第七話 ~桜井さんから放課後の要望で『一つ貸し』を貰った件~

 第七話




 桜井さんを含めた五人で登校した俺たち。

 奏と幸也は自転車を押していたので、駐輪場に置きに行っていた。


 その二人を待つ間、俺は桜井さんに疑問に思っていたことを話し掛けた。


「そう言えば桜井さんもいつもは自転車だったよな。今日は珍しく歩きなんだな」

「そうなんだよね。まぁお兄ちゃんからお払い箱にされちゃったから、たまには歩きで来ようなって思ったんだよね」


 まぁそんな遠くに住んでるって話は聞かないからな。

 なんて思っていると、珍しく美凪が桜井さんに話しかけていた。


「部長さんたちへのアナウンスを今日して欲しい。と言う話でしたね。突然でしたが何か理由があったんですか?」

「美凪さん。えと……その理由は教室で話をする形でも良いですか?」


 少しだけ困ったような表情でそう言葉を返す桜井さんに、美凪はスっと目を細めて答える。


「構いませんよ。それと桜井さん。私にも凛太郎さん同様に敬語は不要です」


 美凪のその言葉に、桜井さんは軽く笑いながら了承を示した。


「……あはは。そっか。わかったよ。なら優花ちゃんも私の事は美鈴って呼んでもらっても良いかな?」

「はい。わかりました美鈴さん」


「お待たせー三人ともごめんね」


 美凪と桜井さんが少しだけ打ち解けた時に、こちらに向かって奏と幸也が手を繋いでやってきた。


「別に気にしなくて平気だぞ。じゃあ行こうか」


 俺は二人にそう言葉を返した後、美凪の手を取る。


 そして、彼女の耳元で軽く聞いてみた。


「桜井さんとは打ち解けた感じなのか?」

「まぁそうですね。嫌いでは無いですし。貴方だけが特別な感じがしたのが嫌だっただけですから」

「そうか。なら良かったじゃないか」


 これで少しは桜井さんと話をしてても、美凪がプンプンすることは無くなるのかな?


 そんなことを考えながらら下駄箱で上履きに履き替えてから教室へと向かった。




 教室の扉を開いて中に入ると、どうやら俺たちが一番乗りだったようで中には誰も居なかった。


 まぁ、普段誰よりも早くに登校している桜井さんと一緒。という時点で一番乗りなのは当然とも言えるけどな。


 そんなことを考えながら自分の机にカバンをひっかけ、椅子に腰を下ろす。


 若いとは言ってもそれなりの距離を歩けば疲れはする。

 俺が小さく息を吐いていると、桜井さんがこちらにやって来ていた。


「海野くんと優花ちゃんには関係のある話なんだけどいいかな?」

「あぁ、案内を今日にしたい。って言ってた理由だったな」

「美鈴さん。私は別に構いませんよ」


「私と幸也はここに居ても平気かな?」

「聞かれて不味い話なら席を外そうか?」


 奏と幸也の言葉に桜井さんは小さく笑みを浮かべながら手を横に振る。


「別に聞かれて困るような話ではありませんから……あぁもう面倒だから敬語使うの辞めるね!!」


 彼女はニコリと笑ってそう宣言した。


「お兄ちゃんの跡を継いで、次期生徒会長をやろうと思ってるからさ。永久さんみたいな淑女を目指してたんだけど私には合わないや!!」

「あはは……やっぱり無理してたんだな」

「まぁね!!でももういいや。合わないことで無理してても仕方ないしね!!」


 桜井さんはそう言うと、俺たちに理由を話し始めた。


「生徒会がお兄ちゃんのハーレムになってる。って話があったのは聞いた事くらいはあるよね」

「聞いたことくらいはありますね。生徒会長以外はみんな女性ですからね」

「でも会長は副会長と会計をしている人と付き合ってるし、副会長と書記をしている人は別の人と付き合ってるし、美鈴ちゃんは会長の妹だからね」

「まぁ大衆は面白おかしく勝手な想像をするものだからね。仕方ないと言えば仕方ないよね」


 美凪と奏と幸也の話を聞いた上で、俺が彼女に問いかける。


「俺が山野先生から聞いたのは、書記の人の彼氏を生徒会に入れる。って話だったけどそれはダメだったのか?」


 俺の言葉に桜井さんは少しだけ苦笑いを浮かべながら言葉を返した。


ながれ先輩が生徒会に補佐として入会はしてくれたんだ。そしたら今度は違う問題が出てきちゃって……」

「違う問題……ですか?」


 美凪の疑問に桜井さんが同じ表情のまま答える。


「生徒会は色恋にかまけていて全く仕事をしていない。そんな声が出るようになっちゃったんだよね」

「うわぁ……」

「それは酷いね……」

「桜井さんとしてもそんなことを言われるのは不本意だよね」


 桜井さんの話を聞いた俺は、自分の中で予想した答えを彼女に投げかける。


「それで、その声を払拭するために、今日の放課後に生徒会が真面目に仕事をしているんだって様子を広報に公開する。そして、生徒会と生徒が良好な関係を築けていることを見せるために俺と美凪が生徒会の手伝いをするのを今日にして欲しい。そんな所か?」

「なるほど……やっぱり海野くんは頭がキレるねぇ。その通りだよ」


 そう言って目を丸くする桜井さんに、冷たい目でこっちを見る美凪。

 な、なんでそんな目で見られないといけないんだ……


「海野くんの言うように、今日の放課後に新聞部と放送部に生徒会の仕事の様子を動画にしてもらう予定なんだよね。内容としては予算会議に向けての資料作りの様子を見せる感じかな。お兄ちゃんと永久さんはそのための流れを今日の朝に話し合ってるんだよね。雫さんと流先輩は新聞部と放送部に話しに行ってる」

「なるほどね。そして桜井さんは俺と美凪にこの話をするために別行動をしてる。そんな所か」

「そうそう。まさか登校の時間から会うとは思って無かったけどね」


 桜井さんはそう言うとニコリと笑って俺と美凪の方を向いて言う。


「だから二人には今日の放課後に生徒会室に来て貰いたいんだよね。納得して貰えたかな?」

「なるほど。生徒会も大変ですね。私は構いませんよ。理由にも納得出来ましたから」

「俺も構わないな。まぁ都合良く使われてる感じがしないでもないけどな」

「あはは。確かに私がして欲しいことと、海野くんに提示した『体育祭の実行委員に立候補しない』その程度の対価じゃ釣り合わないよね」


 桜井さんはそう言うと、人差し指を立ててパチンとウィンクを一つした。


「これは海野くんへの『一つ貸し』にしておくよ。何かあったら無条件で君に力を貸してあげるよ」

「悪くないな。桜井さんがそれで良いならね」

「私は構わないよ。君なら変なことには使わないと思うしね」


 彼女はそう言ったあと、イタズラっぽく笑いながら言葉を続けた。


「それに、彼女が居るのにエッチなお願いなんてしないだろうしね!!」

「さ、桜井さん!!??」


 言いたいことを言い終えた彼女はくるりと踵を返して自分の席へと戻って行った。


「さて、『隣人さん』。桜井さんにはどんな『お願い』をするつもりですか?」


 り、隣人さんって……


 美凪からの言葉にすごいトゲを感じる……


 隣を振り向くと、冷たい目をした彼女がこちらを見ていた。


「そ、そうだな。まだ特には決めてないな」

「そうですか。でしたらお願いを決めたら私に報告してくださいね?」

「……わ、わかった」


 何でそんなことをしなければならないのか?


 そんなことを聞いてはいけない。


 俺はチラリと視線を向けると、呑気にこっちに手を振ってる桜井さんを見ながら小さくため息をついた。



 占い最下位が現実味を帯びてきたな……

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