第20話
「おはようございます。マーロアお嬢様」
ファルスの起こす声で目を覚す。
「もうそんな時間?早く用意していきましょう」
私はいつものように飛び起きてさっと着替えると鍛錬場へと向かった。レコは訓練場で既に座って待っていた。
「遅いですよ、お嬢様」
「ごめんなさい。そうだ、レコ。今日非番でしょう?私達学院の買い物に出掛けるのだけど、一緒に剣を見て欲しいわ」
「賭博をしに行こうと思っていましたが、仕方ありませんねぇ。ついて行きますよ。では朝の鍛錬を始めますよ」
そうして走り込みから始まり、腹筋、スクワット、腕立て伏せを行ってからファルスと打ち合いをして朝の訓練を終えた。もちろん朝食は部屋で取ったわ。あの後、家族の誰かが私の所に不満を言いに来ることはなかったわ。父もあの後、妹達を叱らなかったのだと思う。
訓練を終えた私達はシャツとズボンに着替えて帯剣する。もちろんファルスもレコも同じように庶民の服に帯剣していて準備はばっちり。前回はアンナがいたので侯爵家の馬車を使ったけれど、今回は歩きで街に出る。
買った品物は直接寮に送るように手配されるので手ぶらで行って帰ってくればいいらしい。そうそう、余談だけれど、領地と邸のやり取りをする郵便魔法は送る場所が固定されているから使える方法なの。
それに生きたものの類は送れないのと送る重さも決まっているの。自分たちが好きなように移動出来ないのは残念な所。魔力量が関係しているらしいのだけどね。きっと王族や国一番の魔術師位になると転移は出来るのかもしれない。
魔法紙は前に説明した通り。小さな手紙類を送るための物、1、2回で使えなくなる代物。あと、珍しいけれど、魔法でメッセージを送るという事は出来るらしい。鳥などの形を作って一言乗せるだけというもの。
色々な方法があって奥深いわ。
「お嬢様、まずあそこの洋服で制服を準備するそうですよ」
ファルスが指さした場所は少し広い会場になっていて平民達が制服を買い求めている様子。私達もその列に加わって制服の採寸を手早く行った。どうやら仕上がった制服は寮に届けてくれているらしいのでさっさと次の買い物に行く。
もちろん私は学生用の騎士服が制服となるみたい。ずっとズボンで過ごせることに少しほっとしたわ。ドレスのような物が制服だったら動きにくくて仕方がないわよね。あぁ、貴族令嬢はお淑やかでゆっくりと歩くのが当たり前なんだったっけ。
次に来たのは雑貨が置いてある商会。
「ここで筆記用具や寮で使う小物を買うのね」
私とファルスは使い勝手のいい物を選んでいく。学院の資料に寮にはお茶を沸かせる程度の簡易的なキッチンとバス、トイレがあった。もちろんバス用品とトイレ用品もしっかりと購入したわ。
本当は寮に備え付けの最低限の物だけを使おうと思っていたのだけど、出発直前に父が侯爵家の人間として恥ずかしくない程度の物を揃えなさいってお金をくれたの。
ファルスはというと自分の給料から買うみたい。どれくらい貰っているの?って聞くと結構貰っているぞと答えるだけだったのよね。クッ、やはり貧乏人は私だけのようだ。
「後は魔法屋ね。私初めて行くからドキドキするわ」
「そうですね。お嬢様は魔法を使いませんからね。村にも無かったですし、じっくりみていきますか」
少し歩いた所に古ぼけた怪しい店が見えた。
扉をギギギと開けると、そこは広い店内に所せましと並べられた不思議な品物が沢山置いてあった。
「おや、魔術師科の生徒ではないねぇ」
「えっと、騎士科なんだけど、このリストに書かれている道具を買いに来たんだ」
ファルスは店員のおばあさんにリストを見せるとすぐに道具を出してくれた。
「お嬢ちゃんは魔力なしかい?なら、これを買っていきな」
取り出したのは遮蔽瓶に入ったクリームのような物だった。
「おばあさん、これは何かしら?」
「これは傷薬さね。魔法が使えないお嬢ちゃんでも塗ればすぐに傷が治るよ」
「ありがとう。村では薬草をすり潰して貼ることしかしていなかったの。これなら緑色にならないし、臭くないわ」
私は早速鞄にしまった。これは是非とも持ち歩きたい代物。魔法で治癒するのは出来るのだけど、それだとバレてしまうもの。
ファルスがいればファルスが掛けてくれるので問題はないけれどね。
私達はおばあさんにお礼を言って次の武器屋へと向かった。
「レコ、剣って新調した方がいいのかしら?」
「そうですねぇ。お嬢様もファルスも長年使っていますからね。良いのがあれば買った方がいいですね。侯爵様から費用も貰っているのだからここは良いものを買うべきかなー」
「俺、刃こぼれしている部分もあるから新しいの欲しいんだよね」
よし、せっかくレコと一緒に王都の武器屋に来たのだからアドバイスを聞きながら買うわ。
武器屋に入ると、剣や斧、槍など様々な物が陳列されてあった。何となく斧を手に持ってみたけれど、私には重すぎたみたい。ファルスもその姿を見て笑っている。
「レコ、私はどんなのがいいのかしら」
「俺も!俺も聞きたい」
「えー、面倒ですが見てみますか」
「ファルスは魔力を乗せて叩き切るようなスタイルになっていくだろうからこれでいいんじゃないか」
そういって差し出したのは初心者用グラディウス。柄の部分に魔石が埋め込まれていて魔法を込める事が出来るいわば魔法剣。値段はピンキリならしい。まだまだ初心者のファルスにはそれほど高い物は必要ないようだ。
「お嬢様は、素早さを活かした剣が良いですね。軽くて剣が硬く、切れ味の良い物かな。これなんかどうです?」
レコが手に取ったのはヴァイキングソードと呼ばれる刀身の長い片手剣。それと小さめの投擲用ダガーナイフ3本だった。
「お嬢様は投擲も練習した方がいい気がするんですよね。なんかカッコいいでしょう?」
確かに私自身ファルスに比べると力は足りないと思う。身体強化によってファルスを超えるけれど、素早さを活かしたものがいいと思う。それと投擲か。
レコに差し出されたダガーナイフを握ってみる。小さい分手にしっくりと馴染んで投げやすそうだわ。きっと毒や痺れ薬を塗って投げるといいのよね。でも、魔獣に投げたら食べられなくなってしまうから余程の事がない限り投げるのは駄目かしら。
もしかして対人戦用?お茶会に出没する悪い奴に投げるのかしら?自分が投げる姿を想像してみてみる。
……いい感じかもしれないわ
「レコ、レコが選んでくれた剣とダガーナイフを買うわ」
私とファルスはレコの選んでくれた武器を買うことにしたの。新しい武器にとっても満足。ウキウキと鞘の飾りを選んでいると、レコが聞いてきた。
「ファルスもお嬢様も剣を買うのはいいですが、防具はどうされるのですか?」
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