第97話

「先生、お薬買ってきました。開けますね?」


 珍しく先生がケホケホと布団で咳をしている。額に手を当ててみるととても熱い。私は先ほどもらった薬をコップに入れて少しの水と混ぜる。この水も魔力から作る方が良いのだとか。ドロドロになった薬に魔力を少しずつ流しながら混ぜ合わせていく。


これもコントロールが必要らしい。一気に魔力を流し入れるより少しずつ混ぜ合わせた方がより粉と魔力が混ざりあい効果が増えるのだとか。


「先生、お薬が出来ました。飲めますか?」


 私はスプーンにドロドロの深緑色をした薬を乗せて口元まで運んでいく。先生は自分で食べられるよと起き上がって薬を口にする。味は、美味しくはないと思う。先生は薬を口に含むと先生の口の中が一瞬光ったように見えたのは気のせいかしら。


そして眉間にシワが寄っている。やはり美味しくなかったみたいね。コップに入った残りの薬をこそげとりながら薬を全て飲み終えたらしい。


「私が薬に魔力を混ぜるより、ロアが作る方だ上手だな。次も作ってくれるかな?」


「えぇ、勿論です。暫く安静ですよ、先生」


 先生は大人しく布団に入って眠りについたみたい。連日の野宿のせいよねきっと。私だって寝過ごしたくらいだもの。


私は夕飯までの時間、店を見て回る事にした。鉱石店があるわ。ここで取引出来るのかしら。店に入ってみると、鉱山で採れた鉱石や魔獣からとれた鉱物、魔石などが置かれている。


どれも王都で買うよりかなり安い値段だと思う。鉱石は買ったことが無かったけれど、魔石の値段はおおよそ分かるので予想でしかないけれどね。鉱石は見るだけにしようかと思ったのだけれど、『最強の剣を作ろう』と謎めいた言葉に心惹かれて店員に話しかけた。


店員は鉱山で働いていそうなほど身体の大きな男の人だった。


「すみません、この最強の剣というのはどういうものなのですか?」


「お姉さん、冒険者なんだろう?この鉱物はな、オレゴランという鉱物を背中に背負った魔獣から採れるんだ。特殊な魔獣で個体によって鉱物が若干違うんだ。王都には出回っていないだろう?」


「えぇ。見たことはないわ」


「王都では鉄や銅なんかの鉱物は流通しているが混合していると大量に生産する武器や防具には向いていないんだ。素材が混合したものを扱えるのは極一部の者だけ。


この剣用鉱物で作った剣はきっと魔力を帯びて薄っすら光るだろう。作り手によっては国宝になっても可笑しくない最強の代物だ」


「おじさん、買うわ!」


「お姉さん、作る宛てがあるのかい?」


「えぇ。一人だけ知っているわ。この剣も作ってもらったもの」


私は剣を店員に見せると、店員は食い入るように剣を見た。


「この鍛冶屋なら任せてもいいだろう。売ってやる」


店員はそう言うと、棚から鉱物を掴み、私に渡してくれたわ。


値段は……とても高かった!


 今までギルドカードに貯めてきたお金が無くなるほどよ?ありえないわ。騙されたんじゃないかしら。不審に思いながらも鉱物をリュックに仕舞う。


「ところでおじさん、オレゴランはギルドで扱っているの?」


「自分で採りに行きたいのか?」


「そんなところね。興味はあるわ」


店員が鼻でフッと笑った。


「ギルド依頼にあるにはあるが、なんせ相手は鉱物背負ってるんだ。半端な冒険者では歯が立たない」


「ならどうやってこれを採ってくるの?」


「あぁ、こいつぁ俺が採ってきているからな。鑑定もしているぞ?」


「本当?採ってきたら見てもらってもいい?」


「ああ、いいぞ?買い取りだってしてやるさ。だが気をつけろよ?」


「分かったわ。情報ありがとう」


 私は店員と約束してホクホク顔で店を出た。次に行くのはもちろんギルドよね。この村のギルドは狩猟関係が多いわ。鉱山のせいか農作物はあまり作られてはいないみたいなのよね。


鉱山から流れ出る水が問題なのかしら?


 溶けない謎は放っておいて依頼書を眺める。オレゴラン採取。ランクB以上推奨の採取なのね。今日は見ておくだけにして明日、先生の具合を見て受注するか決めようと思う。


出現場所が村から北に行った鉱物洞?鉱山は西にあるから全然場所は違うのね。


 受付にオレゴランの特徴を聞いてみると、オレゴランは体調二メートル位のカメに似た魔獣。甲羅とは違い鉱物が背中から生えているのだそう。討伐では無く、採取というのがポイントよ?


オレゴランは葉や土、鉱石を食べて背中の鉱物を成長させるらしい。オレゴランの食べる物によって成分が違っているらしく、鉱物として使えない物が殆どのようで、採る人が少ない。


それと気性は大人しい部類だが、鉱石を採る時に暴れるらしい。洞窟の壁に追いやって逃げ場を無くして背中で押しつぶそうとするのだとか。そんな知能があるのね。オレゴランの強さはDランクらしいけれど、鉱物を採る事が目的なので殺さずに採るためにBランク以上となっているようだ。


そして最近ギルドにもたらされた話ではフルーツを与えている間は大人しくしているという。


採る人自体がいないので本当かは分からないらしい。


 オレゴランの情報を詳しく聞いた後、宿へ戻った。宿のおかみさんに食べやすいリゾットをお願いして先生の部屋へ入る。やはりまだ熱はあるらしい。


明日も自由行動になりそうね。食後はもちろんあの薬。マズイ、マズイと何度も言っていたわ。




 翌日、先生の熱は下がったみたいだけれど、静養のため一日部屋で休む事になった。私は元気いっぱいよ?昨日から気になっていたオレゴランの鉱物を採りに行こうと思っている。


「先生、ちょっと出掛けてきますね」


「あぁ、気を付けていくんだぞ?」

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