美凪side ① 中編
美凪side ① 中編
お母さんと洋平さんが部屋を出て行き、居間には私と凛太郎さんだけ残される形になりました。
「行ってしまいましたね。まぁこの部屋で二人きりというのはこれまで通りですから別に何かが変わるってことは無いと思いますけど」
「そうだな。まぁとりあえず俺は風呂の準備をしてくるよ。優花は夕飯の片付けをよろしく頼む」
「はい。わかりました。お母さん達が食器は水につけておいてくれたので楽に出来ますね」
私はそう返事をした後に、台所に行って夕飯で使った食器を洗っていきました。
ふふふ。こうしていると彼と初めて出会った頃のことを思い出しますね。
あの時は夕飯を食べさせて貰った対価として食器洗いをしたわけですけど。
そんなことを考えながら洗い物を終えて、私は居間へと戻りました。
すると、お母さんが座っていた椅子の上に紙と一緒に小さな箱がありました。
「……え?何ですかね」
私はお母さんの忘れ物かな?と思いながら近づくとそうでは無いことに気が付きました。
「こ、これは……お、お母さん!!??」
『優花へ』
『私はまだおばあちゃんにはなりたくないので、きちんと使うのよ?』
と言う手紙と共に残されていたのは、0.01mmの避妊具。
り、凛太郎さんのも含めれば二箱目です。
そ、そんなに必要無いですよ!!
で、ですが……淑女の嗜みとして持っておく必要はありますよね。
私はお母さんから用意された手紙と避妊具をポケットに入れて起きました。
そして、お風呂の掃除と支度を終えた凛太郎さんが居間へとやって来ました。
な、なるほど……こんなものをポケットに入れておくと、何故か緊張をしてしまいますね。
あの時の彼もこんな気持ちだったのでしょうか。
そんなことを思っていると、凛太郎さんは真剣な表情で私に言ってきました。
「いいか、優花。絶対に風呂場には来るな」
「な、なんでそんなに真剣な目をしてるんですか……」
真剣な目で言われたその言葉に、私は訝しげに声を返しました。
すると、凛太郎さんはとても失礼なことを言ってきました!!
「お前には前科があるからな。頼むから背中を流そうとかそういう気は起こさないでくれ……」
ぜ、前科って……そんな犯罪者みたいに言わないでください!!
で、ですがそうですね……確かにあれはちょっと問題でしたね。
私の頭にはあの時の凛太郎さんの……い、いけません!!これ以上は!!
「ぜ、前科って……わ、わかりました。ではごゆっくり……」
私はそう言って彼をお風呂場へと送り出しました。
そして、一人残された居間で私はスマホを取って奏さんに電話をすることにしました。
凛太郎さんとお付き合いをすることになった。
その事を話すのは当然だと思ったからです。
数回のコール音の後、奏さんが電話に出ました。
『もしもし優花ちゃん。どうしたの?』
「夜分遅くにごめんなさい。奏さんに報告したいことがあって電話しました」
『ほうほう……私に報告したいこと。それはもしかして、凛太郎くんとお付き合いをすることになった。って事かな?』
電話越しで言われた奏さんのその言葉に、私はとても驚いてしまいました。
「な、なんで知ってるんですか!?もしかしてもう凛太郎さんが話をしていたんですか!!??」
『えへへ。優花ちゃん。私はカマをかけてみただけだよー?』
「なぁあああ!!!???」
私の事をからかうように笑う奏さん。
や、やられました!!
『そうかそうかー、優花ちゃんと凛太郎くんはようやくくっついたんだね!!おめでとう!!』
「あ、ありがとう……ございます……」
な、何でしょうか……すごく負けたような気持ちです……
『それで、私に電話をしてきたのはそれだけじゃないんでしょ?』
「そうですね。まぁ凛太郎さんのことを少し知っておきたいなと思って電話したのもあります」
まだ彼と知り合って一ヶ月ですからね。
大変濃密な時間を過ごしてきたとは思ってますが、まだまだ知らないことは沢山ありますからね。
『優花ちゃんとしてはどんなことが知りたいのかな?隣に幸也も居るから男目線の答えも聞けるよ』
成瀬さんもいらっしゃるんですね。これは心強いかもしれません!!
奏さんの電話口から『凛太郎の性癖とか答えてあげるよ』と言うものすごいセリフが聞こえてきました。
そ、それは聞いても良いものなのでしょうか……
そして、私は奏さんと成瀬さんから凛太郎さんの色々なことを聞いていきました。
好きな食べ物や好きな本……り、凛太郎さんはちょっとエッチな漫画が好きみたいです。あとは、どんなゲームをしてきたかとか。
中学時代の話をされた時は少し羨ましくも感じました。
あと、やっぱり彼はモテてたようですね!!
告白しても無駄。と思えるような態度だったから女子から告白されることは無かったみたいですが、思いを寄せてた人は少なくなかったようです。
『あとはそうだね。凛太郎くんはとても理想が高いって言うか、ロマンチストって言うか、めんどくさい性格してるからね』
「……あぁ、そうですね」
確かに。あの人にはそういうところがありますよね。
まぁ、それが可愛いところでもあるんですけど!!
『まぁでもそれが凛太郎くんの可愛いところだよね!!』
「ですよね!!わかります」
『向こうのペースに合わせてたら全然関係性が進まない。とかもあると思うから、優花ちゃんからガンガン攻めて行くようにしないとダメかもね』
「確かにそうですね……わかりました、頑張ります!!」
私が奏さんにそう言った時でした。
「優花。風呂から出たぞ」
私の後ろからお風呂から出た凛太郎さんの声が聞こえてきました。
「……あ、奏さん。凛太郎さんがお風呂から出たので失礼しますね」
『お風呂から出てきた凛太郎くん……ごめんね、優花ちゃん。もう君たちはそんなに進んだ仲になってたんだね……』
「……ち、違います!!そういうのじゃないです!!」
私がそう言っても、奏さんのからかいは止まりませんでした。
『優花ちゃん?避妊は私たちの方からきちんと言っていかないとだめだからね?』
「もー!!からかわないでください!!失礼します!!」
私はそう言うと、通話終了のボタンを押して奏さんとの会話を終わりにしました。
「相手は奏みたいだな。まぁ何を話してたかは聞かないでおくよ」
少しだけ目を細めながら凛太郎さんはそう話をしてきました。
「あはは……まぁ、そうですね。凛太郎さんにはあまり聞かれたくないような内容です」
……その、貴方のことを根掘り葉掘り聞いてました。なんて言えるわけがないですからね。
私はお風呂の支度を整えてから彼に言いました。
「では、私もお風呂に入ってきますね」
「おう。行ってきな」
少しだけ素っ気ない言葉。私はイタズラ心が芽生えたので彼に言いました。
「恋人同士になったからと言って、覗きに来てはダメですよ?」
私がそう言うと、凛太郎さんは少しだけ呆れたような表情で言葉を返してきました。
「……それはフリなのか?」
「ち、違いますよ!!もー!!隣人さんのエッチ!!えっちさんです!!」
「ははは。覗かないから安心して入ってこいよ」
まぁ……でも、貴方がどうしてもと言うなら構わないんですけどね……
「……まぁ、どうしてもって言うなら……構わないですけど……」
私がそう呟いた言葉を、凛太郎さんは聞かないふりをしてました。
もー!!いくじなし!!
そんなことを考えながら、私はお風呂場へと向かいました。
脱衣所で服を脱いでから浴室へと入ります。
きちんと毎日掃除をしている浴室の中はとても清潔に保たれてます。ふふふ。本当に凛太郎さんのこういう所は好感が持てます。
浴室の中を満たす彼の匂いに幸せな気持ちになりながら、私は浴槽のお湯を身体にかけた後湯船に身を沈めました。
「はぁ……幸せです……」
温かいお湯につかっているととても良い気持ちになれます。
そして十分に身体が温まったところで私は湯船から出ました。
シャワーで頭を濡らしてからシャンプーで頭と髪の毛を洗います。そして、トリートメントをつけて身体を洗うためにボディソープのボトルを手に取りました。
「あれ……?あぁ……補充をするのを忘れてました」
軽いボトル。私は空になってたボトルにボディソープを補充するのを忘れていたことに気がつきました。
「もうトリートメントもつけてしまいましたし、このまま外に出るのも大変ですね。仕方ありません、凛太郎さんに持ってきてもらいましょう」
私はそう決めると、ガラリと浴室の扉を開けて凛太郎さんの名前を呼びました。
「凛太郎さーーん!!すみません!!ボディソープを補充するのを忘れてました!!詰め替え用のを持ってきて貰えますか?」
私は結構大きめの声で彼を呼びました。
ですが、凛太郎さんからの返事がありません。
「あれ……聞こえなかったのでしょうか?」
あまりこうしていると身体も冷えてしまいます。
出来れば早めに持ってきてもらいたいな。なんて思ってしまいます。
まぁミスをした私が悪いんですけど……
とりあえず、私はもう一度彼を呼ぶことにしました。
それでも無理なら仕方ありません。
一度お風呂から出てから詰め替え用のボディソープを取りに行きましょう。
「凛太郎さーーん?聞こえてますか?」
私がもう一度彼を呼ぶと、今度はきちんと返事をくれました。
『幸也と電話してた!!今持ってくわ!!』
なるほど、成瀬さんと電話をしていたのですね。
きっと内容は私が奏さんにしたように、お付き合いを始めたという報告でしょうね。
私は返事が遅れた理由に納得をして、彼を待つことにしました。
少しすると、磨りガラスの向こう側に凛太郎さんの姿が見えました。
「持って来たぞ。ここに置いておけばいいか?」
そう言って目の前に居る彼に、私は少しからかうように言いました。
「そうですね、私が扉を開けるので手渡ししてもらっても良いですか?」
「はぁ!!!???何言ってんだよ!!」
「そんな遠くに置かれたら取れませんからね。手渡ししてもらいたいのですが……ダメですか?」
私がそう言うと、凛太郎さんは少しだけ頭を押えた後に
「……わかったよ。ダメだって言っても無駄なことは嫌という程味わってるからな……」
と言いました。
「では、扉を開けますからそこから入れてください」
私はそう言うと、磨りガラスの扉を軽く開けて隙間を作りました。
「……ほら、受け取れよ優花」
「ありがとうございます、凛太郎さん。これはお礼です」
私はそう言ったあと、ボディソープの詰め替え用をうけとり、彼の手の甲にキスをしてあげました。
「……このまま扉を開けてやろうか」
「おや?貴方にそんな度胸があるのでしょうか?」
「いえ……大変申し訳ございません……」
「あはは……私も意地悪を言ってすみません」
私たちはそう言ってお互いの言葉を謝罪し合いました。
「じゃあ、優花。ゆっくりしてきなよ」
「はい。出たらまた呼びますので髪の毛はよろしくお願いします」
凛太郎さんから受け取ったボディソープの詰め替え用をボトルに注いだあと、身体をしっかり洗ってからお風呂を済ませました。
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