第六話 ~朝の占いの結果を見て、今日一日の行動や言動を気をつけようと思った件~

 第六話




 自室で登校の準備をした後、俺は居間へと戻った。

 美凪の姿は見えなかったので、まだ準備をしているんだろうな。


 テーブルの上には奏用の昼ごはんが詰められたお弁当箱が紙袋に入って用意されていた。


「軽くテレビでも見ながら時間を潰すか」


 時計を見ると、家を出るまではまだ余裕がある。俺はテーブルの上にあったリモコンでテレビの電源を入れた。


 するとテレビからは朝のニュースが流れ始める。


 ニュースキャスターは見覚えのある女性が務めていた。


「西川さんか……やっぱりこの人は人気のあるキャスターなんだな」


 そんなことを思っていると、ニュースからは朝の占いが流れてきた。


『今日の運勢のコーナーです』


「まぁ……占いなんて信じてないけどな……」


 そんなことを呟きながら見ていると、


『今日の運勢。最下位は四月生まれの貴方です』

「……マジかよ」


 最下位だといわれた。


『気持ちのすれ違いや誤解が生まれやすい日です。言動や行動には十分気をつけましょう』

「……なるほど。気をつけるか」


 占いなんて信じてないけど、気をつけた方が良いとか言われたのなら気をつけるか。

 気持ちのすれ違いや誤解か……


「お待たせしました凛太郎さん。おや、珍しいですね。占いなんて見てたんですか?」


 支度を済ませて居間へとやって来た美凪は、テレビに映った画面を見てそう言ってきた。


「優花。大好きだぞ」

「……え?」


「優花。愛してる」

「ふぇぇぇぇえ!!!???」


「お前と一緒にいられるこの時間が俺の幸せだ」

「ど、どうしたんですか凛太郎さん!!??」


 気持ちのすれ違いや誤解を生まないように、俺は彼女に気持ちを伝えてみたがどうだろうか……


『今日の運勢。第一位は八月生まれの貴方です!!』


「私が一位ですね!!ふふーん!!やはり優花ちゃんは持ってる女の子ですね!!」

「そうか。良かったな。俺は最下位だったよ」


 ニコリと笑ってる彼女に、俺は少しだけ苦笑いを浮かべながらそう言葉を返した。


「なるほど。凛太郎さんはなんて言われたんですか?」

「気持ちのすれ違いや誤解が生まれやすい日。だと言われたよ」

「あぁ……だからさっきみたいなことを言ってきたんですね……」


 俺のその言葉に、美凪は少しだけ呆れたような表情でそう言葉を返した。


 そして、美凪はそのまま俺の元へとやって来て俺の身体を抱きしめた。


「馬鹿ですね……そんなに言わなくてもわかってますよ?」

「そうか。でも言わなきゃわからないこともあるだろ?」

「そうですね。言葉にして欲しい時もありますからね」


 彼女はそう言うと、上目遣いを俺を見て言ってきた。


「凛太郎さん。好きです」

「あぁ、俺も好きだぞ優花」


「凛太郎さんとキスがしたいです」

「そうだな。俺もしたい。それに家を出たら出来ないからな」

「そうですね。色々な人に見られてしまいますからね」


 そんな会話をした後に、俺と美凪は唇を重ね合わせた。


 大丈夫。気持ちのすれ違いや誤解が生まれることなんかない。

 あの占いは俺への『注意喚起』だと思うことにする。


 そう考えることにした俺は愛を込めて彼女の身体を強く抱き締めた。




 そして、登校のための準備を終えた俺と美凪は自宅を後にして通学路を歩いていた。


 五月に入ってからは少し気温も高くなってきた。

 衣替えの時期は来月だが、冬服では少し辛く感じるような日も増えてきたように思えた。



「だいぶ気温も高くなってきましたね。今日の夕飯はさっぱりしたものが食べたいです」

「そうだな。サラダうどんとかどうだ?」

「おぉ!!良いですね!!私大好きですよサラダうどん!!」

「ただそれだけだと物足りないから、白米じゃなくてわかめご飯とかにして用意しておくか」

「素晴らしいです!!わかめご飯も大好きです!!」


「新婚夫婦さん。会話の内容が丸聞こえですよー?」

「あはは。二人の会話を聞いてたら俺たちもサラダうどんが食べたくなってきたね」


 俺と美凪が話をしていると、後ろから奏と幸也がやって来た

 。


「おはよう。奏に幸也」

「おはようございます。奏さんに成瀬さん」

「おはよう優花ちゃんに凛太郎くん!!」

「おはよう凛太郎に美凪さん」


 朝の挨拶を済ませたあと、俺たちは四人で通学路を歩いて行く。


「二人は付き合い始めたんだよね。おめでとう」

「ありがとう幸也」

「ありがとうございます成瀬さん」


「私は三ヶ月だと思ってたけど一ヶ月だったか!!やられたね!!」

「そんな予想をしてたのかよ……」

「出会って一ヶ月でお付き合いを始めるのは確かに早いですよね。ですが、濃密な時間を過ごしてきたとは思います」

「そうだな。出会って二日目でいきなり俺の家に泊めてくれって来たくらいだからな」

「……あれは本当に怖かったんですからね……」


 まぁ、夜中にいきなりブレーカーが落ちたら焦るよな。


 そして四人で話をしながら通学路を歩いていると見覚えのある後ろ姿が現れた。


「おはよう桜井さん。珍しいね。君が一人で登校してるなんて」

「おはよう海野くん。そうだね、今日はお兄ちゃんと永久さんが生徒会室でやることがあるって話だったからね。私はお払い箱にされちゃったんだよね」

「同じ生徒会役員なのにか?」

「あはは……そうなんだよね。まぁ生徒会の業務だけじゃないと思ってるけどね」


 ……まぁ。付き合ってる二人が密室で……となればそうなるよな。


 なんて思っていると、桜井さんは俺の後ろにいた三人にも挨拶をした。


「おはようございます。美凪さんに、奏さん。それに成瀬さんも」

「おはようございます。桜井さん」

「おはよう!!美鈴ちゃん!!」

「おはよう桜井さん」


 朝の挨拶を済ませた桜井さんは俺の方を見ながら話を始めた。


「今日のLHRで体育祭の実行委員を決めるけど、私は立候補をしない。その代わりに海野くんには私の生徒会業務を手伝って貰うって話だったね?」

「そうだな。時期に関しては君から話があると聞いてるけど?」


 俺がそう言葉を返すと、桜井さんは少しだけ申し訳無さそうに提案をしてきた。


「それは今日でも構わないかな?」

「今日か……」


 どうするか。冷蔵庫の中がしょぼかったから放課後は買い物に行きたいところだったけど。


 ……俺だけの判断では難しいな。


 そう考えた俺は美凪にも話を振ることにした。


「なぁ、美凪……」

「優花です」

「……え?」


 少しだけ冷めた目をした美凪が俺を見ながらそう言葉を返す。


「凛太郎さん。名前で呼ぶという話では??」

「……そ、それは二人きりの時に……いえ、なんでもないです」


 気持ちのすれ違いや誤解を生まないようにしないとな……


「なぁ、優花。今日の放課後は二人で部長への予算会議の案内をする手伝いを引き受けても構わないか?」

「えぇ、構いませんよ?『私たちの』夕飯の買い物はその後にすることにしましょう」


『私たちの』と言う部分が強く言われたように思える……


 そして、彼女はそう言うと俺の腕を抱きしめながら桜井さんに言う。


「桜井さんの依頼は私たちが引き受けますね」

「あはは。ありがとうございます、美凪さん」


 桜井さんはそう言うと、俺の方を見ながらニヤリと笑って言ってきた。


「ずいぶんと可愛い彼女さんで良かったね、海野くん」

「そうだな。でも一つだけ訂正をさせてくれ」


 俺は桜井さんにそう言葉を返した後に言葉を続けた。


「優花は俺の彼女じゃない。妻だからな」

「り、凛太郎さん!!??」

「あはは!!そうか!!それは失礼したよ海野くん!!」


 顔を赤くする美凪と、ケラケラと笑う桜井さん。


 そして、賑やかに話をしながら俺たち五人は通学路を歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る