第二十九話 ~桜井さんとの事を美凪に話して何とか納得を得た件~

 第二十九話





「むー!!むー!!むー!!むー!!!!」

「ははは。むーむー星人が現れてるな」



 自分の席に戻ると、頬を膨らませた美凪が俺に向かって抗議をしていた。

 まぁ、なんとなくこうなるような気もしてたけど、仕方ないよな。


「また桜井さんと楽しくお話をしてましたね!!もー!!隣人さんの女たらし!!」

「いや、彼女と話をしてたのは明日の体育祭の実行委員に関してのことだから、別にそんなやましい事じゃないんだけど……」


 俺がそう言うと、美凪は人差し指を俺に突きつけて言い返してきた。


「貴方は気が付いていないんですか!!桜井さんは基本的には相手に対して『敬語』でお話をします!!」

「そうだな。礼儀正しい人だと思うよ」


 俺がそう言葉を返すと、美凪は眉を寄せながら声を荒くして言葉を返す。


「ですが!!隣人さんにだけは『タメ口』で話をしてるんですよ!!」

「ははは。敬語を使うまでもないような人間だと思われてるのかな?」

「違います!!彼女の『特別』だからじゃないんですか!?」


 美凪のその言葉を、俺は鼻で笑って答えてやった。


「何馬鹿なことを言ってんだよ。彼女の『特別』は自分の『家族』だけだよ。それ以外は有象無象だよ」

「…………え?」


「敬語の有無とかそんなのは些事だよ。彼女にとっては『家族』か『その他』か。俺もお前も幸也も奏も、その他の人間も、彼女にとっては等しく『有象無象』だよ」

「な、なんでそんなことがわかるんですか……」


「俺も同じ考え方をしてるからだよ」

「…………そ、そうなんですか?」


「俺は自分にとって『大切だ』と思う人には優しくするし、対応も変わってくる。だけどそうとは思わない人に対しては、どうでもいい対応をするからな。思考回路が似てるんだよ」

「それは……気が合うってことじゃないんですか?」


 疑うような視線を向ける美凪の頭を俺は撫でてやる。


「わわ!!な、何するんですか!!こ、ここは教室ですよ!!」

「お前があまりにわかってないことを言ってるからな」


 俺は美凪の目を見ながら言ってやった。


「俺が本当に大切だと思ってるのはお前だけだよ」

「と、とんでもないことをサラッと言ってきましたね!!」


 こんな教室で言う言葉じゃないですよ!!


 そんなことを、美凪は顔を赤くしながら言ってきた。


「まぁ、お前があまりにもわかってなかったからな。それで、理解してくれたか?」

「は、はい……理解しました……」


 首を縦に振ってそう言葉を返してくる美凪。

 俺は満足して頭から手を退けた。


「とりあえず、明日のLHRでの体育祭の実行委員を決める際に桜井さんは立候補しない。という約束を取りつけることが出来た」

「そ、そうですか……」


「でも、その代わりに彼女の生徒会業務を手伝うことになった」

「……え、な、何を手伝うんですか?そもそも隣人さんは生徒会には入らないって言ってましたけど、手伝うのは良いんですか?」


 少しだけ不安そうな表情をしている美凪に、俺は笑いながら言葉を返す。


「まぁ正式に入会するわけじゃないからな。それに、手伝うのは俺一人じゃ無いからな」

「そ、それは……どういう意味ですか」


「美凪も一緒にくるんだよ」

「えええええぇぇ!!!???」


 目を丸くする彼女に俺は業務内容を説明する。


「もう少しすると、学園の予算会議があるからな。その時期の告知を近年では生徒会役員が部長に直接話しをして回っているらしい」

「なるほど。まさかとは思いますが、その告知の案内を私と隣人さんでやるって話ですか?」

「ははは。そうだぞ」


 俺が笑いながらそう答えると、美凪は少しだけ呆れたように言葉を返す。


「なかなか大変なことを引き受けましたね。て言うか、その業務は本来桜井さんがやる方が良いのでは?生徒会役員の顔見せや、部長たちとのコミュニケーションの一環だと思いましたが」

「俺もお前と全く同じことを彼女に言った。そしたら『部長たちとのコミュニケーションよりお兄さんとの時間を大切にしたい』そう言われたな」


 俺がそう答えると、美凪は小さくため息をついた。


「はぁ……彼女のお兄さん好きは筋金入りですね。彼女にとって隣人さんが『特別』って事やはりなさそうですね」

「良かったよ。ようやく信じてくれたな」


 その言葉で美凪はやっと笑ってくれた。


「まぁ、貴方が女たらしなのはそのままですけどね!!」

「何でだよ……」


「優花ちゃんの言うように、凛太郎くんは女たらしだよ!!中学時代から何人もの女の子を泣かせてきたんだから!!」


 ケラケラと笑いながら奏がそんなことを言ってきた。


「くだらない冗談は辞めろよ、奏」

「いやいや、凛太郎は気が付いてなかっただけで結構な女の子が君のことを見てたよ?まぁ君は家庭のことで手がいっぱいだったからそれどころじゃ無かったんだろうけどね」


「まぁ、過ぎたことはどうでもいいだろ。ほら、美凪もいつまでも頬を膨らませてるなよ」


 中学時代のことに対してもむーむー言いそうな美凪の頬を俺はつんつんとつついてやった。


「お、女の子の頬っぺをそんなぞんざいに扱わないでください!!」

「ははは。悪かったな、今度からは丁寧に扱うよ」




 そして、そんなやり取りをしながら俺たちは学園での一日を過ごして行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る