第2話 転校生

 ...ジャンジャンジャン...

 耳元では、音楽が流れている。今日は、昼食は翠に奢ってもらったし、一緒に食べたので他の日よりは、比較的楽しかった。けど僕は、当然部活には入っていないので授業が終われば即帰宅がお決まりだ。夕日が沈みかけ、教室は橙色で染まる。急いで教室を出て、玄関に立つと、自分の下駄箱に何かが挟まっていた。

「手紙...?メモか?」

 ノートの1ページまるまるきれいに切り取られ、そこにたった一行でこう書かれていた。

 ...明日の昼休み、屋上で

 蒼蔵 碧...

「え!!」

 まさか、今日初めてあってこの先関わることはないと思っていた矢先、彼女の方からお誘いから来るとは思ってもみなかった。驚きが隠せない。とりあえず今日はこのメモを持ち帰り、明日に備えることにした。

 当日。昼休みになった。屋上は、カップルの集いの場と化しているので、行く気はしない。...が今日は、仕方ない。僕の教室は、二階。屋上は、四階。ゴールまでは、階段を上らなければならない。

「はぁ...だるいな...」

 教室を出て、階段を上がっていく。屋上へと続くこの階段は、不思議と別の世界に繋がっているかのように錯覚する。

 軽く、深呼吸をして...

 ガチャ...

 風が一気に吹き、前髪を揺らす。背の高いフェンスとそこに立つ少女が見えた。

「あ、来たね!」

 長い髪を揺らし彼女は、振り返った。嬉しそうにニコニコしながらこちらへと近づいてくる。バクバクバク...と心臓が高鳴る。

「君が朱家君で間違いないかな...?」

「う、うん...そうだけど...」

「良かったー!実は、昨日から気になってたんだよね」

「え...なんで?」

「だって」

 蒼蔵さんは、ぐいっと顔を近づけ、僕をまじまじと見た。前髪をそっとあげ、目を合わせる。

「こんなに綺麗な色を君は、持っているんだから」

 驚きと恥じらいとその他諸々の感情が入り交じり、僕の黒目ならぬ赤目は大きくなり、顔も赤くなっているのが分かる。会ってまだ一日しか経っていないのに、いきなりこんな状況下に置かれるとは思ってもいなかった。

「ふふふ...真っ赤っか!」

「...!からかいのつもりで、呼んだんなら帰る!」

「ああ!待って待って!ちょっとからかってみただけ、怒ったんならごめんね、謝るから、機嫌直して」

 袖を強く掴んで、離さない。振り払おうとするが、離れない。力が強いのだろか。

「機嫌...治った?」

「.........」

「治ってない?」

「.........」

「ねぇ、どっち?」

「.........えっと......」

「怒ってんの?怒ってないの?どっち!?」

 痺れをきらしたのか、掴んだ袖を左右に振り回し始めた。腕がはち切れる勢いだ。

「痛い痛い!怒ってない、怒ってないから!」

「なんだぁ、怒ってないならそう言ってよ〜!」

 屋上に唯一あるベンチに腰掛け、早速話の続きを始める。予想はしていたが、男女のペアが比較的多い。

「じゃあ改めて、私は昨日君のクラスに転校してきた蒼蔵 碧って言うんだけど...って知ってるよね」

「うん」

「でね、私朱家君のこと、友達から聞いて知ったんだよね...、確か...から...幹里...」

「幹里翠だろ」

「そう!幹里君!その人に、私と似た感じの名前の子がいるって教えて貰って...!でね、名簿を見たら、朱って文字が二つも入ってて!で!更に、さっき見せてもらったその目!もうっ!羨ましくて、羨ましくて!」

「はあ...」

「で!ここからが本題なんだけど!」

 彼女は、僕の手を取り言った。

「私とお友達になって欲しいの!」

「友達...?」

「そう!友達!」

「なんで...?」

「なんでって...そりゃ、君が...君が私の探し求めていた人...だからだよ!だから、まずは、お友達から徐々に...」

 何が、どうなっているのか混乱する。この子はこの人は、何を言っているんだろう。意味が分からない。友達になって欲しいとか、探していた人とかこれまでで一度も体験した事が無かった現実が降り掛かっている。こんな地味で冴えないモブBみたいなこんな男を、ヒロイン的な立ち位置の彼女が接近してくるなんて。正直...馬鹿にしてるとしか思えない。

「ごめん、はっきり言わせて貰うけど僕の事、馬鹿にしてるとしか思えない。友達になって欲しいとか、探してた人とか、どういうつもり?ずっと一人でいる僕に気遣ってるとか?情ならならいらないから」

「そんなつもりは...」

「それに、僕の目を見て綺麗だとか...僕は、この目のせいで...こんなに...」

 涙がポロポロ出る。泣くつもりなんてなかったのに。無意識の内に溜まっていたモヤが口から、目から、流れる。

「...あ、ごめん」

 蒼蔵さんは、下を向いたまま動かない。言いすぎたかもしれない。そっと、気付かれないように様子を伺うと、バッと勢いよく彼女は、顔を上げた。

「...え?」

 彼女は、涙を目に浮かべ今にも泣きそうだ。が、僕が驚いたのはそこでは無い。さっきまで黒かった彼女の目が青く染まっていたのだ。まるで、宝石をそのままはめ込んだみたいに美しい青だ。それは、僕が今まで見てきた青の中で、一番綺麗で透き通っていて僕が憧れたか"青"そのものだった。

「あ、えっと...本当にごめん...言いすぎた...だから...」

 ポッケからハンカチを取り出し、差し出そうとした瞬間

「蒼蔵さん!」

 バンッと強い音を出し、女子生徒が入ってきたのだ。眼鏡をかけ、ちょっと目付きがきつい。彼女は...僕らのクラスの委員長の紫崎しさきさんだ。

「朱家さん!あなたも!」

「え...」

「今、何時だと思っているんですか!授業とっくに始まってますよ!」

「あ」

 スマホを見ると、昼休みはとうに過ぎ一時間も経っている。

「ほら、行きますよ!あなた達が居ないせいで教室は、うるさくなってるんですからね!」

 引っ張られるがまま、教室に着くと女子からは歓喜の声が、男子からはヒューヒューと祝いの声で溢れていた。僕らは無言のまま、席に着き何も無かったかのように、何とか授業をやり過ごした。だが周りの声は、中々消えず散々な一日になってしまった。その後、僕は幹里につめに行き、奢りの約束をさせた。





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