第99話

 翌朝、先生と一緒に食堂でご飯を食べてから出発することになった。もちろんフルーツを店で買うのは忘れなかったわよ?


「ロア、この洞窟に一人でいったのか。平気だった?」


「えぇ。平気でしたよ?」


 ちょっと先生は苦手そうな感じがしている。狭いのが苦手なのかしら?二人で洞窟に入っていくと、昨日のオレゴランがいたわ。掘った所は既に新しい鉱物が出始めていてちょっと安心したわ。背中の鉱物が生えるスピードは私が思っているより早いのかもしれない。


先生は入り口に近いオレゴランの背中を掘ろうとして私は止める。


「先生、ここは植物も生えていて様々な物が混じるのであまり質は良くないようです。奥に良質の鉱物が採れるのでそこに行きましょう」


「なるほど。じゃぁ行こうか」


 私達は薬草群を抜けて奥へと入っていく。先生は光の最終地点まで来ると一気に嫌な顔になった。やはり狭い所が苦手ならしい。


「先生、ここを抜けると採掘ポイントになります。中は広くなっていて小さなオレゴランが沢山いて可愛いですよ」


「……そうか。私は狭いのが少しばかり苦手だから行きたくはないが、剣のために頑張るよ」


「先生にも苦手な物があったんですね」


 先生は冗談を言うほどの余裕はないらしい。私は穴にヒョイッと入って中の様子を確認する。昨日と変わった様子はないみたい。


昨日より少し明るめで光を出して高めに飛ばしておいた。これでここのスペースは見渡しやすくなった。先生はというと、意を決して穴に飛び込んだという感じかしら。


「先生、大丈夫?」


「あぁ、なんとか生きている」


そして先生は周りを見渡して驚いているようだった。そうよね。


「昨日はこの場所で採った鉱物が質のいい物でしたよ」


「ふむ。ここは草も生えていないし、所々に鉱石混じりの土になっている。少し奥まで調査してみる」


 先生はそう言うと、奥の方まで歩いていった。入り口で採ったけれど奥はもっと良いのかしら?私も急いで後を追う。すると、一ヶ所だけ金属のような鉱石が結晶化して何本も飛び出ている場所を発見した。


不思議な色をした鉱石。前回は明かりを点けていたとはいえ気づいていなかったわ。小さなツルハシを使って一番大きな結晶を削っていく。結晶はとても硬くてツルハシが反対に削られているわ。何度も叩いて割ろうとしていたけれどビクともしない様子。


「ロア、土を少し掘ってみるしかない」


先生の言葉に従って周りの土を掘っていく。シャベルが欲しい。回りを掘ると結晶の根本部分は継ぎ目のような物があった。ここならなんとか切り離せるかと思ったけれど、早々に諦める事になった。


先生は仕方がないなと指先から火魔法で結晶を溶かすように切り離していく。どうやらかなりの高温でないと切り離せないようだ。二本だけ切り離して持ち帰る事にした。高温の火を出し続けるのはかなり魔力を削るから二本が限界だった。


近くにいたオレゴランは同じような結晶を背中にくっつけていたわ。私はフルーツをあげてそっとツルハシで掘ってみた。土から出ていた結晶と違い、こっちはポロッと採ることができた。


「先生、こっちはすぐに採ることができました」


「あぁ。きっと純度が違うんだろうね。これで剣を作るのが楽しみだ」


「先生は鑑定を持っているのですか?」


「精度はかなり低いけれど鑑定は出来るよ」


「先生が鑑定を使えるとは知りませんでした」


「まぁ、滅多な事では使わないからね」


 オレゴランにいくつか素材を分けてもらって私達は満足の内に村に帰った。


「先生、武器を作るのが楽しみですね!」


「あぁ。今すぐにでも王都に帰りたいくらいだ」



 翌日は鉱山見学となった。鉱山の中には入れないので見学だけになる。鉱山で働く人達と話をしてみたけれど、特に不満があるわけでもなく、不正があることもなかったわ。村の子供たちも特に気になる子供はいなかった。


「ロア、明日からは移動だ。今回は討伐する魔獣もいないので馬車での移動になる」


「先生、分かりました」


そうやっていくつかの村を見て回った。



 そんなある日、王宮からの招待状が私やアレン先生の元に届いた。


「今年もそんな季節になったんですね」


「あぁ、そろそろ帰らないといけないな。ロアもドレスを作らないといけないんじゃないか?」


「え?私は出席する予定はありませんよ?」


「どうやらそうはいかないらしい。団長からの命令だ」


先生の手から渡された一枚の指令書。私も出席するようにとだけ書かれている。


チッ。


なんだかんだで毎回王宮の舞踏会に参加している気がするわ。


「まぁ、出席したくないのは分かるが、そろそろ一旦王都に戻る時期だ。荷物も増えてきただろう?」


「そうですね。団長命令なら仕方がありません。父にも帰ると魔法便を出しておきます」


 そして村で出ている魔獣討伐を全て終わらせてから王都に帰る準備をする。ここまで村々を回ってみたけれど、スカウトしたいほどの人材はあまり居なかったわ。騎士団に推薦した子が一人いただけ。中々いないものなのね。



 私達は村の外に出て人気の無い所で魔道具を取り出す。王都から出て討伐で貯めた魔石をここで一気に使い切るのは勿体ないと思いながら魔道具に取り込んでいく。


「あぁ、折角の魔石。さようなら魔石」


「何言ってんだか」


先生は呆れた顔で見ている。


「先生、感傷に浸っているんですよ?一応」


先生と私は魔道具に魔力を流し、光に包まれた。


「……只今戻りました」


「お帰り。アレン、ロア。今回の旅は面白かったかな?」


団長は書類から視線を外すことなく聞いてきた。


「まぁまぁですね。いい人材もいなかったですよ?」


「いい素材は見つけてきたそうじゃないか」


 アレン先生はいくつかの鉱物を取り出して説明する。私も緑の鉱物といくつかの鉱物を提出したわ。


「ふむ。ではこの鉱物を魔術師棟に送る。この間の報告書を読んでずっと現物が欲しいと言っていたのでな。あと、舞踏会の衣装を家で準備してもらうように。今日はもう帰っていいぞ」


ジェニース団長はそう告げた。私もアレン先生も今日の分の報告書を出してから早めに帰宅する事にしたわ。


「アレン先生、お疲れ様でした」


「あぁ、ロア。ではまた明日」


 先生とは王宮の外で別れて私はそのまま武器屋へと向かった。先生はこのままどこか寄る所があるらしい。


「マージュさんお久しぶりです」


「あら、マーロアじゃないか。久しぶりだね。今日はどうしたんだい?」


 私は早速リュックからあの鉱物を取り出す。買った物と採掘してきた物ね。


「マージュさん、実は、これを鉱山から採掘してきたんですよね。とってもいい素材だと言われたのですが、剣に出来ますか?」


マージュさんは先ほどの笑顔は一瞬にして消え去り、真剣な顔で鉱物をじっくり調べていく。


「マーロア、これ、どうしたんだい。凄いじゃないか!」


「えぇ。良いものを持ってきたの。この鉱物でファルスの剣を作って貰いたいの。こっちにある分で私の剣も欲しいわ。出来そう?」


「うーん、そうさね。普通の街で売られている剣なら数日で作りあげるけれど、これはもっと丁寧に作りたいね。三週間は欲しい所だね。こっちの鉱物も中々にいいから同じくらいの期間が欲しい」


 私はファルスの剣を先に作って貰うことにしたわ。そして掛かった費用はというと、うん。私の給料半年分ね。鉱物を持ち込んだ分かなり安くなったけれど、それでも高いわ。費用は待ってくれるみたい。


マージュさんに先に一月分を渡してから邸に戻った。あーあ。スッカラカンよ。鉱物買った時もかなりの出費だったけれどね。でも、こればかりは仕方がない。きっとファルスは喜んでくれるわよね。


団長になった時のお祝いとして剣をプレゼントしてあげたいの。どんな剣になるかしら。ウキウキしながら邸へと向かった。

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