美凪side ① 後編

 美凪side ① 後編





「ふふふ。私、この時間が好きです」

「そうか。俺もこうしてお前の髪の毛を触っていられるのは幸せだからな」


 お風呂から出た私は、凛太郎さんを呼んで髪の毛を乾かしてもらっていました。

 こうして彼に髪の毛を乾かしてもらって一ヶ月。

 最初の頃は少しだけぎこちなかった彼の手つきもだいぶ慣れてきたように思えます。


 ですが、一日……いや一分一秒だって彼が私の髪の毛をぞんざいに扱うことは無かったですね。


「手入れが大変だとは思うけど、俺はお前の長い髪の毛が好きだ」

「そうですか。でしたらこのまま伸ばしていきますね?」

「ショートやセミロングも似合わないとは言わないけど、俺の好みなんだ。わがままを言ってごめんな」


 少しだけ申し訳なさそうに言う凛太郎さん。


 ふふーん?まぁそれは知ってますよ。

 先程成瀬さんからの情報で聞いてますからね。


『凛太郎はね、胸が大きくて髪の毛が長い女の子が好きなんだ』


 と言ってましたからね。


 ショートカットでお胸が控えめな奏さんとは真逆ですね。


 少しだけ安心を覚えたのですが、桜井さんはセミロングで私ほどでは無いですがお胸が大きな女の子ですので、油断は出来ません!!


「ふふーん。まぁ、彼氏の好みに合わせるのも彼女の役目みたいなものですからね?」

「代わりと言ってはなんだけど、優花の方から俺に対して何かあったりはするか?あれば聞くぞ」

「ふむ……そうですね……」


 なかなか魅力的な提案ですね。

 私は少しだけ思案した後に彼に言いました。


「1日1回は私に対して『好きだよ』って言ってください」

「……え?そんなんでいいのか?」


 少しだけ訝しげに首を傾げる彼に、私は言いました。


「喧嘩する時もあると思います。些細な勘違いやすれ違いもあると思います。でも貴方とはずっと一緒に居たいです。だからきちんと仲直りをしましょう。だから1日1回は好きだよって言って、そこで手打ちにしたいんです」

「ははは……そういう事か」


 喧嘩もしないでずっと仲良し。なんてことはありえません。

 だからこそ『仲直りをするきっかけ』を作っておきたいんです。


「好きだよ、優花」

「はい。私も好きです凛太郎さん」


「ははは。これで『ノルマ達成』か?」

「ノルマなんて言わないでください。怒りますよ?」

「ごめんな。冗談だよ、優花」

「ふふふ。はい。わかってますよ」


 そして、そんなやり取りをしたあとに、彼はドライヤーのスイッチを切りました。


「終わったな。それじゃあ俺は先に部屋に戻ってるな」

「はい。私も少ししたら戻りますね」


 私は彼からドライヤーを受け取り、そう答えました。


 洗面所から凛太郎さんが居なくなったあと、私は少しだけ考えていました。


「この後は、彼の部屋に行こうと思います……」


 そう。恋人同士になって初めての夜。

 きっと凛太郎さんも私が彼の部屋に来ることはわかってるはずです。

 そして『二回目の誘い』をすることも……


「き、緊張します……そ、そういうことをするような雰囲気になったとしても大丈夫なのようにはしてます」


 かなりキチンとお風呂場で身だしなみを整えてます。そしてポケットの中にはお母さんから貰ってる『淑女の嗜み』も入れてあります。


「まぁ……十中八九断られる気はするんですけどね……」


 凛太郎さんの性格上。きっと何かしらの理由をつけて断られそうな気もします。

 ですが、私の方からしっかりとアプローチをかけて行けば気持ちが変わるかもしれません。


『向こうのペースに合わせてたら全然関係性が進まない。とかもあると思うから、優花ちゃんからガンガン攻めて行くようにしないとダメかもね』


 奏さんもそう言ってましたからね!!


「覚悟してくださいね、凛太郎さん!!私の本気を見せてあげますよ!!」


 私は手にしたドライヤーを片付けた後、彼の待つ部屋へと向かいました。







「…………これだけ覚悟をしてここまで来たのに、貴方は私をほったらかしにして……よくもまぁすやすやと寝てますね」


 彼から唇を離したあと、私は小さくそう呟きました。


 かなり深く彼とキスをしました。私と凛太郎さんの間に、愛の雫が糸を引いて橋を作りました。


「今夜はキスだけで我慢してあげます……」


 私はもう一度、凛太郎さんと唇を重ね合わせます。


 本当なら『もう少し先の行為』も寝てる間にしてしまおうか?とも思えてしまいましたが、それは我慢です。


 寝ているのに、彼の本能の部分はきちんと私を求めてくれているのがわかりましたからね。


「早く……早く……凛太郎さんが欲しいです……」


 自分がこんなにも愛の重い女だとは思わなかったですね。


 まぁでも仕方ありません。私をここまで好きにさせてしまった責任を、彼にはきちんと取ってもらいましょう。


 舌を重ね合わせ、彼の味を堪能しながら、私は凛太郎さんと初めて恋人同士になった夜の時間を過ごしていきました。

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