第二話 ~風呂場で決意を固めたあと、優花と結婚を前提に交際するという話を幸也に話をした件~

 第二話




「はぁ……とりあえず、今夜を乗切ることに全力を尽くそう……」


 風呂場で湯船に身を沈めながら、俺は小さくそう呟いた。



『いいか、優花。絶対に風呂場には来るな』


 親父たちが隣の部屋に戻ったあと、俺は風呂の準備を済ませた後に本気で美凪にそう伝えた。


『な、なんでそんなに真剣な目をしてるんですか……』

『お前には前科があるからな。頼むから背中を流そうとかそういう気は起こさないでくれ……』

『ぜ、前科って……わ、わかりました。ではごゆっくり……』



 そんなやり取りをした後に、俺はこうして一人の風呂を楽しんでいる。という訳だ。


「絶対……絶対に今夜は一緒に寝ようと言ってくるはずだ……」


 美凪の性格ならほぼ確実に夜は一緒に寝ようと言ってくるはずだ。


『恋人同士になったんですから一緒に寝ても良いでは無いですか。ダメな理由でもあるんですか?』


 そんなことを言われるに決まってるし、断る理由がない。

 それに、美凪の『誘い』を一度断ってる以上、その先を求められた時のことも考えておかなければならない。


 正直な話をすれば……一線を超えたいという気持ちはある。俺だって健全な男子高校生だ。あんな可愛い女の子から誘われて嬉しくないはずがない。


 でも……嫌なんだ……


「こんな、親父の手垢にまみれてお膳立てされたような場所で、美凪との『大切な初めて』を消費したくない……」


 だからこそ、二人の初めての『時と場所』は計画している部分もある。まぁこれもサプライズにしておきたい所だったけど、話していく必要が出てくるかもしれないな。


 湯船から出た俺は、頭と身体をしっかりと洗った後にもう一度湯船に身体を沈めた。


「あとはそうだな……幸也には話をしておくか」


 美凪の方から奏には話をしてると思うからな。

 幸也には俺から話をしておくか。


 そう結論付けたあと、俺は湯船から立ち上がり浴室から出た。


 脱衣所で身体をバスタオルでしっかり拭いたあと、パジャマに身を通す。

 そして、居間に向かうとスマホを片手に電話をしてる美凪の姿があった。


「…………ですね。…………はい。…………わかりました、頑張ります!!」


 ……一体何を頑張るつもりなんだろうか。

 語尾に一抹の不安を抱きながらも、俺は美凪に声を掛ける。


「優花。風呂から出たぞ」

「……あ、奏さん。凛太郎さんがお風呂から出たので失礼しますね。……ち、違います!!そういうのじゃないです!!もー!!からかわないでください!!失礼します!!」


 美凪は顔を赤くしながら奏との通話を終わらせた。


「相手は奏みたいだな。まぁ何を話してたかは聞かないでおくよ」

「あはは……まぁ、そうですね。凛太郎さんにはあまり聞かれたくないような内容です」


 何となく予想はつくけどな……

 そんなことは言わないでおくけど。


 そんなことを考えていると、美凪が着替えなどを持って風呂場へと向かう。


「では、私もお風呂に入ってきますね」

「おう。行ってきな」


 俺がそう言うと、美凪はイタズラっぽく笑いながら俺に言う。


「恋人同士になったからと言って、覗きに来てはダメですよ?」

「……それはフリなのか?」

「ち、違いますよ!!もー!!隣人さんのエッチ!!えっちさんです!!」


 余裕が無くなると呼び名が『隣人さん』になるのは面白いな。


「ははは。覗かないから安心して入ってこいよ」

「……まぁ、どうしてもって言うなら……構わないですけど……」


 ……小さくそう呟いた美凪の言葉には返事はしないでおいた。


 そして、冷蔵庫から冷えた牛乳を取り出してコップに注ぐ。

 美凪が居間から居なくなったタイミングで俺はスマホを取り出して幸也に電話をした。


 数回のコール後に幸也が電話に出た。


『もしもし、凛太郎。どうしたんだい、こんな時間に』

「悪いな、幸也。ちょっとお前に話しておきたいことがあったんだよ」


 俺がそう言うと、幸也は少しだけ笑いながら俺に話をしてきた。


『ははは。それはもしかして、美凪さんと交際を始めた。と言う話かな?』

「……なんで知ってるんだよ。まさかとは思うけど、近くに奏が居たりするのか?」

『ご名答。さっきまで奏が俺をほったらかしにして美凪さんと楽しそうに話をしてたよ』


 ほったらかしにはしてないわよ!!


 なんて声が通話越しに聞こえてきた。


 何だよ、知ってるなら話は早いな。


「まぁ、幸也の言うように優花とは『結婚を前提として』交際を始めたよ」

『うん。おめでとう凛太郎。いつくっつくのか?と思って見てたけど、早かったのか遅かったのかは良く分からないね』


「出会ってひと月で交際を始めるのはかなり早いと思うけどな」

『あはは。確かにそうだね』


 そして、そんな話をしていると、風呂場の方から美凪の声が聞こえてきた。


『凛太郎さーーん!!すみません!!ボディソープを補充するのを忘れてました!!詰め替え用のを持ってきて貰えますか?』


「悪い幸也。風呂場から優花に呼び出しをくらったわ。ボディソープの詰め替え用を持ってきてくれ。だってさ。悪いけど電話をきるわ」

『凛太郎……キチンと避妊はするんだよ?』

「そういうことをする前準備じゃねぇよ!!」


 俺が思わず声を荒らげると、幸也はケラケラと笑っていた。


『凛太郎さーーん?聞こえてますか?』


「……すまん。急いでるみたいだから行ってくるわ」

『あはは。わかったよ、じゃあね凛太郎』


 幸也はそう言うと、俺との通話を終わりにした。


「本当に……こっちは大変なんだからな……」


 キチンと計画を立ててことを進めようとしてるのに、平気でこっちの予定とか計画を超えるような出来事が襲ってくる……


 もう少し……その、計画通りに進んでくれないかなぁ……


「幸也と電話してた!!今持ってくわ!!」


 そんなことを考えながら、俺は美凪のボディソープを手にして風呂場へと向かった。

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