あかとあお

ユキ

第1話 主人公『僕』と『あか』

 |いつもと変わらぬ朝。僕は、カーテンの隙間から外を見た。朝だよ!と言わんばかりの太陽が僕を見下ろしていた。朝から、最悪な気分だ。その気分を少しでも晴らそうと洗面台に行くと、僕の顔が映る。と言っても、前髪は目を隠し見えないに等しいが...。でも...それで良い。僕にとっては。僕の顔には、僕がこの世で1番嫌いな"パーツ"があるからだ。いや、細かく言うとそのパーツの色が嫌いなのだ(でも結局は、目自体も好きじゃないので)その"パーツ"を鏡に映さないように、顔を洗う。タオルで顔を拭き正面を向いたその瞬間、タオルの隙間から長い前髪から覗く"パーツ"が映った。それは、僕の"目"。そこから赤く染まった瞳が僕自身を映し出した。

「!!」

 僕は、すぐに前髪で目を隠した。少しは、良い気分だったのに、一気に冷める。

「最悪...」

 いつもは、食べる朝食も食べる気になれず今日は、朝食を食べずに家を出た。

 僕は、基本前を向いて歩くことは無い。下を向いて周りの音を遮断して登校する。それには、様々な理由があるが一つは、他の人を見ないようにだ。僕の目は、他の人とは違う。この真っ赤な目は、人を嫌な気分にさせたり、動物に敵意も向けられたりする。幼い頃からそうだった。最初は、珍しがって仲良くしてくれる人がいても、この目のせいで皆離れていってしまった。"気持ち悪い"と言って。だったら、この目を隠してしまおう、気味悪がられるなら一人でいた方がマシだ。僕は、高校生になった今でもその思いを心に刻んでいる。教室に着き席に座り、朝のホームルームまでボーッ外を眺める。すると、一人の時間を遮るように、誰かが僕の肩をたたいた。イヤホンを取り振り向くと僕とは、180度正反対のいかにもクラスの真ん中に居そうな男子生徒が立っていた。

「おはよう、あか!」

「...あぁ、翠か...おはよ」

 彼は、幹里翠からざと みどり。誰にでも分け隔てなく接するクラスに絶対一人はいるであろうムードメーカー的存在だ。彼とは、中学校の時から何故だかクラスが一緒で高校も一緒。幼なじみの様な腐れ縁というものなのか、僕の唯一の友人?知人だ。僕を、"あか"とあだ名呼びする。僕は、許した覚えはないがまぁ良いだろう。嫌いな色で嫌いな言葉だが、何故だか彼が呼ぶ分には、悪い気はしない。それは多分彼が平等だからだろう。

「なぁ、あか、早速で悪いんだけど...、今日提出の課題見して!ジュースとパン奢るから!」

「...またかよ...」

「お願い!!」

 翠は、パァンと両手を合わせ頭を下げる。そう、こいつは"馬鹿"なのだ。勉強面限定で。

「はい...」

「おおお!サンキュー!!」

 翠は、待ってましたと言わんばかりにプリントとシャーペンを僕の机に置き、高速で写し始めた。

「なぁ、翠」

「ん?」

「お前は馬鹿だけど、普通に良い奴だよな...」

「...?いきなりどした?それに"普通に"って余計だわ!」

「ペン止まってる、チャイムなるぞ...」

「あ!やべ!」

 再び翠は、ペンを動かした。すると翠は、再び口を開いた。

「そういえば気になってたんだけど、あかさ、昔はこんなに前髪伸ばしてなかったのに、どうして急にこんなイメチェンしたんだ?なんかあった?」

「いや、別に...たいしたことは...」

 翠の口から意外な言葉が出て、上手く答えられない。口を濁らせていると、チャイムが鳴った。

「うお!やべ!でも丁度終わったし、ミッション完了!サンキューな!」

「約束だからな」

「分かってるって、じゃあ昼にな!」

 翠は、そう言って自分の席へと戻って行った。緊張していた心臓が落ち着きを取り戻す。翠は、たまにあんな風に答えづらい質問をしてくるから緊張する。ガラガラガラガラ...担任が入って来たようだ。

 ホームルームでは、いつも通りのお知らせと担任から教科ノートが返された。

 "朱家 朱夏"《あかいえ しゅか》

 僕の名だ。朱が2つも入っている。だから、翠は、僕を"あか"と呼ぶ。朱。僕の嫌いな色。僕を不幸にした言葉。僕は、この名前で生きていかなければならない。

「嫌な名前...」

 憂鬱な気分になりかけた。心の中でため息をつき、ノートをしまう。今日のホームルームは終わりだろうと思い、次の授業の準備を始めた。

「じゃあ、ここで転校生を紹介する」

 担任は、嬉しそうに言った。クラスがザワザワと騒ぎ出す。どんな子かな...?女?男?可愛い?かっこいい?色んな話が教室内を飛び交い公の場に居るように感じる。どんな同級生が来たとしても僕には関係ない話だ。特に気にすることもなく準備を進める。

 ガラガラガラ...扉が開いた。

 クラスメイトの視線が一つに集中する。ふっと目を向けると、入ってきたのは女子のようだ。

「東京から越して来ました。蒼蔵 碧と申します。よろしくお願いします。」

 彼女は黒板に名前を書き、礼をした。

「えっとこの通り、あおって字が二つ入ってて、よく"あお"とか"あおちゃん"って呼ばれてました。みんなも気軽にそう呼んでくれると嬉しいです!」

 笑顔を向け、簡単を自己紹介をしていく。一瞬静まり帰った教室内だったが、一気に歓迎ムードに入った。

「よろしくね!」

「俺も、俺もみどりって呼んでくれていいぜ!」

 翠は興奮しているのか、それとも仲良くしたくてああ言っているのか、声が大きい。

 蒼蔵 碧 ...あおくら あおい。

 彼女の名前が羨ましい。素直にそう思った。青色の筆箱から青色のシャーペンを取り出し、器用に回す。だって僕は"青"が一番好きな色なのだから。青を見ると、心が落ち着く。

「では、今日のホームルームはここまで!あ、あと蒼蔵に誰か校内案内してやれ、以上」

 担任は、そう言って教室を出た。彼女の席は、後ろから2列目の廊下側。僕は、窓側なので反対側だ。

「ねぇねぇ、蒼蔵さん、東京か越して来たって言ってたよね、可愛いお店とかいっぱいあるんだよね!」

「うん、そうだね!あっちに居た時は、学校終わりとか買い物してたよ!」

「良いなぁ!まさに都会女子って感じがして羨ましいよ!」

「そうかな...?でも、ここも十分お店とかいっぱいあって楽しそうだと思うよ」

「いやいや、ないない!東京に比べたらここは田舎だよ!」

 彼女の周りは、早くも他の生徒たちでいっぱいだ。ここで確信した。彼女と関わることは、一切ないだろうと。





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