第92話
私達は一般の冒険者と同じように街で乗合馬車に乗り込んだ。旅は国の北側から反時計回りに国境沿いの街や村を渡り歩くみたい。馬車の旅は最北端へ向かうのに約一月ほど掛った。
その間に五回ほど馬車を乗り継いでようやく到着したわ。最北端の村は限界集落と言われても可笑しくないほど小さな村だった。
ただこの小さな村が無くならないのは国境と接する村だからなのだと思う。
国を越えて初めての休憩出来る村であり、国境を守る兵士の宿泊所が併設されているため、村の人達は宿泊客や兵士と共に生活していると言っても過言ではない。
「アレン先生、私達はこの村で何をすれば良いのですか?」
私は初めてとなる任務に期待を抱きながら聞いてみる。
「ロア、ここは村人が少ないのでスカウトは出来ないだろうね。主に冒険者として魔獣を狩る事になると思う」
因みにアレン先生はAランク冒険者、私はBランク冒険者になっている。これは予想でしかないのだけれど、高ランクの魔獣は数が少ないので討伐頻度は落ちるのよね。
ランクの低い魔獣を討伐してもポイントには繋がらないので評価システムが変わったならきっとアレン先生はSSランク位なのではないかしら。
私は今のところBランクだけれど、コツコツとBランク魔獣を倒しているのでそのうちAランクまで上がるわ。
私達は村の宿泊所に泊まる手配をした後にギルドへと立ち寄った。小さいながらも依頼書が沢山張り出されていたわ。村の回りはもちろん森なので魔獣も多い。話を聞くと国境を守る兵士も村に出没する魔獣を狩ってくれるので村は平和でいられるのだとか。
「ロア、Bランクの魔獣が何枚か出ている。Bランクは兵士もキツイだろう」
「分かりました」
全部で五枚ほど出ていたBランク魔獣。全てを受注するらしい。そしてアレン先生が受付で手続きをしている時に気づいた。いつも私がギルド依頼を受注するのとは少し違うようだった。
「アレン先生、いつものギルド受注と違うようだったみたいだけれど何かあるの?」
「あぁ、これは普通の冒険者とは少し違ったな。受注時にコード01と登録するんだ。登録後にギルドの受付でサインをするだけだな」
「サインすると何か変わるの?」
「特に変わる事はないよ。王宮お抱えの冒険者というコードなんだ。よく見て?依頼の日にちが結構過ぎているよね?依頼の魔獣ランクが高い場合、討伐出来ない冒険者も多くいるんだ。
被害が広がる前に俺達が率先して狩っていくんだ。高ランクの討伐は金額も高いのだけど、半額国で持ってくれるんだ」
報酬と言う名の給料かしら。
「へぇ。国でお抱えの冒険者っているんですね」
私はアレン先生に感心しながら聞くと先生は平然としながら答えた。
「いないよ?今は俺達だけだ。俺の前はジェニース団長がやっていたらしいけどね」
どうやら零師団がスカウトで各地を回る私達だけにあるコードのようだ。私達からしたら報酬はしっかりと貰えるし、ポイントも稼げるので特に問題はないわ。受注して手に負えない場合は王宮へ緊急として王宮魔術師や騎士団に通知がなされる。
この場合、もちろん依頼は不達成になるけれど、記録には残らないらしい。ただ応援がくるまでの間、魔獣を出来るだけ弱らせるように努めなければいけないのだとか。
説明を聞きながら森へと向かう。どうやら私達が受注したBランクの魔獣はここから少し行った湖に多く出没するらしい。村としては湖を安全に行き来したいのだとか。そこに生えている草が貴重な物らしいの。
湖に到着すると早速居ました。ウェアウルフという魔獣。狼人なのよね。奴等は二足歩行で歩く獣で高さは二メートル程度。知能は低いが身体能力がとびぬけて高い、単独で行動している事が多い。
狂暴でよくレッドベアと縄張りを争っているらしい。身体能力の高さからBランク指定なのだとか。気を引き締めていかないとね。今回の依頼書はウェアウルフ三頭とハルピュイア十羽。
ハルピュイアは鳥人型の魔物で鋭い爪で獲物を掴み上空から投げ落として狩りをする魔獣。魔法が使えればそれほど単体としては強くないのだが、ハルピュイアは群れで行動しているので中々に厄介なのだ。そしてこの湖のように森の開けた場所を狩場としているので注意しなければいけないらしい。これも零師団で覚えた知識だけどね。
「さて、ロア。四年間の鍛錬の成果を見せてくれ」
ウェアウルフが一頭湖の近くでウロウロとしている。音に敏感な魔獣なので素早く癇癪玉を顔に投げつけた。パンッと音がするとウェアウルフは両手で耳を塞ぎしゃがみこんだ。その隙に走って近づきライト魔法を唱えて視覚も妨害する。隙が出来たわ。私は横から剣で首元を狙って斬りつけたその勢いで足も斬りつける。
一刀両断は出来なかったが足は深く傷つき動きを止める事は出来たようだ。鋭い爪で私を狙おうとしているが、視界が奪われているため上手く当たらない。私は後ろに回り込みウェアウルフを斬り倒すことができた。
「先生、終わりました」
「うんうん。成長したね。心配する要素はなかった。さて、安心した所でウェアウルフをこのままにしてハルピュイアを呼びつけることにしようか」
開かれた森で魔獣の死体が放置されていればすぐに餌としてハルピュイアが来るらしい。
私達は返り血を清浄魔法で綺麗にした後、森の木にそっと隠れてハルピュイアが来るのを待つことにした。一時間ほどたっただろうか。来ないと思っていたらハルピュイアが六羽程飛んできた。周りを警戒しながら地上へと降りてきた。
「今だ」
というアレン先生の掛け声と共に風魔法を唱えた。旋風がハルピュイアを巻き込み翼を折っていく。地面に落ちたハルピュイア達の息の根を留めていく。
「先生、終わりました」
「あぁ。それほど難しくは無かったな」
私達は一息ついてから鞄にウェアウルフとハルピュイアを仕舞っていく。後はこの周辺を歩いてウェアウルフを後二匹探す必要がある。
私達は依頼書に出ていた場所に向かう。
この湖から山に向けて歩いた所にまた少し開けた箇所があるらしい。いつも思うけれど、魔獣って同じような場所を好んでいるのだと思う。私達はまた草むらに隠れて身を潜めていたけれど、どうやらウェアウルフの方が一枚上手だったようだ。後ろからグルグルと声が聞こえたと同時に襲い掛かってきた。
アレン先生は素早く横に転がり攻撃を躱す。私は前のめりで倒れ込んだのでなんとか一撃は躱せたわ。
そして振り向きざまに痺れ粉の塗ってあるダガーを投げつけた。ウェアウルフはダガーを手で弾こうとしたが肉球に少し掠ったようだった。少し血が出ている。アレン先生がその間に剣を抜いて斬りかかった。
長い爪で剣をいなす。そしてウェアウルフはそのままアレン先生に噛みつこうとした時、ファイアボールを口に向けて繰り出した。
ドゥーロさんと同じように魔法を使っているわ。対人戦でのみ有効な方法だと思っていたけれど、こういう時にも使えるのね。私は感心していると、
「ロア、感心していないで攻撃を」
「はいっ」
私は素早く剣を鞘から抜いてアレン先生が避けた瞬間に斬りかかる。ウェアウルフの隙をつけたようで深く傷を入れる事が出来たようだ。斬られた箇所を庇うように前かがみになった所をアレン先生が背中から斬り、倒すことができた。
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