第四話 ~恋人同士になって初めての朝。両親と一緒に朝ご飯を食べることになった軒~
第四話
「すぅ……すぅ……」
「……まぁ、どこまで許されるのか?を試されてるような気がするな」
早朝。アラームより早くに目を覚ました俺は、隣ですやすやと寝息を立てている美凪の姿を見てそう呟いた。
どうやらよだれを垂らしながら眠る。というなかなか恥ずかしいことをしていたようで、口の周りが少し唾で濡れたような形跡があった。
俺の情けない寝姿を美凪に見られることがなかった。と言うのは良かったかもしれないな。
そんなことを思いながらスマホで時間を確認すると、アラームまでは十分程の時間があった。
「付き合うことになってるし……キスくらいなら許されるんじゃないか……」
栗色の髪の毛を優しく指で梳きながら、俺は目を閉じている美凪の顔を見る。
シミ一つない綺麗な肌。整った眉に大きな瞳は今は閉じられている。ぷっくりとした唇に、少しだけ低い鼻は愛嬌だと思える。
見た目だけで言えば、その辺のアイドルなんか目じゃないレベルの美少女だ。
まぁ、俺が惚れたのは見た目だけじゃないんだけどな……
「これからもお前の笑顔と『美味しい』という声を聞かせてくれ」
小さくそう呟いて、俺は軽く彼女の唇にキスをした。
この位なら許してくれよな。
少しだけ罪悪感を抱きながら、俺はアラームがなるまでの時間を過ごして行った。
ピピピ……ピピピ……ピピピ……
俺の耳に、スマホから流れる目覚ましのアラームが聞こえてきた。
それをきっかけにして、俺は美凪の身体を優しく揺すった。
「起きろ、優香。朝だぞ」
「……んぅ……キスをしてくれたら起きます……」
「……そうか。お嬢様は朝から情熱的だな」
俺はそう言うと、美凪の『頬』にキスをした。
「……凛太郎さんの意気地無し」
「ほら、起きてるならベッドから出るぞ。今日は俺がご飯を作る日だからな。先に行ってるぞ」
「はい……わかりました……」
軽く目を擦っている美凪を残して、俺はベッドから身体を出した。
少しだけ過ごしやすくなってきた五月の朝。
ベッドで二度寝をしたくなるような陽気だけど我慢しないとな。
俺はそんなことを思いながら、顔を洗うために洗面所へと向かった。
顔を洗い、台所へ向かった俺は少しだけ驚いた事態に遭遇する。
「おはよう、凛太郎」
「おはよう、凛太郎くん」
「親父に花苗さん。どうしてここに?」
居間のテーブルの前には、親父と花苗さんが牛乳を飲みながら座って談笑をしていた。
「あはは……実はね、ご飯の準備とかをまるでしてなくてね。向こうの部屋の冷蔵庫には何も入ってないんだよね」
「あぁ……だから朝飯を食いにこっちに来たのか……」
「突然やって来てごめんなさいね。追加で作ってもらうことは可能かしら?」
「構いませんよ。卵とかは今日のうちに使い切りたいと思ってましたからね。簡単なもので朝は済ませてるので別に平気ですよ」
「ふふふ。ありがとう凛太郎くん。それじゃあ優花の胃袋を掴んだ貴方の手料理を楽しみにしてるわね」
「ははは……ただのスクランブルエッグにそこまで期待しないでくださいね……」
そんな会話をしていると、洗面所で顔を洗い終えた美凪が居間へとやって来た。
「……あれ?なんでお母さんと洋平さんがここに居るんですか?」
「ごめんね、優花ちゃん。食材の用意を全くしてなくてね。朝ご飯を食べさせてもらうことになったんだ」
「そ、そうだったんですか……」
「ふふふ。凛太郎くんとイチャイチャしたいのを我慢させてごめんなさいね」
「あ、朝からイチャイチャなんてしないです!!」
「あらそう?てっきり優花の事だから『キスしてくれたら起きますよ?』とか言ってたかと思ったけど?」
「……っ!!??」
あぁ……その反応は正直に話してるようなもんだぞ……
顔を赤くしながら言葉を失う美凪に、俺は小さくため息をつきながら、朝ご飯の支度のために台所へと足を運んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます