美凪side ① 前編
美凪side ① 前編
「……すぅ……すぅ」
「……寝てますね」
凛太郎さんと恋人同士になった一回目の夜。
私は彼と『初めて』を迎えるつもりでいました。
ですが、まぁ予想通りと言うか想像通りと言うか、やっぱり彼からは『NO』を突きつけられた訳ですけどね。
「本当に……貴方は高校生の男の子なんですか?」
ムニムニと彼のほっぺを摘んでみましたが、起きる気配はありません。
こんな美少女が隣に居て、ギュッと抱きしめてるのにスヤスヤ寝てやがります。
最初は「……辛い」とか言ってたくせに、少ししたら寝息を立て始めてましたからね。
「……まぁ、私にとっては都合が良いですけどね」
私は小さくそう呟くと、凛太郎さんの顔を上から覗き込みました。
サラサラの髪の毛、長いまつ毛、整った眉、キリッとした目は今は閉じています。
高い鼻に口元もカッコイイです。
背も高いですし、筋トレをしてるのに身体はとても引き締まってます。
そんじょそこらのモデルやアイドルなんか目じゃないですね。
ですが、この人の良さは見た目では無いですけどね。
「……私は貴方に言いましたからね?『私は愛が重い女です』ってことを」
二回も『誘い』を断られて私は激おこです。
『新婚旅行』はとても嬉しいですし、そこで初めてをしたい。という彼の考えは理解をしました。
ですが、それとこれとは話が別です。
「好きです……凛太郎さん。私は貴方がもっと欲しい……」
私は寝ている彼の唇に自分のそれを重ね合わせました。
そして、先程まではしなかった『深いキス』を彼としていきました。
好き……好き……好き……
目を閉じ、彼との時間を味わいながら、今日のことを思い返していきました。
凛太郎さんと想いを通じ合わせた後、私たちは家路へとついていました。
『彼と兄妹になれ』と言われたように思い、家を飛び出した私ですが、凛太郎さんは『兄妹では無く夫婦としての家族になろう』と言ってくれました。
『義理の兄妹』なら結婚は出来ます。
多少の世間体の悪さはあらはますが、私は彼の言葉に了承を示しました。
ですが……私のお母さんや洋平さんは了承してくれるでしょうか?
そ、その……大丈夫だとは思いますが、少しだけ緊張してきました。
しばらく歩いていると、私たちの住んでいるマンションへとたどり着きました。
そして、エレベーターの中で私は彼に言いました。
「少し緊張してきました……その、大丈夫だとは思ってますけどね」
「俺も同じだよ。まぁ、きちんと話せば大丈夫だろ」
良かったです。彼も緊張していたようです。
仲間が増えたような気持ちになりました。
「話の主導権は俺が持ってやるから安心しろよ」
頼りになる凛太郎さんですね。
階層を選択するボタンを押す彼。
少しだけ意地悪をしてあげようと思った私は笑いながら言ってあげました。
「ふふふ。頼りにしてますよ旦那様」
「……辞めろよ、そんな呼び名は」
少しだけ困ったような表情でそう言葉を返す彼の身体を、私は抱きしめました。
好き……好きです……
二人きりの時間はもうすぐ終わってしまいます。
「……最後にもう一度キスしてもいいですか?」
私がそう聞くと、凛太郎さんは優しく微笑みながら言葉を返してくれました。
「良いぞ。てか、そんな許可なんか取らなくても断りなんかしないから」
ふふーん!!そうですよね!!私ほどの美少女とキスを出来るんです!!貴方はとても幸せなんですからね!!
これまで少し殊勝過ぎましたね!!もう少し我を出して行かないとダメですよね。
「ふふーん!!そうですよね!!これ程の美少女とキスを出来るなんて隣人さんはとても幸せ者ですからね!!幸運をかみ締めてください!!」
「あはは。そうだな俺はとても幸せ者だよ」
そうですよ!!貴方は幸せ者なんですからね!!
私は彼のその言葉を聞いて、ギュッと抱きしめました。
細身ですが引き締まった筋肉質な身体。
私の身体を彼が抱きしめ返してくれました。
そして、そのまま私たちはキスをしました。
好き……好き……愛してます……凛太郎さん……
欲しい……もっと欲しい……これじゃあ足りません。
ですが……まだ……我慢……
深く彼と繋がりたい欲求を抑えつけ、私は彼とキスをしました。
そしてエレベーターが目的の階に到着してしまいました。
私は名残惜しい気持ちを抱きながらも彼から唇を離しました。
「……好きです。凛太郎さん」
「あぁ、俺も好きだぞ。優花」
思わず口からこぼれ落ちてしまった言葉に、彼は愛を返してくれました。
「それでは行きましょうか」
「あぁ、俺たちの家に入ろう」
私たちはそう言って、家の中へと入りました。
そして私たちは手を繋いで廊下を進み、居間へと向かいました。
居間の扉を開くと、先程と同じように椅子に座っている二人の姿が見えました。
私たちの姿を見た洋平さんとお母さんが微笑みながら凛太郎さんに言葉をかけました。
「おかえり凛太郎。それに優花ちゃんも」
「ふふふ。その様子だと『家族』になって帰って来たって感じで良いのかしら?」
チラリと横に視線を向けると、先程まではついていなかったテレビがついてました。
人気のクイズ番組です。二人で見ていたのでしょうね。
そんなシーンも『仲の良い夫婦』のように思えます。
彼と想いを通じ合わせる前までだったら、こんな落ち着いた気持ちにはなれなかったかも知れません。
そして、彼は真剣な表情でテレビを指さしながら二人に言いました。
「そうだな。まぁ詳しく話をしようとは思うからテレビは消してもいいか?」
「構わないよ。凛太郎の話のほうが百倍大切だ」
洋平さんはそう言うと、手元のリモコンでテレビを消しました。
私たちはそれを合図にして、二人の前に座りました。
大丈夫です。反対はされないはずです。
凛太郎さんに任せておけば大丈夫かと思いますが、私の意思を求められた場合はしっかりと答えていきましょう。
「まず最初に結論から話すから」
彼のその言葉に、洋平さんは少しだけ笑みを浮かべながら私たち二人を見て言いました。
「うん。それで凛太郎は優花ちゃんと『家族』になって帰ってくる。そう言って出て行ったね。それはどうなったかな?」
「優花とは兄妹としての家族じゃなくて夫婦としての家族になるよ。それは優花も了承してくれてる」
ここです。私の意思を求められてる場面です。
私はきちんと自分の意思を二人に伝えました。
「そうですね。その……り、凛太郎さんからプロポーズをされました。私はそれを了承しましたから」
私は左手の薬指に嵌めた、彼からの指輪を二人に見せました。
お母さんがすごく嬉しそうな目で私を見ているのがわかりました。
そして、そのまま私は先程まで自分が抱いていた気持ちを二人に伝えました。
「私は彼と結婚したいと思ってます。その……先程は『凛太郎さんと兄妹になれ』と言われたように感じたので反対して部屋を出て行ってしまいました」
「まぁ、二人が再婚すれば俺たちは戸籍の上では兄妹になる。でも義理の兄妹なら結婚しても問題は無い。多少世間体が悪いかもしれないけど、それは許して欲しいかな」
凛太郎さんが私の言葉に続けてそう言いました。
すると、洋平さんから先に了承をくれました。
「僕としては反対する理由がないかな。花苗さんはどうかな?」
その言葉を受けたお母さんは、私に視線を向けながら言いました。
「ふふふ。私としても反対するつもりは無いわよ。だって優花に凛太郎くんをモノにしなさいって話をしていたくらいなんだから」
「お、お母さん!!??」
も、もしかして……あの手紙はこの場面のことを予想していたのでしょうか!?
お、お母さんは……すごすぎます……
そんなことを考えていると、洋平さんが私たちに言葉を放ちました。
「ちなみに何だけど、住む場所のことも少し考えているんだよね」
「え?どういう事だよ親父」
少しだけ訝しげに凛太郎さんが問いかけると、洋平さんは笑みを浮かべながら言葉を返しました。
「僕と花苗さんは隣の部屋に住もうと思ってるんだ。凛太郎と優花ちゃんは引き続きこの部屋を使って貰おうかと思ってるんだ」
そ、それはとても良いアイディアですね!!
私は賛成です!!
お母さんと一緒に暮らす。というのも捨て難いですが、やはり好きな人と一緒に暮らすことを考えれば私は賛成です。
ですが、凛太郎さんは違ったようです……
「な、何でだよ!!??」
驚いた表情でそう言う彼に、お母さんが理由を話しました。
「私が洋平さんにわがままを言ったのよ。貴方と一緒に暮らしたいですって」
わ、わかります!!やはり好きな人と一緒に暮らしたいですよね!!
私にはお母さんの気持ちが良くわかります!!
「まぁ僕も花苗さんと暮らしたいとは思ってるしね。それに、凛太郎も優花ちゃんと一緒に暮らしてるこの生活が気に入ってるんじゃないかな?」
私の方を向いて洋平さんは笑顔でそう言いました。
「そ、それは……」
「わ、私は賛成です……」
私は自分の意思を伝えることにしました。
「み……優花?」
意外だったのか、凛太郎さんは私の方を見て問いかけてきました。
と言うか、今私のことを『美凪』と呼びかけましたか?
そうとう追い詰められてるように見えますね。
ですが、私は彼と一緒に暮らしたいんです。
「そ、その……私はこのまま凛太郎さんと一緒に暮らしたいです」
「ふふふ。そうよね。どうせ結婚するのだから今から一緒に暮らしてても問題は無いわよね」
さ、流石お母さんです!!私のことを良くわかってます!!
そうですよ!!結婚するんですから!!
それでもなかなか首を縦に振らない凛太郎さんに、お母さんは微笑みながら言いました。
「大丈夫よ、凛太郎くん」
「……え?」
「避妊さえしてくれれば私は何も言わないわよ?」
ちょ、ちょっと待ってください!!流石にそこまでは!!
「お、お母さん!!??」
「花苗さん!!??」
そんな私たちの声など意に介さないで洋平さんはさらりと言いました。
「まぁ早速だけど、今日から始めてみようか」
「……え?」
「僕と花苗さんは隣の部屋で寝るから、凛太郎と優花ちゃんはこっちの部屋で夜を過ごしてね」
「ふふふ。それじゃあ洋平さん。私の部屋に来てください」
洋平さんとお母さんはそう言うと、隣の部屋へと向かって行きました。
その時に、お母さんは私に向かって小さくウィンクをしながら『頑張ってね』と言ってくれました。
「ま、マジかよ……」
隣の凛太郎さんは、小さくそう呟きながら頭を抱えていました。
し、失礼な人ですね!!そんな嫌そうな顔をしないで欲しいです!!
私は少しだけ彼に対して憤りを覚えましたが、これまで通りの生活が出来ることに安堵を覚えていました。
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