第73話

「オットーただいま」


「お帰りなさいませ。お嬢様」


「ファルスはもう帰って来たのかしら?」


「いえ、まだクラブ中だと思われます」


「そう、じゃぁ先に湯あみをしたいわ」


「承知いたしました」


 私は部屋で暫く待っていると、湯浴みの準備ができ、ゆっくりと湯あみを楽しむ。後期の授業も始まったわ。後はいつも通りやるだけね。私が湯あみを終えてゆっくりと果実水を飲んでいる間にファルスは邸に帰ってきていたみたい。従者の服を着て部屋に来たと言う事は急いで汗を流してきたのね。


「ファルスおかえりなさい。久々の騎士クラブはどうだったの?」


ファルスはニヤリと笑っている。


「あいつらがどうなったのか聞きたかっただけだろ?」


「ふふっ、何のことかしら?」


「今日、久々に行ったら半数も居なかったぜ。一、二年生は殆どいたが、上級生の半数以上は脱落したっぽいな。騎士クラブに復帰してきた先輩達は人が変わったような感じだったぜ?どんな修行をしたんだか」


「あら、脱落した人達はどうなったのかしら?」


「一応まだ騎士科にはいるらしい。ただあいつらって貴族のボンボンが多いから卒業したら領地で働くんじゃね?騎士として働こうにも王宮騎士団の評価は低いから騎士になったとしても役職は望めないだろうって言っていたぞ、先生が。俺も騎士団長に直々に鍛えて貰いたいなぁ」


 ファルスにとっては修行に出掛けた先輩たちを心配するより現役の騎士団員と混ざって野営をしたかったようだ。そして憧れの騎士団長と魔獣を討伐するのが羨ましかったのだと思う。


それにしても半数以上脱落ってどうなのかしら。腑抜けも良いところだわ。


「まずはレコに一対一でいい勝負する程の実力が無ければ騎士団長に相手にしてもらえない気がするわ」


「俺もそう思う。レコって飄々としている割にめちゃくちゃ強いんだよな」


「そうね。久々に村に帰ってレコに相手をしてもらったのにあれだけの差がまだあるんだもの。悔しいわ」


 私達は村に居る間、レコに指南を受けて帰ってきた。翌日から自分たちの動きを確認しながら基礎鍛錬を行い、学院で授業を受けてから午後は勉強と王宮通いをする。ファルスは騎士クラブで同級生と騎士団直伝の訓練を行った。




 そうしている間にニ年があっという間に過ぎた。私達は最上級生になり、サラは去年学院に入学してきた。入学する一月前に侯爵家に帰って来たのだが、我儘は健在でメイドに当たり散らしている様子を時々見かけたわ。


ただ、いつも甘えていた母が居なくなり、殿下から注意を受けた事もあり、次は無いと思っているのか私に突っかかってくる事は無かった。


 そしてサラが過去に行っていた事が未だ後を引いているようで学院には馴染めていないらしく、貴族食堂で一人食事をしている姿を見かける事がある。


こればかりは仕方がないわ。


 やらかした事を今更無しにする事は出来ないのだもの。卒業までは厳しい目に晒されると思う。けれど、サラは侯爵家の跡取りではないので卒業を待たずに結婚する手が残っている。


実際、預け先であった子息と仲良くなり嫁に迎えてもいいと返事が来ているらしい。サラも悪い気はしていないらしいので成人すればすぐにでも婚姻するかもしれないわね。王都に残っていても評判の悪い娘を嫁に貰ってくれる貴族なんてたかがしれているもの。


まぁ、その辺は私も同じような感じだけれど。


 私もファルスも四年生になり、就職が目前に迫ってきている。結局ファルスは闘技大会を二度目も優勝し、王宮騎士団のスカウトに二つ返事で答えたわ。


 そうそう、一度優勝すると陛下にお願い事を言えるけれど、二度目は無いんだよね。学生だから優勝金もない。ファルスは王宮騎士団に入るのも決まったことだし、賞金がないので今回は参加しないと言っていたわ。


卒業するまで穏やかな気持ちで過ごせるみたい。


 騎士クラブはというと、ファルスは下級生からかなり人気があるらしく、入部希望者が増えたのだとか。それを見にくるご令嬢達も増えて騎士クラブは大盛況らしい。令嬢の半数はファルス目当てじゃないかと専らの噂よ。


私はというと、いつもと変わらずアルノルド先輩やイェレ先輩の研究所に入り浸って、週末はファルスとギルド依頼をこなしてついにCランクからの卒業が出来ました!ここからランクが上がるのが一気に難しくなるのよね。王都付近の活動ではなく遠征もたまにあるの。そしてBランクまで上がったし、最終学年まで来たのでレヴァイン先生に手紙を送った。


 先生は今東部の村にいるらしいわ。侯爵の許しが出たら一緒に冒険者として様々な地域を見て回ろうと返事が返ってきたわ。私はレヴァイン先生の手紙を持って父に話をすると渋い顔をしていたけれど、了承してくれた。


私もファルスも夢に向かってもう一息だわ。



 アルノルド先輩はというと研究に明け暮れている。発明品や新しい素材の研究で着実に名声を得ている感じで今や有名人になりつつあるわ。イェレ先輩は騎士団と一緒に魔獣の討伐にしょっちゅう出ているらしい。村や街で対処出来ない魔獣を騎士団が討伐するのだけれど、スタンピードの前触れだったり、ドラゴンの出現時に優先して討伐に出されるらしい。イェレ先輩の強さは規格外だから仕方がないわよね。


 そしてクラスも最上級生となるとみんな授業も殆ど無いので就職に向けて時間を費やしている。


シェルマン殿下とエレノア様は結婚式に向けて忙しくしているようで学院には殆どこないわ。殿下やエレノア様の側近として側に居た方々もほぼ王宮にいるのでクラスはかなり閑散としているのよね。そして四年生ともなると卒業試験は希望で早めに受けていいらしい。授業もほぼないので試験はそう難しくはない。


 魔術大会で騎士科以外の生徒は研究発表があるので早めに試験を受けて残りの期間は研究に当てる人も多いのだとか。私とファルスは最終学年でやることもないので必然的にギルドの依頼をこなす事になる。


騎士クラブも最上級生は出たり出なかったりと出席については軽いらしい。ただファルスは下級生から慕われていて毎日来て欲しいと言われているのだとか。『騎士クラブでファルスを待っている人は沢山いるのではないの?』と何気に聞いてみると『お嬢様は一番の優先事項なのでクラブの事は気にしなくていいです』とあっさり言われてしまったのよね。


 ファルスが従者として活動するのは今年が最後。来年からは王宮の独身寮に住むらしいわ。寮に住んだらイェレ先輩達が休日にファルスの部屋に入り浸っていそうな気がするわ。そう考えながら部屋でファルスにお茶を淹れて貰っていると、アンナが手紙を届けてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る