第三十二話 ~俺の決意を二人に伝えたあと、再婚に反対する美凪を追いかけた件~
第三十二話
「僕と美凪花苗さんはね、この度再婚することにしたんだ」
親父がそう言った後、俺は麦茶を一口飲んでから美凪に視線を向けた。
「………………ぇ」
やはりと言うか、美凪は予想外だったようで目を見開いていた。
そんな彼女に発言を期待するのは酷なので、俺から話を振ることにした。
「それで、いつごろからその話は出てたんだ?」
「一年くらい前からかな。凛太郎と優花ちゃんが高校生になった頃を目処に再婚に向けて動いて行こうかって話をしてたんだ」
なるほどな。隣同士に引っ越してきたのもそのための準備だったのかもしれないな。
「こうして隣同士として過ごして行けば、優花と凛太郎くんが仲良く出来るかなって思ってたのよ。でもまさか新規の顧客案件がここまで拗れるとは私も洋平さんも思ってなくてね」
「あはは。そうんだよね。本当ならお隣さんとして少しずつ親睦を深めて行く予定だったんだよね」
「なるほどね。親父と花苗さんが考えてたことはわかったよ」
俺はそう言うと、麦茶を一口飲んでから言う。
「とりあえず。おめでとう、親父。それと花苗さん、こんな親父をもらってくれてありがとうございます。ちょっと目を離すと無理や無茶をしてしまうところがあるんで、しっかりと手綱を握っててください」
「あはは……」
「ありがとう、凛太郎くん。洋平さんのそういう所は私の方でしっかりと見ているわね」
なんて和やかに話していると、隣の美凪が
バン!!!!
とテーブルを叩いた。
「ちょ!!ちょっと待ってください!!」
「どうした、美凪。行儀が悪いぞ」
「ぎょ、行儀の悪さは謝りますが……ちょっと待ってください!!」
ははは。行儀の悪さは謝まるんだな。
なんてことを思いながら、美凪の言葉を待つ。
「と、突然再婚するとか言われても……こ、困ります」
「今日の明日で再婚するって話じゃないよ、優花ちゃん」
「……え?」
親父の言葉に疑問符を浮かべる美凪。
何だよ、そんなつもりでいたのか?
「再婚する方向で動いてるって事だよ。まぁ仕事とか子育てとか落ち着いたらになるだろうね」
「そ、そうなんですか……」
「早くても優花が高校を卒業したら。とかかしらね。そんないきなりな話じゃないわよ」
「お、お母さん……」
二人から諭されて、美凪は助けを求めるような目で俺を見てきた。
「り、隣人さんはどう思ってるんですか?」
きっと美凪は『反対』の意志を求めてるんだと思う。
でも俺はさっきも言ったように、親父と花苗さんが再婚することに対して反対するつもりは微塵もない。
正直な話。お袋が死んでからの親父は本当にやばかった。
仕事仕事でそれを忘れるかのようにしてるように見えたからだ。
それがここ最近少し治まって来たのはきっと花苗さんの力が大きいと思う。
親父のことを思えば、俺はこの再婚に賛成こそすれ、反対するつもりはやはり無い。
「俺の意見はさっきも言ったけど、二人の再婚には賛成だよ」
「…………う、嘘ですよね」
「嘘じゃない。正直な話、お袋が死んでからの親父は見てられなかった。それが最近少しは良くなってきてた。きっとそれは花苗さんの力が大きいと思ってる」
「……あはは、心配かけてごめんね」
「私が洋平さんの力になれてたのなら嬉しいわ」
「親父のためを思うなら。俺はこの再婚に反対する理由は無いな」
「そ、そうですか……隣人さんは……そうなんですね……」
ハシゴを外された。そんな表情で美凪は言葉を紡いだ。
そして、バン!!と再びテーブルを叩いて立ち上がった。
「わ、私は!!二人の再婚には反対です!!ぜ、絶対に認められませんから!!」
美凪はそう言うと居間から飛び出して走って行った。
バタン!!
という音が玄関から聞こえた。きっと外に出てったんだろうな。
「あはは……優花ちゃんには反対されちゃったね」
「なんだよ、親父。わかってたことだろ?」
苦笑いを浮かべる親父に、俺は呆れたような表情でそう言い返した。
「凛太郎くんは優花を追いかけなくて良いの?」
「そうですね。もう少ししたら追いかけますよ。あいつの行く場所は何となくわかりますし。少しは頭を冷やす時間も必要かも思いますからね」
俺はそう言ったあと、花苗さんの目を見て話をした。
「それよりも、まずは花苗さんに話をしておこうかと思いましたから」
「あら?何かしら、凛太郎くん」
軽く目を細める花苗さんに、俺はしっかりとした口調で言う。
「美凪は反対していましたが、俺は二人の再婚に賛成です。親父のことをよろしくお願いします」
「ありがとう、凛太郎くん。洋平さんは私が責任を持って見ておきます」
「あはは……本当に良く出来た息子に育ってくれたよ……」
そして、俺は二人の目を見ながら少しだけ笑みを浮かべで言葉を続ける。
「再婚を認める代わりと言ってはなんですが、少しばかり『世間体が悪い』ことが起きると思いますが、それを了承して欲しいと思ってます」
「ふふふ。なるほどね。私は構わないわよ」
「そうだね、僕も構わないよ」
俺の言葉に、二人は笑顔を浮かべながら首を縦に振った。
反対されるとは思ってなかったけど、これで了承は得られたな。
俺は心の中で小さくガッツポーズをした後、ポケットに入れていた『プロポーズリング』の入った小箱に手を添える。
そして、椅子から立ちがって二人に言う。
「それじゃあ美凪を追いかけて来ます」
「行ってらっしゃい、凛太郎」
「気を付けてね、凛太郎くん」
手を振る二人に俺は笑顔でこう答えた。
「優花と『家族』になって帰って来ます」
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