対艦レーザー砲の直撃すらも防ぐ。


 いや、それどころか、物理的な衝撃すらも同じ。


 どういう原理でそうなっているのかを彼女すら知らないが、対艦ライフルの直撃ですら、コートの中へは赤ちゃんのパンチ程度の衝撃しか伝わらないぐらいに強固である。



 そして、このコート……見に纏っている者の意思に従って、内部の情報を意図的に改ざんすることも可能である。



 つまりは電子機器及び、肉眼による目視等の確認が不可能な……言うなれば、透明人間状態にすることが可能なのであった。



 もちろん、弱点はある。それは、物理的な接触だ。



 あらゆる光線を透過し、重量すらも装着者の任意によって自動的に改ざん……局地的な重力変動を起こすことが可能だが、物質そのものを消しているわけではない。


 あくまでも、目や音で確認することが不可能な状態にしているだけ。触ればソコには存在しているし、コートの外に引っ張り出せば普通に露見してしまうわけだ。


 いちおう、ソレすら誤魔化せるコートも『ストア』には有るのだが、それは現在のコートが50着は買える値段だったので、妥協して現在のコレに落ち着いた。


 ……いや、このコート自体、彼女のボディが10万体は揃えられるぐらいには高いのだけれども……っと、話を戻そう。



「……いいか、動くなよ」

『──っ』

「中に居る限り、とりあえずは物理的に接触さえしなければ誤魔化せるからな」

『──っ』



 コートの中にて、己の身体にコアラよろしく引っ付いているアルクサリアへとこっそり声を掛ければ、頷く気配を彼女は感じ取った。



 ……いったい、どういう体勢なのか。



 見たままで説明するなら、彼女の腹に顔を埋め、両手両足で抱き着いているような状態だろうか。


 おかげで足が動かせなくなっている彼女は、機械の足の利点であるローラー装置によって、シュイーンと宇宙港へとバイクよろしく走行して向かっていた。


 片手に抱えた紙袋(コーヒー豆一式)のおかげで、買い物帰りに急いでいる義足の女にしか見えないだろう。まあ、あえてそのように見せているのだけれども。



 ……ちなみに、だ。



 なにも考えずにアルクサリアがそんな体勢を取り続けるのは不可能なので、コート内に限り、重力をかなり軽くしている。


 その際、アルクサリアは滅茶苦茶驚いていたが、仕方がない処置である。


 いくらアルクサリア自身の体重が軽かったところで、『宇宙遊覧船レリーフ』が停めてある宇宙港まではとても……で、だ。



 ……どうしてそんな体勢になっているのか。



 それはひとえに、アルクサリアの姿を周囲から隠すためである。


 なにせ、相手は王族だ。子供であるアルクサリアよりもはるかに多くの権力を持っている。


 幸運と機転でなんとかスパラナ宇宙ステーションまで逃げて来られても、ここから監視の目を掻い潜っての移動の難易度は、これまでの比ではない。


 軽く一考した程度だと、他所多様な宇宙船が入って来ては出て行くから、脱出は容易いと考えがちだが……実際は、逆だ。


 宇宙への起点、ハブ宇宙港とも言えるステーションの出入りは厳重に管理されている。


 入るところまでは王族特権で誤魔化せても、それをすれば確実に義母の方へと情報が向かい……結果、身動きが全く取れなくなっている今を思えば想像しやすいだろう。



(見られているな……やっぱり、疑われているか……)



 実際、区画を進み、ステーション内を進みながらも、何気なく視線を向ければ……嫌でも、気付かされる。


 ステーション内の至る所に設置されている監視カメラが、明らかに己へと向けられているのが。


 どれもこれも自然体を装うかのようにすぐ別の方向へと向けられるが、それでも、必ず一つは絶対に己へと向けられる。


 何処を進んでも、急に進路を変更しても、変わらない。常に、どれかのカメラが絶えず彼女の位置と進路を確認している。


 警備員なり何なりが突撃してこないのは、あくまでも、疑いの段階に留めているのと……理由も無く罪状をでっち上げて、それが露見した場合を恐れてのことだろう。



 なにせ、誰よりも何よりもそういったスキャンダルを恐れるのは、王族であるエルフ側だ。



 宗教的権威が失われてしまえば、待っているのは地に落ちた象徴。今ですら、王族という存在そのものを否定している者たちはいるのだ。


 種族としてけして数が多くはないエルフが、その地位を保てる理由……それが失われることを、何よりも嫌だと思っているのはエルフ側である。


 そして、何処かの惑星の辺境だったならばともかく、ここは宇宙ステーション。


 常に通行人が行き交っている道を選べば……露見する事をとにかく向こうが恐れている以上は、道中はこれでイケるというのが彼女の判断であった。






 そして、その作戦は上手くいった。


 一部では色々と有名であるセクサを見て指差す者、遠巻きにする者、宇宙港へと近付くにつれて増えていったが、それが逆に彼女とアルクサリアを守る盾となった。



(さて、ここまでは上手く行けたが……問題は、ここからだな)



 ただ……その盾が通じるのは、道中の間だけ。その先……船に乗り込むまでが問題だ。



 ちらり、と。



 宇宙船が並べられている港への出入り口。そこから、こそっと顔を覗かせた彼女の視線の先に……いた。


 宇宙遊覧船レリーフへの出入り口、その傍らで立ち塞がる謎の男たち……いや、店でちょっかいを掛けて来た男たちの姿が。


 遠目にも、ホーゲン達の同僚でないのが分かる出で立ちだ。考えるまでもなく、義母とやらが手を回したのだろう。


 まあ、そのホーゲン達から胡散臭そうな目で見られているあたり、手を回すことが遅れているのか、十分だと油断しているのか……で、だ。


 船に乗り込みさえすれば、誤魔化すことは可能。コートの中にさえいれば、出発直前の重力チェックはパス出来る。


 燃料に関しては問題なし、食料関係は『ストア』で用意出来るし、『ストア』が使えなくてもレリーフに備わった機能で用意出来るから、飛び立つことさえ出来れば後は大丈夫。



(発進申請は普通に通った。つまり、発進を中止させるだけの理由をでっち上げるところまでは無理だったというわけか……)



 ただ、問題なのはやはり、乗り込むまでだ。


 運送屋もそうだが、宇宙(地上もそうだが)というのはある意味、互いの信頼信用のうえで成り立っている部分はけっこう多い。


 入港する前ならばともかく、既にレリーフは様々なチェックをクリアしたうえで停泊している。


 ここで無理やり罪状を作り上げると、このチェックを行った者たちが見逃してしまったという話になってしまうし、下手に話が広がれば、このステーションそのものへの信頼すら傷を与えてしまう。


 まあ、お偉方全員がグルだったならば、どうしようもない話だが……なので、彼女を止めるとするなら、乗り込む前。


 つまり、レリーフの前で突っ立っているあの男たちをどうにかしなければならないわけだが……さて、どうしたものかと彼女は頭を掻く。



(ここが辺境の惑星だったなら、銃撃してお終いにするんだが……さすがに、ステーション内でそんなことをしたら、問答無用で悪いのはこっちになってしまう)



 ホーゲン達を呼んで協力を仰ぐ……いや、駄目だ。


 ホーゲン達は、アレはアレでプロフェッショナルだ。自分たちの仕事に誇りを持っているし、下手に巻き込むわけにもいかない。


 どこかで騒ぎを起こして陽動を……いや、それも効果は薄いだろう。


 むしろ、周囲の目だけをそちらに引き付けてしまい、こちらが不利になってしまう可能性が高い。周囲の目がある、その利点を捨てるわけにはいかない。


 と、なれば……真正面から行くしかない……か。



「これから、船へ乗り込む。しかし、船の前にはおまえの追手と思わしきやつらがいる」

『──っ』

「いいか、絶対に動くな、声も出すな。コートの内側にさえいれば、お前の姿はやつらには見えない」

『──っ』

「いいね、行くぞ」



 最後に、アルクサリアが小さく頷いたのを感じ取った彼女は、覚悟を固めて……ホーゲンが男たちの前へ居るタイミングを見計らって、おもむろに船へとローラーを進ませる。



「──おっ、セクサか? どうしたんだ。今回はやけに戻ってくるのが早いな」



 すると、真っ先に気付いたホーゲン(彼は、女の接近に関しては人一倍敏感である)が駆け寄って来た。


 眼球の動きを気付かれないようにしつつ、その向こうで出鼻をくじかれて迷いを見せた男たちの姿を確認しながら、彼女は一旦足を止めた。



「野暮用が出来たのと、不運なアクシデントに見舞われた結果だ」



 事前に考えていた通りに返答をする。



「アクシデント?」



 想定通りに聞き返してきたホーゲンに、彼女は想定通りに返事をした。



「誰と勘違いしたのか、私に手荒いちょっかいをかけてきた馬鹿野郎どもがいてね……おかげで、こんな格好だ」

「こんな格好って……こと、は?」



 じろり、と。


 まさかね、と。



 そう言わんばかりに向けられたホーゲンの視線に、彼女はあえて大げさに苦笑を零すと、コートの前をギュッと両手で押さえた。



「このコートはお気に入りでね。我ながら馬鹿だとは思うが、コートがミルク臭くなる方が嫌なんだ」

「……ミルク?」

「店の人が怖がってしまったばかりにミルクをぶちまけてしまって……悪気は無いし、傍目にも分かるぐらいに震えていたから怒るに怒れなくて」

「そりゃあ、災難だったな。ところで、そうなると、その下って……」

「馬鹿者、さすがに下は履いているよ。ただ、私の趣味じゃないしサイズも合っていないけど」



 その言葉にホーゲンはおちゃらけた雰囲気を一変させ、困った様子で視線をさ迷わせた。



「気持ちは分かるけどよ、着替えのシャツぐらい、その店で用意してもらえばよかったんじゃねえの?」

「あいにく、お婆さんが一人でやっている店でね。冗談抜きで、着られるシャツが一枚も無かった」

「…………」

「想像を働かせているところ悪いが、おまえも今度試してみたらわかる。冗談抜きで息苦しいし、下手すると来る途中で破ける」

「いや、説明しなくていいから。ていうか、どっかで買えば……」

「この恰好でどこかの店に入るぐらいなら、船に戻った方がマシ……というか、通報されてしまうよ」

「……それもそうだな。ところで、野暮用って言ったけど、そのまま発進するのか?」



 その言葉と共に、ホーゲンは同僚たちへと振り返る。「倉庫は空っぽ、出るだけなら何時でも!」と返事が来た。



「食糧とか燃料は積んだのか? 急ぎなら、待合室とかで休憩している業者とか超特急で連れて来るぞ」

「ああ、それなら大丈夫だ。そう遠くへは行かないし、気分転換がてら星の景色を眺めるよ」

「はあ~……おまえ、相変わらず変な趣味しているよな。宇宙なんか眺めて何が楽しいんだ?」

「ほっとけ」



 あんまりと言えばあんまりな言葉だが、彼女は否定せず苦笑で済ませた。


 前世で例えるなら、見慣れた通勤コースを走れば気分転換になると言っているようなものだ。


 そりゃあ、客観的に見れば変な趣味だと言われても仕方がないなと彼女は……っと。



「──待て、セクサ。おまえには容疑が掛けられている。これより、別室まで同行してもらう」



 ここを逃せばマズイと思ったのか、タイミングを見計らっていた男たちが距離を詰めて来た。



「……あえて声を掛けないようにしていたのに、またかよ! 何が目的だか知らないが、私は知らねえっての!!」



 だが、しかし。



「いきなり銃を突き付けてきたかと思ったら、今度は真偽不明のでっち上げか!? てめえらのせいでこっちは半裸でここまで戻るハメになったんだぞ! 私への詫びってもんがないのかおまえらは!!」



 それよりも前に、彼女はわざと大声をあげて、男たちが蛮行を働いたのだと周囲に思わせるように仕向けた。



 ……これまで何度か話したが、セクサは美女である。



 セクサロイドの身体は伊達ではない。基本的にサービス的なスキンシップも苦笑しながら受け流す稀有な女性なのもあって、なにかと男たちの注目を集めている。


 当然ながら……今回とて、例外ではない。


 いや、むしろ、セクサの口から『半裸』という言葉が出た瞬間、遠巻きに注意だけ向けていた者たちが何だなんだと集まり始めた。


 それに気付いた男たちは、「いいから来い!」慌てた様子でセクサへと──。



「ちょい待て、今まで静観に留めておいたが、そうも言っていられなくなったぞ」



 ──手を伸ばそうとしたのだが、その前にホーゲンから止められた。



 ギリッと男たちの鋭い眼光がホーゲンへと向けられたが、「お~怖っ、で、所属は?」真っ向からそう返されてしまった。



「…………」

「…………」

「……お前たちが知る必要はない」

「は? なに言ってんの、おまえ?」



 男の返答に、ホーゲンだけでなく、成り行きを見守っていた周囲の者たちも目を細めた。



「こんな場所に似つかわしくない畏まった格好をしているから、てっきり他所の職員かと思っていたが……何も言えないってなると、俺たちはおまえらを不審者として通報しなければならなくなるぞ」



 そうなのだ、ホーゲンたちが、明らかに場の雰囲気にそぐわない男たちが屯していることに声を掛けなかったのは、ソレが理由だ。


 作業着とかでもなければ、カジュアルな格好でもないし、ビジネスマンといった風貌でもない。そして、男たちは外からではなく、ステーション側から港に入って来た。


 なので、主に内勤を担当していたり、あまり現場に出てこないお偉方みたいに、てっきり他所の部署の者か何かだと思っていたが……所属すら明かさないとなると、話が変わってくる。



「そうされたくなかったら、所属ぐらい言えよ。現状、俺たちにとってあんたらは職員に変装した誘拐犯かなにかに見えるぞ」

「……おまえたちには関係のないことだ」

「いや、関係あるに決まっているだろ。あんたらが正式に指令を出された保安官とかならともかく、それすら明かせないってなると、俺たちとしても安全の為にあんたらを拘束する必要が出て来る」

「──いいから退け。後で後悔しても知らんぞ」

「だから、その後悔をしないためにも所属ぐらい明かせって言ってんだろうが!!」



 まるで話の通じない男たちの頑なな態度に、ホーゲン達の目付きが鋭くなる。言葉も荒げ始め、周囲の者たちも工具やら何やらを手に、ジリジリと包囲するよう動き始める。



(……すまない、ホーゲン。危険な事をさせてしまって……今度うんとサービスしてやるから)



 それを見て、彼女は申し訳ないと思いつつも、内心にて流れがこちらにあるのを冷静に感じ取っていた。


 そう、彼女はコレを狙っていた。


 自らが被害者であることを率先してアピールし、周囲の注目を浴びる。それで、僅かでも『こいつら、職員に扮した部外者では?』と疑惑を抱かせてしまえば、こっちのものだ。


 なにせ、追手の後ろにいると思われる義母とやらが一番恐れているのは、他の王族たちに夫殺し(アルクサリアに対しても)の疑惑が掛けられてしまうこと。


 これだけ向こうにとって悪い状況で強引にアルクサリアを連れて行こうとすれば……それ故に、男たちも言葉を濁すことしか出来なかった。



「なあ、ホーゲン。私はもう行っていいのか?」

「ん? ああ、いいぞ」

「ま、待て!」

「待たなくていいぞ──おら、このど変態野郎! しらばっくれると思ってんのか!?」



 そうなれば、もう向こうが取れる手段は無い。


 万が一、向こうが銃を抜いて脅しに掛かれば、その時点でステーションのセキュリティチームが出て来る。


 そうなれば、正当防衛が成立していない限りは極刑。当然、向こうもそれは嫌だから、強引に動くことも出来ず……っと。




『総員、動くな!』




 今にも殴り合いが起きそうなほどに高まった緊張感に、ブスリと穴を開ける一声。ハッと、その場にいる誰もがそちらへ目を向け──理解した。


 そこにいたのはボイズ監査官と、その部下たち。


 あと、彼らの背後より追いかけて来ている、パワードスーツを身に纏ったセキュリティチームだった。



「通報を受けて駆け付けてみれば……誰か、状況を改めて説明してくれ」



 拡声器を下ろしたボイズがそう尋ねれば、ホーゲン達は手短に状況を話す。


 しばし、黙って静聴していたボイズとその部下たちは、顔を見合わせて頷いてから……おもむろに、不審者として見られている男たちの前へと立った。



「事情は分かりました。それで、貴方たちはどのような容疑で彼女を連行するつもりなんだ?」

「言えない」

「それならば、どのような権限が有って、貴方たちは一般人である彼女を拘束しようとしたのですか?」

「言えない」

「……話になりませんね」



 そう言い終えると共に、セキュリティチームが前に出てきた。


 それを見て、男たちは焦った様子(最初から焦っていた様子だったが)で互いに顔を見合わせ……覚悟を固めたのか、彼女を指差すと。



「──あのコートの下を見れば、私たちがここに来た理由が分かる!」



 そう、叫んだのであった。



 ……。


 ……。


 …………当然ながら、そんな言葉を聞いてボイズたちの心が動くかといえば……そんなわけもない。



「……分かりました。それでは、別室で彼女の身体検査を行います。それで何もなければ、直ちにあなた達を誘拐未遂及び準テロ犯、並びに虚偽の通報による公務執行妨害の容疑で拘束します」



 しかし、それでも、片方の言い分だけを聞いて動くわけにはいかない。


 ゆえに、ボイズ監査官たちは落としどころを明示し、それでこの話を終わらせようとした──のだが。



「コートの下、だと?」



 それを許す彼女ではなかった。


 だって、下手に身体検査をされてしまえば、困るのは彼女(アルクサリア)だ。



「そうか、そうか……変な言いがかり付けてくるからなんだと思っていたが、なるほど……最初から、ソレが狙いか」



 だからこそ、彼女は。



「そんなに見たければ──見せてやるよ!」



 あえて、男たちだけでなく、他の者たちにも見えるように──パッと、コートの前を開けた。



「……でっ、かっっっっっっっ!!!!」


 そうして、露わになったのは。



「……ケツも相当にデカいんだな」


 今にも破けそうなぐらいに、パンパンに生地が張ってハムみたいになっている……婆くさいパンツだけを履いた、くびれた裸体。



「……今度、いっぱい奢るぜ」


 そして、そういうお店でも中々お目に掛かることが出来ないレベルに美しく、見ただけでも柔らかさが想像させられる……二つの爆乳であった。




 ……そう、それだけであった。




 男たちが期待していた人物は、そこにはいない。有るのは、セクサと呼ばれている女の裸体だけ。


 屈強な男たちの手でも収まらない膨らみをタプンと震わせた彼女は、無言のままに……そっと、コートの前を閉じた。



(大丈夫! ギリギリ……この腕の位置までなら、コート内の迷彩機能も解除されない! ここまでならギリギリセーフ!)



 心臓など無いのに、身体中の擬似血液が逆流するかのような感覚。


 周囲の者たちの反応から、バレてはいないと分かっていてもなお、不安は消せない。



「……行っていいか?」



 傍目からは、羞恥で震えているように見えただろう。


 実際は、緊張と不安で思わず震えただけけれども。



 バレなければ、理由はどうでもいい。



 顔を赤らめた彼女のその言葉に、ボイズ監査官は気の毒そうにしつつも、笑みで答えた。



「あ、ま、待て──ぐぇっ」



 対して、スイーッとローラー走行にて船へと戻ろうとする彼女を止めようとした男たちへは……絶対零度の冷たい眼差しと共に、セキュリティチームのパワードな拳がお見舞いされた。


 もはや、犯罪未遂の現行犯としてか見られていない男たちに起死回生の一手などあるわけもなく……ものの1分と掛からないうちに、男たちはその場に昏倒させられたのであった。



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