第三十話 ~放課後はショッピングモールへと向かい、美凪への指輪を購入した件~

 第三十話




 今日一日の授業を終え、時は放課後になった。

 明日は体育祭の実行委員を決めると言うイベントがある。

 今日に関して言えば、学園で特筆するような出来事は特に無かった。


 まぁ、強いて言えば朝の教室での桜井さんとの一件くらいか。


 正直な話。この放課後の時間からの方が俺としては重要度が高い。

 あと数時間もすれば、人生を左右するような出来事が起こるんだからな。


 ははは。隣の美凪はそんなことはまるで知らないだろうけど。


「隣人さん。今日は放課後にショッピングモールに行くと言ってましたね?」

「そうだな。ちょっと予約してた商品があってな。それを取りに行くんだよ」


 本日最後のSHRを終え、教室を後にした俺と美凪。

 幸也と奏は部活動のため野球部へと向かっている。


 下駄箱へと向かう途中で俺は美凪に今日の放課後の予定を、一部分だけ話していた。


『お前に渡す指輪を取りに行くんだよ』


 なんてことを言うつもりは無いけどな。


「なるほど。その……えっちな本ですか?」

「……違うから」


 少しだけ頬を赤くしながら言ってくる美凪に、俺は呆れた気分になりながら言葉を返した。


 下駄箱で上履きから革靴に履き替える。

 校舎の外に出た時に美凪は思い出したかのように俺に言ってきた。


「あはは。そう言えば貴方は電子書籍派でしたからね」

「……もうそのネタでからかうのは辞めてくれないか?」


 俺がそう言うと、美凪は笑いながら言葉を返す。


「ふふーん!!このネタは一生モノだと思って下さいね!!」


 取りようによっては『貴方とは一生一緒に居ますよ』とも思えるような発言。

 全く。わかってないんだろうな。



 なんてことを思って歩いているとバス停へと辿り着く。

 俺はここでバスに乗って駅まで向かう。

 そして駅からはショッピングモール行きのバスへと乗り換える予定だ。


「ここでお別れですね。では私は先に家に帰って夕飯の支度をしてますね!!」

「あぁ、よろしく頼むわ。そんなに遅くはならないとは思うけどな。美凪の肉じゃがを楽しみにしてるよ」


 俺がそう言うと、美凪はドヤ顔で胸を逸らしながら言葉を返す。


「ふふーん!!肉じゃがはこの美凪優花ちゃんの得意料理ですからね!!パーフェクト美少女である私のとっても美味しい料理でお母さんと洋平さんのド肝を抜いてやりますよ!!」

「ははは。張り切りすぎて指を切るなよ?」


「大丈夫です!!どんなに調理することに慣れてきても、怪我だけはしないように細心の注意をはらいますから!!」

「それなら安心だ。じゃあな、美凪」


 俺はそう言って、美凪に別れを告げた。


 そして、間もなくしてやって来たバスに乗りこみショッピングモールへも向かった。




『ショッピングモール』



 バスを乗り継いで県内でも一番の広さを誇るショッピングモールへとたどり着く。

 以前ここに来た時は、二人の洋服を買ったあと併設しているゲームセンターで遊び、何千枚ものメダルを手に入れた場所だ。


 結局。あの後メダルゲームで遊ぶことは無く、貯めてあるだけになってしまっている。

 少しばかりもったいないとは思うので、どっかのタイミングで遊びに来ても良いとは思うよな。


 メダルの有効期限は一年。

 流石にそんなに行かないってことは無いと思うからな。


 そんなことを考えながら、俺はエレベーターを使って三階へと向かう。


『私は思うんですよ。男の人の良さって『姿勢』に現れるものだと』


『見ればわかりますよ。猫背の人は論外です。しっかりとまっすぐ立って顎を引く。それだけですごく素敵に見えます。待ってる時の姿勢の良さ。隣人さんはとても良いですね』


『姿勢の良さは内面の良さだと思ってます。ぶっきらぼうな言葉の裏側にある貴方の本心はとても優しい人です。そんな所からも見て取れますよ』


 エレベーターの鏡に映る自分の姿を見ていると、美凪に言われた言葉を思い出した。


「姿勢の良さなんてものを褒められたのは初めてだったな」


 そして、俺は目的地でもあったアクセサリーショップへとやって来た。


 手作りのアクセサリーを販売しているので、価格が手頃で学生人気が高い店だ。

 だが、その中でも俺が買おうとしてる指輪は上から数えた方が早いレベルの高価格の商品だ。



「こんにちは。指輪を予約していた海野です」


 俺がそう言ってカウンターの女性に話しかけると、彼女は微笑みながら言葉を返してくれた。


『いらっしゃいませ。お待ちしてましたよ』

「一ヶ月間も取り置きをしてもらってありがとうございます」


 俺は店員さんにそう言って頭を下げる。


『期間に関してはお気にならさずに。こちらでは数千円とかのアクセサリーは良く売れますけど、ここまで値段が高いとなかなか手を出してくれないですからね。こちらとしても気合いを入れて作ったものです。購入していただけてとても嬉しいですよ』

「ははは。そう言っていただけると助かります」


 俺はそう言った後に財布を取りだして言葉をつづける。


「支払いは現金の一括払いでお願いします」

『はい。かしこまりました。お買い上げありがとうございます』


 俺は財布から万札を十枚抜き出して、現金受けに置いた。

 これ程の買い物をしたのは初めてだからかなり緊張するな。


『では確認しますね』


 店員さんはそう言って万札の数を数える。

 そして、間違いがないことを確認して微笑みながら俺に言葉を返す。


『確認出来ました。こちらが商品とお釣りになります』

「ありがとうございます」


 俺はお釣りとプレゼント包装をされた小さな箱を店員さんから受け取る。


『サイズ直しは無料で行ってますから、万が一のことがあったら気兼ねなく来てくださいね』

「はい。とても助かります」


 そして、俺は小箱をカバンの中にしまう。


 時計で時間を確認すると十八時だった。

 帰宅は十九時頃になりそうだな。


 多分。もう家ではうちの親と美凪のお母さんが待ってるような気がする。

 きっとあいつの事だから、早く帰ってきて欲しいと思ってるだろうな。


「素敵な指輪をありがとうございました」

『いえ、こちらこそ。プロポーズが上手くいくことを祈ってますよ』


 店員さんはそう言って微笑みながら手を振ってくれた。


「はい。絶対に成功させますから」


 俺はそう言って、アクセサリーショップを後にした。



「よし。それじゃあ帰宅するかな」


 そう呟きながらバス停へと向かう。

 そして、バスを待っていると、スマホがメッセージを受信したと告げてきた。


 差出人は、美凪だった。


 メッセージの内容は俺が予想した通りのものだった。


『お願いします隣人さん。早く帰ってきて欲しいです……』


「なんて言うか……予想通りだな」


 俺は少しだけため息をつきながら、


『予約していた商品は無事に購入出来たからこれから帰るよ。大体十九時くらいだな』


 と返信しておいた。


『ダメです!ダメです!!ダメです!!!!もっと早く帰ってきてください!!』


「……はぁ、仕方ねぇなぁ」


 というメッセージがすぐに返ってきたので仕方が無いからタクシーで帰ることにした。

 まぁ出費としては痛いけど……仕方ないよな。


 俺はタクシー会社に連絡をして、ショッピングモールからはタクシーで家に帰った。

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