第44話
そして迎えた舞踏会当日。
私とファルスは朝の鍛錬後すぐにお城へと向かった。しっかりと昨日は休んだので私もファルスも魔力も体力も満タンだわ。さすがに今日はいつも付けているリストバンド類は外しているので体も軽い。
「ファルス、久々に手足が軽いわね」
「そうだな。久々だよな。でも、今日は絶対ぐったりする予感しかない」
「私もそう思うわ。だって初めての警護だものね。それに注目だってされているだろうし。嫌だわ」
「お願いという名の命令じゃなければ絶対俺、出なかったのに」
「私だってそうよ」
「まぁ、給料出るし頑張るしかないな」
「そうよね。頑張るしかないわね」
そうして城に着くと私達は別々の場所に案内される事になった。ファルスはどうやら騎士団の詰め所に向かうらしい。私はというと、用意された客室に案内された。どうやらここから王宮侍女達に磨き上げられ、ドレスを着る事になるらしい。
自分の邸にある部屋よりも大きな部屋に入ると、部屋の中央には薄ピンクのドレスが鎮座していたわ。私の既製品のドレスは原型が分からないほどカスタマイズされていた。
上品なレースがそこかしこに付け加えられており、少女が着るような可愛さと大人の上品さを併せ持った素晴らしい一品になっていたの。
元を知っている私はとても嬉しい気持ちになったわ。王宮の針子はやはり素晴らしい人達なのね。私は1人、興奮していると、侍女達がワラワラと部屋に入ってきた。そこで私はすぐにお風呂に入れられて頭の先から足の爪先までしっかりと洗われてマッサージも徹底的にされていく。
人に肌を晒すのはやはり恥ずかしい。それにマッサージはかなりの激痛だった。なんでもデコルテを綺麗に見せるためとか小顔にするためとか色々説明されたのだけれど、痛みで意識が飛んでいたわ。
「……マーロア様、準備が整いました」
意識を飛ばしている間に王宮の侍女達は頑張ってくれていたみたい。鏡に映っていたのはどこかのお姫様だった。
「凄いわ!別人みたい。とっても嬉しいわ。皆さん有難う」
私は嬉しくなってクルリと鏡の前でターンしてみた。
「マーロア様の地が良いのですわ」
侍女達がにこやかに褒めてくれたわ。そして私は装飾品を侍女に渡す。
「今日はこれを着けて会場に入るわ」
私は誕生日プレゼントを小箱から取り出し、邸から持ってきた装飾品と一緒に着けることにした。ネックレスは小ぶりな物を選んだわ。あまりジャラジャラ着けるのは動きにくいし。そして足にはしっかりとダガーを装備している。
……刻々と迫る舞踏会の時間と共にドキドキと緊張もしてきた。
着飾り終えると侍女はアルノルド先輩が待つ場所へと送ってくれた。通路には今日の舞踏会に参加する人達がチラホラと歩いている。着飾った人達を見ると心まで華やかになった気分になるわ。
「アルノルド先輩。お待たせしましたか?」
「今来たところだよ、マーロア。今日のマーロアは美しいな。普段も美人だと思うが、今日はしっかりとエスコートしなければ横から攫われてしまいそうだ」
「ふふっ。アルノルド先輩お褒めいただき有難うございます。先輩もいつもと違う雰囲気でとても素敵ですわ」
普段のアルノルド先輩は寝ぐせが付いていようが構わないというスタンス。つまり、外見にこだわらず研究に没頭する人なのだが、今日は侯爵子息。髪を整え、紺色のタキシードでばっちりと決まっている。
改めて見るとアルノルド先輩はかなり女性にモテるのではないかしら。研究馬鹿な所が令嬢達をドン引きさせて近づかせないのかもしれないわね。
私は先輩から差し出された手を取り、会場へと入っていく。
「アルノルド・ガウス侯爵子息、マーロア・エフセエ侯爵令嬢、ご入場です」
会場の案内人が入場の知らせを入れると会場の中に居た人達の視線が一気に集まった。好奇や興味といった視線を感じるわ。
「せ、先輩。皆が見ていますわ」
「あぁ、問題ないさ。みんな君の美しさに驚いているんだろう。君は深窓の令嬢という噂だったからな」
「ふふっ。深窓の令嬢ですか?」
私達は仲の良い様子をおもわせるように話をしていると一組の夫婦が話しかけてきた。
「君がマーロア嬢か。いつも息子の研究の手伝いをしていると聞いているよ」
どうやらアルノルド先輩の両親だったようだ。
「私こそ先輩にいつもご迷惑ばかりをおかけしております」
「アルノルドったらいつも錬金にしか興味がないと思って私達は諦めていたのよ。女の子をエスコートする日がくるなんてっ」
アルノルド先輩のお母様は既に涙目になっているわ。お父様も少し目が赤いわ。そんなに心配していたのかしら。私は心配になりアルノルド先輩に視線を向けると先輩はどこか照れたようなしぐさで困っていた。
「もういいだろ」
「ふふふ。そうね。2人の邪魔してはいけないわね。マーロアさん、アルノルドを宜しくお願いしますね」
2人はそう言って別の貴族達への挨拶をしにいった。
「先輩、愛されていますね」
「……そうだな。恥ずかしいな」
先輩の恥ずかしがる姿をみて家族っていいなと少しばかり考えてしまう自分がいた。
「これより舞踏会を開催致します。陛下並びに王妃殿下、王太子殿下並びにアイラ・サーロス公爵令嬢様、第二王子殿下並びにグレース・ジェンキンス侯爵令嬢様、第三王子殿下並びにエレノア・ノイズ公爵令嬢様、入場!」
陛下達が入場し、王族席へと立ち挨拶している。ここから私の警護が始まるのね。アルノルド先輩と目配せをして所定の位置に着く。
シェルマン殿下達のダンスが始まったわ。なんて素敵なの。お姫様と王子様が踊るダンスは息が合っていて情熱的で見惚れてしまうほど素敵なダンスだったわ。
「素敵なダンスでしたね」
「ああ、そうだな。殿下達のダンスは終わった。私達も踊ろう」
アルノルド先輩はそっと手を差し出してくれた。私は手を重ねて殿下達のいる付近まで歩き場所を確保し、曲の開始と共にダンスを踊り始めた。
レヴァイン先生達と踊る練習をしていたけれど、上手く踊れるかとても心配だった。けれど、アルノルド先輩のリードはとても上手でスルスルと踊れている気がするわ。
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