第4話 蒼の私

 生まれた時から、私の目は青かった。これは、蒼蔵家に関わった全ての人間、動物、植物にランダムに授けられる力の様なものだ。その力も様々で大昔の授力者力を受けた者は、治癒の力があったとか。今はその力も薄れ、青くなっても特に他の人と何も変わらないことの方が多い。でも私の場合は違った。

 この青い目は、見た人の感情が分かる力があった。だから、すぐに分かった。今目の前にいるこの人は、この動物は、この植物は、私の事が好きなのか、嫌いなのか。好きだったら、まだ安心できる。だが九割の人は、私のことを嫌った。笑ってても、好きだよと表面で言っても、本心は筒抜けだ。いつしか私は、友人と呼べる人は、だれも居なくなっていた。

 だが、幼稚園の時初めて友達ができた。いつも一人で遊んでいた私にその子は声をかけてくれた。

「ねぇねぇなんでいっつも一人でいるの?」

「だってみんな私の事、気持ち悪いって言うから...そんなこと言われるなら一人で居た方が良いもん」

「そうなんだ...じゃあ私と遊ぼ!」

「え...?」

「私、あおいちゃんとお話もしたいし仲良くなりたいな!あ!私は、菫っていうの!よろしくね!あおいちゃん」

 菫の言葉は本心だった。初めてだった。心から私と仲良くなりたいと言った人は。それから私は菫と遊ぶようになり、幼稚園も怖くはなくなった。だが、小学校に上がった時事件は起きた。菫と別れ、私は帰路を歩いていた時、

「お前、蒼蔵家の娘だよな!」

「え...」

 振り返ったが最後私は、仮面を被った男たちに攫われた。目的は、お金と身内しか知らないはずの不思議な力を持った人間。すなわち私だ。だが力のことについては、細かいことまでは知らなかった様で、私は"単に娘だから"という理由で攫われたらしい。両親がお金を持って来るまでの間、廃墟の様な場所にいた。恐怖と不安の中、一人の男の子の声が聞こえた。

「ねぇ...こんな所で何してるの...?」

「ひっ!だ、誰...?」

「あ...僕は、友達とサッカーしてたんだけど、飛んでいっちゃって...探しに来たんだ、見てない...?ボール」

「し、知らない...」

「そっか...でも、もうちょっと探してみるよ」

「そう...」

 男の子がボールを探す背中を目で追いながら、私は両親が早く来てくれるのを願った。早く...早く...。また涙が出そうになった時男の子が言った。

「ボール、ここにはなかったから僕は行くけど...、絶対に助けは来るから!これ...、お守り...」

 男の子は、ポケットから赤色のビー玉をくれた。でも、赤と言うよりは、少し違う気もする。

「これ...本当に赤色?なんか、オレンジにも見える...」

「よく分かったね!これ本当は朱色っていう色でちょっとオレンジがかってるんだ!太陽みたいで綺麗でしょ!」

「太陽...?」

「うん!太陽は、みんなを照らしてくれる光なんだよ!だから、暗い気持ちも嫌な事も全部明るくしてくれる、正義の色!僕の一番好きな色!」

 男の子の笑顔は、キラキラ輝いていてその赤い瞳に吸い込まれた。まるで、太陽がすぐ目の前にあるみたいで、不安を振り払ってくれるようだった。

「太陽みたい...」

「え...?」

「あなたの目!キラキラの太陽みたい!」

「本当!?嬉しいなぁ!でも、そういう君の目だって綺麗なお空みたい!」

「私の目が...?」

「うん!僕達、朝みたいだね!」

 二人で笑った。こんなに、心から笑えたのはこの時が初めてだった。しかも今日会ったばかりのこの男の子に、私は恐怖心など一切抱かなかった。むしろ...。

 バタバタバタバタ...!こちらに足音が近づいてくる。

「誰か、来る...!じゃあ僕は、行くね!またね!」

「あ...!」

 男の子は急ぐようにいなくなってしまった。その後、私は無事傷一つなく家に帰ることが出来た。だが、あの時の太陽の様な瞳と笑顔が頭から離れることは無かった。この事件があってから、私は自身のこの青の目を隠すようになった。それは、カラーコンタクトだ。普通の人の目の色に合わせてブラウンか黒。やはり、元の青はうっすり見えるが、これまでよりは全然良い。それからずっと、あの時の男の子を探している。貰ったビー玉は大切に小さな巾着袋に入れ、いつでも持ち歩いている。私の宝物だ。

「やっぱり...綺麗だな...」

 よく、ビー玉を光に照らして透き通る朱色を眺めている。これをすると、元気なれる気がするのだ。太陽に照らすと濃い朱色になり、月に照らすと、ぼんやりと薄い黄色みがかった朱色。一つのビー玉でも、光り方が違って味わいがある。でも、やっぱり1番好きなのは、あの男の子の綺麗な朱。

「やっぱり、好きだな...」

 だが、やっと見つけたあの男の子は、昔とはまるっきり違っていた。最初は、この人じゃないかもって思ったが、名前を見て、そしてあの瞳を見て確信した。あの時の男の子だって。

「ようやく、名前知れたのに...呼びたいな...朱夏君って...」

 実際彼とは、現在進行系で気まずい関係が続いている。今思うと私が悪かった。気持ちが流行りすぎたのかもしれない。でも、あっちもあっちであんな言い方はないと思うけど...。多方は、こっちが悪い。

「このままは、良くない...よね」

 まずは、朱家君とちゃんと話をして仲直りしなくちゃ。そして、私の事を知ってもらおう。あの時の感謝を...そして、実ってしまったこの別の気持ちを伝えるために。

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あかとあお ユキ @YUKI0205

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