美凪side ④

 美凪side ④





 学校での授業を終えて、私と隣人さんは帰路に着いていました。


 今日も隣人さんは女たらしぶりを遺憾なく発揮していて、桜井さんとイチャイチャしてましたね!!

 もー!!私という人が居るのになんでそういうことをするんですかね!!


 まぁいつもの事なので、私は許してあげることにしましたけど。

 その……なんて言うんですかね。他の女性とは違って、桜井さんだけは何故かもやもやしてしまうんですよね。


『わかりあってる』みたいな雰囲気を感じ取ってしまうんですよね。


 ただそうですね、


『俺が本当に大切だと思ってるのはお前だけだよ』


 きょ、教室でいきなり彼から言われた言葉には驚きましたけど……


 そんなことを考えながらあるいていると、バス停に到着しました。


 どうやら隣人さんはこの間行ったショッピングモールで予約している商品があるようです。

 一体何を予約しているんでしょうかね?


 えっちな本。では無いようですが……


 まぁ、正直に話す人では無いのでアレですけど。


「ここでお別れですね。では私は先に家に帰って夕飯の支度をしてますね!!」


 今日の夕飯は私の得意料理の『肉じゃが』の予定です!!

 材料は昨日のうちに揃えてありますからね。


 ちなみに私の肉じゃがは隠し味に『味噌とバター』を少し入れているんです。

 ふふーん!!これは隣人さんには内緒にしてるんですけどね。


「あぁ、よろしく頼むわ。そんなに遅くはならないとは思うけどな。美凪の肉じゃがを楽しみにしてるよ」

「ふふーん!!肉じゃがはこの美凪優花ちゃんの得意料理ですからね!!パーフェクト美少女である私のとっても美味しい料理でお母さんと洋平さんのド肝を抜いてやりますよ!!」

「ははは。張り切りすぎて指を切るなよ?」


 私のその言葉に、隣人さんは軽く笑いながら注意を促してきました。

 ですので彼が安心出来るように、私の心構えを話しておきました。


「大丈夫です!!どんなに調理することに慣れてきても、怪我だけはしないように細心の注意をはらいますから!!」

「それなら安心だ。じゃあな、美凪」


 隣人さんはそう言って私に手を振っていました。


「はい。ではまた後で、隣人さん」


 そして、私は彼と別れたあとマンションへとやって来ました。


 エレベーターを使って隣人さんの部屋の前に来たあと、お財布の中から合鍵を取りだして、それを使って部屋の中に入りました。


「ただいま……あれ、お母さんの靴と洋平さんの靴があります」


 玄関で革靴を脱ごうとした私の目に、お母さんの靴と洋平さんの靴が目に入りました。

 つまり、二人は私が帰るよりも早くに帰ってきていた。

 ということになります。


 玄関で革靴を脱いで部屋に上がると、奥から洋平さんが姿を見せました。


「おかえりなさい、優花ちゃん。凛太郎とは一緒じゃなかったんだね」


 優しそうな笑顔を浮かべながら、隣人さんのお父さん。洋平さんが私にそう問いかけました。


「はい。隣人さんはショッピングモールで予約していたものがあるから取りに行く。と言ってました。そこまで遅くはならないとは思いますよ」

「あはは。そうだったんだね」


 洋平さんはそう言うと、私に言葉を続けてきました。


「優花ちゃんのお母さんの花苗かなえさんもこちらに来てるから、手洗いとうがいを済ませたら居間に来て欲しいかな」

「やっぱりお母さんもこちらに来てるんですか!?」


 靴があったのでもしかしたらと思ってました!!

 私は急いで洗面所に行って手洗いとうがいを済ませました。


 そして、居間へと向かいました。


「お母さん!!」

「ふふふ。久しぶりね、優花。元気そうでなによりだわ」


 居間の扉を開けると、目の前には椅子に座ったお母さんが居ました。

 お母さんは私を見ると、笑ってくれました。



「えへへ。隣人さんのお陰でお母さんが居ない時でも大丈夫だったよ!!」

「そうなのね。後で凛太郎くんにはいっぱいお礼をしておかないとね」


 そう言って微笑むお母さんに、私はこの一ヶ月の成長を見せてあげることにしました!!


「今日の夕飯は私が作ることになってます!!洋平さんとお母さんはテーブルで待っててください!!」

「おや、そうなのかい。それじゃあ僕と花苗さんは楽しみに待ってようかな」

「ふふふ。それじゃあ優花の料理を楽しみにしてようかしら」


 そして、私は愛用しているピンクのエプロンを身に着けて台所に立ちました。


 肉じゃがに使う材料は昨日のうちに買ってありますし、お肉も解凍してあります。

 だいたい一時間くらいで作れると思います!!


 ふふーん!!隣人さんが帰ってくる頃には作り終わりそうですね!!


 そんなことを考えながら、私はまずはご飯の準備のために炊飯器から釜を取り出して、米びつからお米を三合入れました。


 彼に最初に教わったように、白米をたっぷりの水で洗っていると、何やら居間の方では私の様子を見ながら二人が『とても仲良さそうに』話をしてました。


「見てください、洋平さん。優花がお米を洗ってますよ」

「ははは。凛太郎が最初に教えたみたいですからね」

「娘の成長をこうして見られて私はとても嬉しいです」



 ……な、何でしょうか。職場の同僚とは思えないような『距離感』に思えます。


 私は少しだけ訝しげに思いましたが、白米を洗ったあと釜についたお水をしっかりと拭き取ってから炊飯器にセットしました。


 そして、野菜室から玉ねぎとじゃがいもと人参を取り出します。

 しっかりと野菜を洗った後、ピーラーでじゃがいもと人参の皮を剥いていきます。


 じゃがいもは以前は苦戦をしましたが、かなりスピーディに剥けるようになったと自負しています!!


「洋平さん!!優花がピーラーを使いこなしていますよ!!」

「最初は手つきが危なっかしかった。と凛太郎が言ってましたが、だいぶ慣れてきたようですね。あの様子なら安心してみてられます」

「凛太郎くんには感謝しかありませんね」


 ……か、肩を寄せあって私の様子を見ている二人。

 こ、恋人同士みたいな距離感では無いでしょうか……


 二人の様子が気にはなりましたが、隣人さんとの約束事。

『絶対に怪我をしない』

 を破るわけにはいきません。


 私は玉ねぎの皮を剥いたあと、真剣に包丁を使って野菜を切っていきました。

 玉ねぎは相変わらず涙腺を刺激してきますが、しっかりと研いである包丁を使ってますので我慢できる範囲です。


 そして中華鍋に油を敷いたあとにお肉を炒めていきます。

 お肉に火が通ったら野菜としらたきを入れて、お水を加えて煮立たせていきます。


 こうしていると、アクが出てきますのでこれをしっかりと取り除いていきます。


「最初はどうなることかと思いましたが、私が居ない間にとても成長したようですね」

「こうして優花ちゃんの成長を見られたことを僕も嬉しく思いますよ」


 アクを取りながら居間に視線を向けると……


「て、手を繋いでます……」


 どういうことですか!?

 明らかにおかしいですよね!!

 私はもう訳が分からなくなってます……


 そして私は動揺する気持ちを抑えつけながら肉じゃがに味付けをしていきます。最後に隠し味の味噌とバターを少量加えます。

 火を落としたあとは、落し蓋をして味が染み込むのを待ちます。


 ここまで来たらあとは時間が経つのを待つだけです。


 私はエプロンを脱いで居間へと向かいました。


 そして、先程からの疑問を二人にぶつけてみました。


「そ、その……どうして今もまだ二人は手を繋いでいるんですか?」

「ふふふ。優花の疑問に今答えても構わないけど……そうね、大切な話だから凛太郎くんが帰ってきたらにしようかしら?」

「あはは。そうだね。凛太郎は何となくわかってそうだけど、先に話すわけにはいかないよね」


 そ、そんなことを言う二人です。

 と言うか、隣人さんはわかってるってどういうことですか!?



 私はポケットからスマホを取りだして、隣人さんにメッセージを送りました。



『お願いします隣人さん。早く帰ってきて欲しいです……』


 こんな雰囲気の部屋に一人だけ居るのはもう限界です……

 何だか私だけが取り残されてるような気分です。


 すると、すぐに隣人さんから返信がありました。


『予約していた商品は無事に購入出来たからこれから帰るよ。大体十九時くらいだな』


 時計を見ると十八時頃でした。

 あ、あと一時間!!??ふざけないでください!!

 そんな時間は待ってられないです!!


 私はそのことを彼に伝えました。


『ダメです!ダメです!!ダメです!!!!もっと早く帰ってきてください!!』


 すると、私の気持ちを理解してくれたのでしょうね。

 隣人さんからは

『金は掛かるけどタクシーで帰るよ。三十分くらいだと思う』

 と返信がありました。



「さ、三十分なら……待ちましょう……」


 肉じゃがに味が染み込むのもそのくらいですからね。


 私はスマホを握りしめながら、仲睦まじい様子で話をしてるお母さんと洋平さんを眺めていました。

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