第三十一話 ~美凪の作った肉じゃがに舌鼓を打ったあと、二人から重大発言を受けた件~
第三十一話
夜。自分のマンションへと到着した後タクシーから降りた俺は、茶色の封筒を見つめながら小さく呟いた。
「はぁ……なかなか痛い出費が続いたから、まぁ仕方ないよな。それに、美凪のお母さんから貰ってるお金も少しあまりそうだったからな。申し訳ないとは思うけどそこから出させてもらったよ」
そう。ショッピングモールからマンションまでのタクシーの代金に関しては、美凪のお母さんの花苗さんから頂いた十万円の中から出させてもらった。
これでこのお金は使い切った感じだな。
ちなみに美凪のお母さんの名前は、親父からメッセージで聞いていた。
『同僚の女性には迷惑はかけてないか?親父は生活能力が皆無だからな』
『あはは。そうだね、花苗さんには頭が上がらないよ』
そんなメッセージを見て、名前で呼び合う仲だと言うのを知って、確信が深まったのを覚えている。
「さて、美凪も待ってるだろうからな。早く行ってやるか」
俺はエレベーターを使って自室へと向かう。
そして、玄関に到着した後に財布の中から鍵を取りだして解錠する。
ガチャリと鍵を開けて、玄関の扉を開く。
「ただいま」
俺がそう言って部屋の中に入ると、居間の扉が開いて美凪がこちらに走ってきた。
「隣人さん!!お、遅いですよ!!何してたんですか!!」
「……いや、遅くないだろ。予定の三十分より早かったくらいだぞ」
ショッピングモールからは意外と道が空いていたので、二十五分位で帰って来れた。
革靴を脱いだ後に、部屋の中に足を踏み入れると美凪は俺に抱きついてきた。
「お、おい!!いきなり何するんだよ!!??」
「あ、あの空気は限界です!!何なんですか!!??洋平さんとお母さんは職場の同僚って話じゃないんですか!!??」
なんだよあの二人。見せつけるようなことでもしてたのか?
そんなことを思いながら、美凪を落ち着けようと頭を撫でていると、居間の方から親父と花苗さんがこちらを見て微笑んでいた。
「おかえりなさい、凛太郎くん。あらあら二人ともとても仲良くなったのね」
「おかえり凛太郎。優花ちゃんの作ってくれた肉じゃがも良い感じみたいだから、手洗いとうがいを済ませたらこっちにおいで」
「こんばんは、花苗さん。お久しぶりです。そうですね、美凪とは仲良くさせてもらってます。親父も久しぶり。元気そうで良かったよ」
俺は二人に軽く挨拶を済ませると、美凪の身体を押し返す。
「それじゃあ洗面所で手洗いとうがいをしてくるよ。終わったら部屋着に着替えてくる。そしたらご飯にしたいから、用意をお願いしてもいいか?」
「わ、わかりました。早く来てくださいね……」
美凪はそう言うと、俺の元から離れて居間の方へと歩いて行った。
「はぁ……まぁ、予測は出来てたけど実際に見せ付けられると微妙な気持ちになるよな」
俺は小さくそう呟いてから、洗面所へと向かって行った。
そして、自室で部屋着に着替えたあと俺は居間へと向かった。
部屋からは肉じゃがの良い匂いが漂ってきている。
美凪の作る肉じゃがはとても美味しい。
多分。隠し味に味噌とバターを使っているんだろうな。
どの程度の量を使ってるかは企業秘密だろうな。
なんてことを考えながら扉を開ける。
テーブルの椅子には既に親父と花苗さんが並んで座っていた。
「悪いな。待たせたな、親父」
「そうだね。優花ちゃんの作ってくれた肉じゃがの匂いですごくお腹が空いてて辛かったよ」
「ふふふ。凛太郎くんが優花に家事を教えてくれてたのよね。とても楽しみだわ」
「そうですね。最初はぎこちなかったでけど、最近では安心してみてられますよ」
「ふふーん!!中でも今日の夕飯の肉じゃがは私の得意料理ですからね!!味見をしましたがとても美味しくできたと自負してます!!」
「ははは。俺もお腹が空いたからな。美凪の自信作を早く食べることにしようか」
そして、俺たちは炊きたてのご飯を茶碗によそったあと、取り皿を持って席に戻る。
美凪の作ってくれた肉じゃがを大皿に移したあと、テーブルの真ん中において準備万端だ。
「沢山作りましたからね!!いっぱい取り皿に入れて食べてください!!」
「あはは。嬉しいねぇ」
「これなら俺も腹いっぱいになりそうだな」
「ふふふ。それじゃあみんなでいただきます。をしましょうか」
花苗さんの言葉に全員が首を縦に振った。
そして、「いただきます」と声を揃えて言ったあと美凪の作った肉じゃがをおたまを使って取り皿に移していく。
「しらたきにも味が染みてて美味しそうだな」
「ふふーん!!隣人さんが帰ってくるのが遅かったのが功を奏したのかもしれませんね!!」
おいおい……お前のためを思ってタクシーを使って早く帰って来たつもりだったんだけどな……
「あはは。凛太郎が何を予約してたのかは気になるところだけど、僕としては目の前の肉じゃがとても楽しみだよ」
「ふふふ。そうね。優花の自信作をいただきましょう」
俺たちは取り皿に移した肉じゃがをひと口食べる。
うん。やっぱり何回か食べたことがあるが、とても美味しい。
肉じゃがに関して言えば、美凪の方が数段俺より美味しいものを作れると言えるな。
「美味いぞ、美凪。また腕を上げたんじゃないか?」
「ありがとうございます隣人さん!!ちなみに明日は余った肉じゃがでコロッケを作る予定です」
「この肉じゃがだけでもとても美味しいのに、明日はさらに美味しくなるんだね」
「いつの間にか揚げ物まで出来る様になってたなんて、優花も成長したわね」
「こうしてお二人に私の成長を見せらせて満足です!!」
自信作の肉じゃがを全員から褒められて、美凪はドヤ顔で胸を反らせていた。
そして、俺たちは夕飯に舌鼓を打ちながら全ての肉じゃがと白米を食べ終えた。
「ご馳走様でした。とても美味しかったよ、優花ちゃん」
「お粗末さまでした!!お褒め頂きありがとうございます、洋平さん!!」
「凛太郎くんもありがとうね。優花をここまで育ててくれて」
「まぁ、自分のためでもありましたからね」
俺はそう言いながら冷えた麦茶を一口飲む。
さて、そろそろかな……
なんて思っていると食器を流しに移した親父がテーブルに戻ってきたところで、二人が視線を合わせて頷きあっていた。
そして、満を持して親父が口を開いた。
「凛太郎と優花ちゃんに聞いて欲しいことがあるんだ」
「何ですか、洋平さん。真面目な表情ですね。とても大切なお話に見えます」
美凪がそう言うと、花苗さんが少しだけ笑いながら言葉を返す。
「ふふふ。そうね、とても大切なお話よ」
「……え?お母さんも知ってることなの」
「そうだね。花苗さんも当事者かな。あはは……凛太郎は予想してる通りだとは思うけどね」
「まぁわかりやすかったとは思うよ」
俺がそう答えると、美凪は訝しげな表情でこちらを見た。
「……え?隣人さんは……知ってるんですか?」
「まぁ……直接聞いたわけじゃないけど、何となく覚悟はしてる」
「凛太郎の感じだと、反対って感じじゃないんだね。それは少し安心したよ」
「まぁな。てか親父、勿体ぶらないでさっさと言えよ。美凪が可哀想だぞ」
俺がそう催促すると、親父は苦笑いをしながら答えた。
「あはは……そうだね。じゃあ聞いて欲しいかな」
親父はそう言うと、俺たちの目を見ながらしっかりと言う。
「僕と美凪花苗さんはね、この度再婚することにしたんだ」
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