美凪side ⑤

 美凪side ⑤




「い、いきなり再婚とか言われても困ります……」



 隣人さんの部屋を飛び出した私は、エレベーターを使ってマンションの外に出て以前彼と一緒に散歩をした時に星を見た公園へとやって来ました。




「『星』が綺麗ですね」


 私は、あの時彼にそういいました。


「月が綺麗ですね」という言葉が「貴方を愛してます」という意味なのは有名です。

 なので私は敢えて月ではなく『星』と言いました。


 この言葉に「私が貴方に好意を持ってるのは気が付いてますよね?」という意味を込めました。


 そして、彼からは


「『月』も綺麗だと思うぞ」


 と言葉を貰えました。

 これは「気が付いてるよ。告白は俺からするから待っててくれ」という意味です。


 だから……私は待つことにしたんですよ。




「と、と言うか!!な、なんですぐに追いかけて来てくれないんですかね!!彼は!!」


 後ろを振り向いても隣人さんの影は見えませんでした。私は公園の入り口で石ころを蹴っ飛ばし、不満を吐き出しました。


 ふ、普通なら直ぐに追いかけて来てくれるんじゃないんですかね!!

 こんな夜中に美少女が独りで外を出歩いてるんですよ!!心配してくださいよ!!


 私はベンチに座って空を見上げました。


「……そうですね。普通なら私はお母さんの再婚には賛成です」


 お父さんが亡くなってから、お母さんは一人で私を育ててくれました。

 とても大変だったのは理解してます。


 それに、洋平さんはとても良い人だと思ってます。

 優しい人柄で、お母さんのことを大切にしてくれるとわかります。


 だから本当なら私は二人の再婚には賛成なんです。

 ですが、私が反対をしたのは……


「り、隣人さんと『兄妹』は嫌です……」


 な、なんで彼を『お兄ちゃん』なんて呼ばないといけないんですか!!

 わ、私が彼となりたいのは兄妹なんかじゃないんです!!


 なのに!!なんであの人は反対しなかったんですか!!


 わ、私と同じ気持ちだと思ってたのに……


「彼と『恋人同士』になりたいと思っていたのは……私だけだったんですかね……」


 私は小さくそう呟いて、地面を見つめました。


 五月の夜は少しだけ肌寒いです。

 部屋着のまま飛び出してきたのは少し失敗だったと思います。


 寒さを感じて私は少しだけ身震いをしました。


 こうしていると、自宅に居るのが怖くなって部屋を飛び出して、彼の部屋の前で悩んでいたあの日を思い出します。


 私は絶対に無くさないように、首からぶら下げるように場所を変えた彼の部屋の合鍵を握りしめました。


 これが『オリジナル』の方です。


 お財布の中のは万が一の時のための合鍵です。


 彼から貰ったこの鍵は、私の宝物です。


 彼のプレゼントは全て私の宝物ですが、一番の宝物はこれです。

 これが無かったら、私は生きていません。


 とても、とても……とても大切なものです。


 隣人さんの優しさの結晶です。これを握りしめていると、彼と繋がっているような気持ちになれます。


「隣人さんの……ばか……」


 合鍵を握りしめて、小さく私はそう呟きました。

 地面には私の涙がポタリと落ちました。


 その時でした。


「やっぱりここに居たんだな」


 大好きな人の声。聞くととても安心出来る声が私の耳に届きました。


「…………隣人さん」

「まぁ、探さなくて済んで良かったよ」


 彼は少しだけほっとした様な表情を浮かべながら、私の元へ歩いて来ました。


「な、何しに来たんですか……わ、私は戻りませんよ!!」


 私はそんな彼にイヤイヤをするように頭を振りながら手を伸ばしました。


「お前が『致命的な勘違い』をしてるからな。それを正しに来たんだよ」

「ち、致命的な……勘違い……」


 隣人さんの言葉に私は少しだけ気持ちが揺れました。

 それを感じ取ったのでしょうね。彼はスっと私の隣に腰を下ろしました。


「座るぞ」

「は、はい……」


 私の隣に座った隣人さんは、私の目を見ながら話をして来ました。


「まず最初に。俺はお前と『兄妹』になるつもりは微塵も無い」

「そ、そうなんですか……」


 私のその言葉に、隣人さんは呆れたような表情で言葉を返してきました。


「当たり前だろ?なんでお前から『お兄ちゃん』なんて呼ばれなきゃならないんだ。俺にそんな趣味は無い」

「て、てっきりそういうのを期待してるのかと思いました……」


「俺が二人の再婚に賛成したのは、単純に親父の幸せのためにだよ。花苗さんなら親父を任せられると思えた」

「そ、そうなんですね」


 私がそう言うと、隣人さんは私の目を見ながら聞いてきました。


「美凪だって、本当は再婚には賛成なんだろ?」

「………………そうですね。本当なら賛成してます。洋平さんはとても良い人です。お母さんを大切にしてくれると思ってます。幸せにしてくれると思ってます」


 でも……私が貴方となりたいのは兄妹じゃないんですよ……

 賛成してしまったら、兄妹になっちゃうじゃないですか……


 そう考える私に、隣人さんは真剣な表情で私に言ってきました。


「なぁ、美凪。俺がこれから言う言葉を良く聞いてくれ」

「……え」


 真剣な表情。とても大切なことを言おうとしてるのがわかります。

 一体何を言おうとしてるのかとても気になります。


「わ、わかりました。隣人さんの言葉をしっかりと聞きますね」


 私がそう言うと、隣人さんは大きく深呼吸して言いました。







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