最終話 ~失意のお嬢様へプロポーズをした件~ 前編

 最終話 前編




 玄関で靴に履き替えたあと、俺は扉を開けて外に出た。

 五月の夜は意外と寒く、少しだけ身震いをした。


「なるべく早く美凪を見つけてやらないとな」


 俺はそう決意を固めると、エレベーターへと向かう。


 自宅に戻った。なんてことはありえない。


 美凪の自宅嫌いは筋金入りだ。

 この一ヶ月の間であいつが自宅に入ったのは片手で数えられるレベルだ。


 そう考えると自ずとあいつの行き先は見えてくる。


「まぁ、十中八九あの公園だろうな」


 あの日。二人で散歩をした時に寄り道をした公園。


 美凪から「星が綺麗ですね」と言われた場所だ。


 貴方に好意を持ってるのは気が付いてますか?

 と言われたんだ。


 だから俺は「告白は俺からするから持っててくれ」そう答えたんだ。


 あいつはそれを理解してくれているように見えたな。


 そんなことを考えながら、俺はエレベーターを降りてマンションの敷地の外に出る。


「さて、あの公園まではここから五分位のところだよな」


 俺は小さくそう呟いたあと公園に向かって歩いて行った。



 そして、しばらく歩いていると以前立寄った公園が見えてきた。

 俺の視線の先には、ベンチに腰掛けている美凪の姿が見えた。


 良かった。やっぱりこの公園に居たな。


 俺は自分の予想が当たったことに安堵しながら、美凪の元へと急いだ。


「…………ばか」



 俺の部屋の合鍵を握りしめながら、美凪は小さく何かを呟いていた。

 良く聞き取れなかったが、きっと俺への罵倒だろうな。


 なんてことを思いながら、俺は彼女に声を掛ける。




「やっぱりここに居たんだな」


 俺がそう声を掛けると、美凪は俺の顔を見つめて声を出した。


「…………隣人さん」

「まぁ、探さなくて済んで良かったよ」


 俺はそう言いながら歩み寄ると、美凪はイヤイヤをするように頭を振りながら手を伸ばしてきた。


「な、何しに来たんですか……わ、私は戻りませんよ!!」


 何となく、そう言われるとは思っていたので俺は少しだけ笑いながら言葉を返す。


「お前が『致命的な勘違い』をしてるからな。それを正しに来たんだよ」

「ち、致命的な……勘違い……」


 美凪の雰囲気が少しだけ和らいだのを感じた。

 俺はその隙に彼女の隣まで移動する。


「座るぞ」

「は、はい……」


 美凪の隣に腰を下ろした俺は、彼女の目をみながら話をする。


「まず最初に。俺はお前と『兄妹』になるつもりは微塵も無い」

「そ、そうなんですか……」


 やっぱりな。まずはそこから話していかないとダメだよな。

 俺は少しだけ呆れたような気分にもなったが、しっかりと自分の気持ちを美凪に伝えていく。


「当たり前だろ?なんでお前から『お兄ちゃん』なんて呼ばれなきゃならないんだ。俺にそんな趣味は無い」

「て、てっきりそういうのを期待してるのかと思いました……」


 まぁ、お前から「お兄ちゃん」なんて言われるのは少しだけ興味があるけどな。

 なんてことを思ったけど、それは口には出さないでおいた。


「俺が二人の再婚に賛成したのは、単純に親父の幸せのためにだよ。花苗さんなら親父を任せられると思えた」

「そ、そうなんですね」


 ここで、俺は美凪の本心を聞くことにした。


「美凪だって、本当は再婚には賛成なんだろ?」


 片親の大変さはこいつだって知ってるはずだ。

 それに、うちの親父は悪い人間じゃない。美凪もそれは感じとってるはずだと思う。


「………………そうですね。本当なら賛成してます。洋平さんはとても良い人です。お母さんを大切にしてくれると思ってます。幸せにしてくれると思ってます」


 そこまで言ったあと、美凪は俯いて顔を隠した。


 母親の再婚には賛成だ。でも反対するのには理由がある。

 その理由。俺は手に取るようにわかる。


 だから、俺はこれから美凪に伝えなきゃならない。


 お前が心配するようなことなんか何も無いんだってことをな。


「なぁ、美凪。俺がこれから言う言葉を良く聞いてくれ」

「……え」


 俺が真剣な表情でそう言うと、美凪はこちらを見据えてしっかりと答えてくれた。


「わ、わかりました。隣人さんの言葉をしっかりと聞きますね」


 さぁ、言うぞ。ここからが俺の人生の分岐点。

 しっかりと気張れよ海野凛太郎!!


 俺は大きく深呼吸をして美凪に言った。







「俺はお前と『兄妹』としての家族では無く『夫婦』としての家族になろうと思ってるんだよ」

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