第八話 ~優花に予算会議の説明をした件~

 第八話





 桜井さんとのやり取りを終え、少しすると教室にはクラスメイトが少しずつ増えてきた。


 そして、登校時間の五分ほど前には全員が出席していた。

 うちのクラスは真面目な生徒が多くて優秀だよな。

 まぁ、この学校の校風は『生徒の自由を認める』だからな。


 自由を謳歌するためには、義務は果たさないといけない。

 遅刻せず出席して、真面目に授業を受けて、きちんとした成績を残す。

 その上で自由がある訳だからな。


 そんなことを考えていると、教室の扉がガラリと開いた。


「うーし。お前ら席に着けー」


 そう言って教室にやって来たのは担任の山野先生だ。


 先生が入ってきたところでSHRの始まりを告げるチャイムが鳴った。


「それじゃあSHRを始めるぞ。海野、号令だ」

「はい。起立!!」


 山野先生に即されて、俺はクラスメイトに号令を掛ける。


「礼!!」


 おはようございます。と声を揃えた後に、俺たちは着席する。


「よし。じゃあまずは連絡事項だな。今日の六時間目のLHRでは体育祭の実行委員を決める。男子二名、女子二名の計四人になる」


 山野先生はそう言ってSHRを始めた。


「希望する人間がいる場合はそれで構わない。だが、過不足があった場合はクジ引きになるからそのつもりで」


 先生の言葉に、クラスメイトが苦笑いを浮かべていた。

 もう何度もクジ引きのお世話になってるからな……


「そして、そろそろ部活動の予算会議の時期になる。これは帰宅部の連中にはあまり興味は無いかもしれないが、二年ほど前からオンラインで動画配信をしている。自分が納めている金がどう運用されているかが興味があれば見るといい」


 毎月500円を納めてるからな。年間にすれば6000円だ。

 決して少なくないお金だからな。


 特に予定も無いし、美凪と一緒に見てもいいかもな。


 もしかしたら、桜井さんも生徒会役員だから映る可能性もあるしな。

 それに、応援のコメントくらいは入れてあげてもいいかもしれないな。


「連絡事項はこのくらいだな。それではこれでSHRは終わりにする。一時間目の数学の時間まで自由にしてていいぞ」


 山野先生はそう言うと教室から出て行った。


「凛太郎さん、凛太郎さん。ちょっと良いですか?」

「ん……どうした優花?」


 山野先生が教室から出て行ったあと、美凪が俺の肩を叩いて呼んできた。


「私は予算会議のことをよく知らないんですが、一体何をするんですか?」

「あぁ……確かに縁が無いと知ることすらないよな」


 中学時代は生徒会をしてたからな。それなりに経験はある。

 俺はそれを美凪に話していくことにした。


「部活動の年間予算をこの時期に決めるのが予算会議なんだよ。そしてこの予算の元になってるお金は俺たち生徒が毎月500円を支払ってるものを使ってる」

「あぁ確かそんなお金がありましたね。と言うか、部活に入ってない生徒のお金を、部活をやってる生徒に渡してるのはちょっとモヤッとしますね」


「ははは。まぁそういう風に思う気持ちはわかるよ。だからこそ、きちんと予算の運用がされているかを、俺たちみたいな部活動をしてない生徒でも確認出来るように動画配信がされるようになったんだよ」

「なるほど。ちなみに凛太郎さんは見る予定ですか?」


 首を傾げながらそう尋ねる美凪に俺は笑いながら答える。


「そうだな。特に予定も無ければお前と一緒に見ても良いと思ってた」

「わ、私とですか!?」


 軽く驚いた美凪に俺は話を続ける。


「俺だって自分が納めたお金がしっかり運用されてるか見ておきたいしな。同じ時間を過ごすのは悪くないだろ?」

「そ、そうですね。パソコンの画面を二人で並んで見る。と言うのは少し距離が近く思えたので」

「今更そんなので……って思うのは違うのか?」


 キスだってしてるじゃないか。

 なんて言葉は飲み込んだ。


「違うんですよ。ふぅ……まぁいいですよ。一緒に見ていきましょう」

「実は私と幸也も予算会議に参加する予定なんだよね」

「……え。そうなんですか?」


 俺と美凪の会話に、奏がそう言って参加してきた。

 一年生が予算会議に出るのは珍しいな。


「今年からの取り組みみたいでね。その部の期待の一年生。みたいなのには予算会議に参加させることになったみたいだよ」

「へぇ。なら、奏と幸也は期待の一年生なんだな」

「流石ですね、奏さんに成瀬さん」


「俺としても試合とはまた違った緊張を味わえるいい機会だと思うことにするよ」

「だから動画で見てる時には応援コメントよろしくね!!」

「そうですね。奏さんに向けてその時は応援コメントを入れますからね!!」

「ずるいなぁ。優花ちゃん!!私にも応援コメントを入れて欲しいかな!!」

「……え?美鈴さんも出るんですか??」


 席を離れてこっちにやってきた桜井さんも会話に参加してきた。


「そりゃあ彼女は生徒会役員だからな」


 俺がそう答えると、ジトリとした視線が美凪から飛んで来た。


「もしかして……凛太郎さんが予算会議を見ようと思ったのは桜井さんを見るため……」

「……何でだよ」


「あはは。本当に優花ちゃんは可愛いなぁ!!」

「わかるよ美鈴ちゃん!!嫉妬する優花ちゃんは可愛いよね!!」

「し、し、し、嫉妬なんかしてません!!もー!!からかわないでください!!」


 女三人集まればなんとやら……って奴だな


「なかなか賑やかだね、凛太郎」

「喧しいの間違いだろ……」


 そして、女三人の姦しい会話は一時間目の数学の根岸先生がやって来るまで止まなかった……

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