第64話

 そうして試験も無事に終わった。結果はというと、私が四位、ファルスは七位となった。闘技大会で私より勉強時間が少なかったのに大健闘だと思うわ。もちろんこの結果もビオレタとユベールには手紙に書いたわ。二人はとても喜んでくれているの。

 そうそう、手紙にはテラの事も少し書いてあったわ。レコの厳しい指導で剣の型をひたすら体に覚えさせるのと村のボアと追いかけごっこをして夕方にはクタクタになって晩御飯を食べたらすぐに寝てしまうらしい。頑張っているのね。



 そうして迎えた前期長期休暇。私は休みの間にランク上げをしようと思っているの。ポイントもあと少しでCランクにあがるのよね。ファルスはというと、一緒にギルドでランク上げをするみたい。騎士クラブのメンバーの大半は休暇中野営に出ているからやることが無いのだとか。


「マーロア、アルノルド先輩から手紙が来ている」


 ファルスはそう言って従者モードに切り替えて手紙を私に渡した。手紙の内容はというと、休暇中暇だろう?素材集めを手伝ってくれ。ランク上げもついでに手伝う、と書いてあった。私はすぐに返事を出す。勿論返事はOK!父もオットーも私が休暇中は討伐に向かう事を許してくれたわ。

ファルスが同行するならと。私だけでは駄目らしい。ちょっと悔しいけれど、まぁ、仕方がない事だと思って諦めている。言っておくけれど、私はファルスより強い自信はある!多分。


力では負けるけれど、その分技術では勝っているはず。



 私とファルスは朝にアルノルド先輩の元を訪れた。予め先輩が門番に連絡してくれていたのでスムーズに王宮に入ることができたわ。


「アルノルド先輩、お久しぶりです」

「二人とも久しぶり。元気だったか?二人の事は耳に届いているよ。ファルスは闘技大会優勝したんだろ?おめでとう。その後、マーロアは伝説を作ったんだろ?凄いな」


 アルノルド先輩はクククッと笑いながらそう言った。伝説を作ってしまったのね、王宮錬金術師に伝わる程の。ちょっと恥ずかしい。


「さて、早速ギルドに向かうか。確かマーロアはあと十ポイントでランクがCになるんだったな。ファルスはあといくつだ?」

「俺も同じです」

「じゃぁ今回の依頼を取ればランクが上がるんだな」


 アルノルド先輩はギルドに到着すると、北部の村方面の依頼書を手あたり次第取っている気がする。全て狩る気なのかしら?ファルスもそれが気になったようで先輩に聞いている。


「手あたり次第取ってどうするんですか?」

「ん?手当たり次第に見えたか?まぁ、確かにそうだな。殆どが採取だぞ?討伐はブラッドベアやブラッドツリー、キングボア位だ。二人ならそう難しくはないだろう?あと、北部に向かう前に武器屋に寄るぞ?」


 私達は束になった依頼書を受注してから武器屋に向かう。前回レコと行ったお店とは違うみたいで工房通りの一番片隅にある看板のないお店にアルノルド先輩は扉を開けて入ろうとしていた。


「先輩ここは?」

「イェレが紹介すると言っていた武器屋だ。まだ武器を新調していなんだろう?」

「やった!」


ファルスのテンションは一気に上昇したようだ。


「マージュ、いるか?」

「ああ、アルノルドかい。今日はどうしたんだい?」


店の奥から出てきたのは三十代位の女の人だった。


「イェレから連絡があったと思うが、この二人に剣を作って欲しいんだ」

「あぁ、イェレの子飼いだっけ。いいよ、二人ともこっちへおいで」

「まぁ、子飼いではないが、あながち間違いでもないな」


 アルノルド先輩はフッと笑っている。私達は否定する訳でもなく、カクカクと頷き、マージュさんの前に立った。


「どれ、剣を見せておくれ」


 私とファルスは名前を言うと共にヴァイキングソードとグラディウスをマージュさんに手渡した。すると、マージュさんは剣を舐めるように眺めている。


「ふぅん。初心者の剣にしては丁寧に使われているね」

「これでドラゴンを屠ったんだ。俺の剣とダメージが違ったと。ドラゴンを一振りで倒せるような剣を打って欲しいんだが」


アルノルド先輩が横から口を開いたかと思ったら、とんでもない事を言っているわ。


「ちょっ、先輩。一振りで瞬殺出来るわけないですよ」


そこはファルスも思ったみたい。


「お前たちなら出来るだろう」


さも当然のように言っている先輩にこっちが驚く。


「んーそうさね、この武器ではドラゴンってなるとちょっと厳しいな。【透視】」


 マージュさんは剣に魔法を唱えた。マージュさんや一部の武器や防具を作る人達しか使わないという魔法らしい。倒してきた敵や倒す様子が映像のように剣から流れ込んでくるのだとか。剣の記憶を元に剣を打つために必要な情報らしい。鑑定とはまた違った魔法のようだ。


「剣が出来るまで三か月ってところだね。それまではこの剣で戦うんだろ?研いでおくわ」


 そう言ってマージュさんは魔石の砥石で魔力を込めながらシャッ、シャッとその場で剣を研いでくれたわ。戦闘で出来た剣の傷を修復し、新品、いやそれ以上の輝きを放っている。


「二人とも防具はダンジオンの爺さんが作っているんだね。二人とも若いのに爺さんに作ってもらえるなんて珍しい。大事に扱いなよ」


 マージュさんはそう言いながら私達に研いだ剣を返してくれた。魔力を使って研いだ剣は砥石で研ぐのとは全然違うみたい。私もファルスもマージュさんにお礼を言う。


「さぁ、武器も頼んだ。北部へむかうぞ」

「「はい」」


 私達は武器屋を出て、北部へと向かう馬車に乗り込んだ。目指す北部の村はここから丸1日ほど掛かる。街道を通るので安全で早く着く。束になった依頼書をこなすには何日かかるのかしら?と、ふと考えた。

 オットーには出掛けてくると言ったけれど、数日帰らない事は伝えていなかったわ。きっと王都周辺で狩りをしているのだと思っているに違いないわ。


「ファルス、きっとオットーは王都周辺で狩っていると思っているわよね?今から魔法便だして怒られないかしら?」


馬車に揺られながらちょっと不安になり、ファルスにそう言うと、


「大丈夫だよ。ギルドを出た時に俺がオットーに鳥を飛ばしておいたから。『気を付けて行って来てください。旦那様には後でお伝えしておきます』って返ってきていた」

「さすがファルス。ありがとう」

「問題はなさそうで良かった」


 私達を乗せた馬車はカラカラと街道を進んでいく。乗客は座席の半分程埋まっていたが、皆村に帰る人ばかりだったようで車内はのんびりとした雰囲気だ。

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