第3話

「マーロア様に魔力が……。これは本当ですか?」

「うん。教会の魔法判定板に文字が浮かんでたもの。あっ、でもお父様やお母様には絶対内緒にしてね。私、村から出たくない。もう少し大きくなるまでここに居たいの。ユベールと離れたくない。神父様も神の思し召しだって言ってたし」


 私はただ漠然とだけれど、遠い存在である実父や実母と暮らすより、今の生活を変えたくないと思ったの。


「……畏まりました。お嬢様に無理強いはさせられません。侯爵様方には内緒にしておきます。ビオレタにも後で私から伝えておきます」


 そうして私は三日に一度、神父様の所で魔法の練習を行う事になった。


「神父様、勉強に来たよ」

「マーロア、よく来たのぉ。どれこっちへおいで」


 神父様はニコニコと白いお髭を撫でながらいつも使っている礼拝堂とは違う部屋へと案内された。その部屋は本が所狭しと置かれている。どうやら神父様の書斎のようだ。


「神父様、この部屋は?」

「あぁ、普段は使っておらんが執務室だった部屋だ。最近使っていなかったから埃だらけじゃのぉ。どれ、そこの椅子に座るといい」


私は興味津々に辺りを見回しながら神父様に言われた木の椅子に勢いよく座った。


「マーロア、お主はまず自分の魔力を感じる事から始めねばならんのぉ。どれ、手を出してみぃ」


 私は両手を神父様に差し出すと、神父様は手を取り、魔力を私に流しているようで神父様の掌から淡い光が出ている。


「マーロア、何か感じるか?」

「神父様、なんだか右手からじわじわと暖かい何かが流れ込んでくる。体の中であったかい物がぐるぐるしてて左手から出てるみたい」

「そうじゃ、最初から分かるなんて偉いのぉ。これが魔力じゃ。この魔力の流れを覚えて自分で体の中がこの流れになるようにする練習をせねばならんぞ?」

「うん。わかった!やってみる」


 そうして私は魔力循環を覚えるようにぐーるぐーると言いながらも魔力が動く事をイメージして練習を始める事、六年。



そう、気づけばもう六年も経ちました。



 私、マーロア十一歳は魔力循環を毎日寝る前に行い、剣術の稽古、淑女教育、神父様指導の元で教会でこっそり魔法の訓練に取り組んできました。

 その甲斐あって剣術はレコからも褒められるようになってきたし、淑女教育の基礎の基礎は出来ているとビオレタも褒めてくれるようになってきたの。


 肝心の魔法はというと、簡単な魔法なら問題なく扱えるようになったわ。でも攻撃魔法はまだ許可が降りていない。みんなに黙っていなければいけないので普段の魔法の練習は専ら教会の裏にある神父様の畑で土魔法を使って開墾し、水魔法で水を撒き、植物魔法で成長を促す。

 あとは書斎で清浄魔法を使って掃除をしたり、水魔法で水球を出してから極限まで小さくしたり、形を変える練習しているの。精度を高める練習なのですって。


結構出来ていると思うんだけどなぁ。


 ちゃんと神父様の言いつけを守って魔法が使える事を誰にも言っていない。そして練習も重ねたわ。

 身体強化や魔法を使うときに極力体外に洩れないようにするのと、魔法を使用すると淡い光が手の平の魔力を出している部分が光るんだけど、それを光らせないようにする事。あっ、あと、隠蔽魔法ね。


……これがまた難しい。今までやってきた魔法の練習の大半はこの練習じゃないかしら。


 最近、ようやく使いこなせるようになってきた身体強化の魔法を使うけれど周りは気づいていない様子。

 そうそう!ごくたまに魔力を見る事が出来る人がいるらしい。その人達から見ると薄っすらと分かるみたい。

 その場合はさっと魔力を一ヶ所に集め、小さくギュッと固めて体の奥深くに閉じ込めて見えなくするようにする。これがまた難しいのよね。集めて小さくするのは簡単なの。体の奥深くに閉じ込めるのが今の私の課題かな。



「マーロア、遊びに行こうぜ!」

「ファルス!行こう!今日は何処へ行ってみる?」


 魔物と初めて遭遇してからの私達は今まで以上に剣術を練習している。大きくなった分、行動範囲も広がり、村の外も遊びに出るようになったの。村の近くにはあまり強い魔物はいないし、魔物を気にせず歩き回れる位の強さにはなっているのよ?

 もちろん強い魔物を見つけたらすぐに逃げる術もちゃんと身につけている。ファルスも私も五年前の出来事をしっかりと覚えている。きちんと危険な事は回避出来るようになったんじゃないかしら。


 因みに六年も剣の鍛錬を続けていると弱い魔物は剣だけで狩る事が出来るようになっているわ。これは私達だけでなく村の子供たちにも言えるのだけどね。

 自分達で小さな魔獣を狩ってその場でシメて食糧として家に持って帰る。ビオレタは淑女にはほど遠いと小言を溢しているけれどこればかりは辞められないかな。


 普段、私の格好は女の子らしからぬズボンを履き、帯剣している。もう立派な女騎士だと思うのよね。長い髪も邪魔なので切ってしまいたいのだけれど、ビオレタからは貴族の令嬢は髪を切ってはいけませんって泣かれてしまうの。ビオレタの涙には勝てない私。


仕方がないので切らずに一つに結っている。

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