第16話

「アンナ、少し疲れたわ」

「そうですね。では先ほど話をしていた洋菓子店へ向かいましょう」


 アンナに案内された店はカップケーキが美味しいと有名なのだとか。

 お店に入ると、そこには焼きたての甘い香りと紅茶の香りがした。店内は貴族や平民でも裕福そうな人達がお茶を飲んでいる。


「ファルスはどれがいいかしら?」

「お、俺も食べていいのか?」


 ファルスはちょっと驚いた様子だったけれど、商品を見ながら喜んで選んでいる。


「もちろんアンナも選んで頂戴。今は3人で食べたい気分なの」


アンナは少し眉を潜めたけれど、了承してくれたわ。本来なら使用人と食べる事なんてないけれど、田舎者だからって事で。

 私はオレンジの入ったカップケーキファルスは生クリームという白い物が沢山付いているケーキ。アンナはフィナンシェという焼き菓子を注文した。紅茶も冷たい紅茶を頼んだわ。


「マーロア様、あと、行きたい所はございますか?」

「平民の服が置いてある所にも行ってみたいわ。明日、ファルスに付いていく予定なの」

「平民の服、でございますか」


 アンナは少し考えた所で分かりましたと返事をする。アンナは頭の中に地図を広げていたのかしら。3人で美味しくお茶をした後にアンナは少し歩きますが、と貴族街と平民街の境目にある洋服店へと向かった。

 どうやら平民街はアンナ自身、歩いても平気なのだが、王都に慣れていない私ではカモにされるのがオチなのだとか。


今回は安全面を考慮してその店になった。アンナが案内してくれた店には男物の服も売っていたので一緒にファルスの服も買うことにしたわ。

 ファルスは『俺は服であれば何でもいい』と適当に選んでいたので私が代わりに明日のための動きやすい服装を選んだ。私もズボンとシャツ、カバンと靴を一式買う。アンナには『女の人がズボンを履くのは乗馬のみです。はしたない』なんて言われたけれど、こればかりは引けないわ。

まぁ、合格したら色々と買う事になるだろうからアンナには教えてもいいかもしれないけれど。ここの服は自分たちの小遣いで買える程の服だったので自分で買おうとしていたらドレスを買うお金が沢山余っているから支払いは大丈夫ですと出してくれたわ。



 家に沢山の荷物と一緒に帰って来たのだけれど、誰も私達に目を止める事も無くスムーズに部屋に荷物が運ばれていった。その日の夕食は侍女長の計らいで『お嬢様は買い物で疲れたようなので部屋で夕食を頂くそうです』と話してくれたみたい。


もちろんだーれも反対しなかったわ。おかげで私とファルスは部屋で明日の試験の見直しに時間を取る事ができて良かった。




翌朝。


「では、行ってきますね」


 専任の従者であるファルスの学院受験には主人である私が行く必要があると告げてさっさと邸を出た。もちろん髪を一つに結い、シャツにズボン、帯剣をして。オットーは家令のユベールから報告を受けていたようで私が淑女科ではなく騎士科を希望している事を知っていたようだ。今日の試験に臨む事も分かっていたようで持ち物を準備してそっと玄関前で渡してくれたの。


侍女長は朝から私の長い髪を邪魔にならないように1つに結い上げてくれた。使用人達は私に色々としてくれたけれど、当の家族は私に関心はないらしく、廊下ですれ違っても何も聞かれなかったわ。私が出掛ける事も知らないのかもしれない。

それでいいのかしら?と少し不安になるけれど、今更関心を持たれても困るしこのままが丁度いい。



 私とファルスは学院まで馬車で送って貰った。学院前には私達と同じ年頃の平民が沢山いるわ。


「試験を受ける方はこちらです!」


門をくぐると案内の教師が声を張り上げながら手を挙げている。


「ファルス、あっちが試験会場ね。行きましょう」

「おう。迷子にならないようにな」


 私達はゾロゾロと校舎に入っていく人達の後を一緒についていった。ここから30人はAクラスへ、次の30人はBクラスへというように受験生は各教室に振り分けられて入っていく。


私とファルスは隣同士で別れる事無く教室へ入る事が出来たわ。


 暫くすると、試験官が教室へ入ってきて受験票を配った。そこに必要な情報を記入していく。どうやら平民は戸籍が無く、場合によっては住所も転々としていたり、村から出てきていたりするので予めの手続きは出来ないらしい。


当日に試験を行い、当日合格かどうかの結果発表。そこから寮の手続きなどが始まるらしい。1日で全部済ませてしてしまうようだ。

ただ、成績上位の優遇制度は後日発表されるらしい。魔法郵便で上位成績かどうかの知らせを貰うのだとか。紙には合格した場合、通学は家か寮を選択する箇所があった。私達はとりあえずランロフト村の住所を書いて寮希望にチェックする。


 試験官が問題用紙を配り、時間と共に『はじめ!』と声がかかった。私は前もって先生から勉強を教えて貰っていたけれど、どんな難しい問題が出るのかとドキドキしていたのよね。内容をみて驚いたわ。とても簡単なんだもの。あまりの簡単さに笑いが出そうになったわ。


すぐに全問解き終わってしまった。私は手を上げてテスト用紙を試験官へと持っていく。その場で試験官は採点し、受験票に筆記試験合格のハンコを貰った。ファルスも続いて出てきたわ。もちろん受験票に合格のハンコが押してあった。


「良かったわ!2人とも筆記試験合格できたわね」

「おう。思ってたより簡単だったな!俺、簡単すぎて吹き出しそうになったぞ」

「私も、私も!」


2人で興奮冷めやらぬ間に次の会場へと向かった。


 平民の殆どは淑女科への進学はない。文官や騎士、侍女等を目指す人達ばかりなのだ。そしてここから各適性検査に入る。私達は2人とも早くに教室を出たので空いている間に騎士科の適性検査を受ける事が出来そう。


「受験生、こちらへ」


私達は促されるまま受付へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る