美凪side ③ 後編 その③
美凪side ③ 後編 その③
洗面所でドライヤーを用意して、私は隣人さんに髪の毛を乾かしてもらっています。
三回目。ともなればかなり上手にドライヤーを当ててもらえています。
彼から幸せな時間を与えてもらっている。そんな私ですがここまで漂ってくるとても良い匂いが気になります!!
「台所からすごく良い匂いがしています!!一体今日の夕飯は何ですか!!??」
「あはは。それはまだ内緒だ。でも会心の料理が出来たと自負してるよ」
チーズが焼けたような匂いと、コンソメの匂いがします。
もうお腹がやばいくらいに減ってきています!!
「俺は今まで『自分が美味しく食べられる料理』を作るために頑張ってきた」
「……なるほど」
「でもな、今日は『お前が美味しいと思うための料理』を作ったんだ」
わ、私のために全力を出してくれたってことです!!
こ、これほど嬉しいことは無いですよ!!
「貴方がそこまで言うとは……どんなものが出来てるのか、今から楽しみです!!」
私はとてもとてもとても!!嬉しい気持ちになりながら、彼に髪の毛を乾かしてもらいました。
そして、髪の毛を乾かし終えた私は隣人さんと一緒に居間へとやってきました。
先程から感じていたヤバい匂いはもうとんでもない事になっていました。
「や、ヤバいくらい良い匂いがします。一体何を作ったんですか?」
私の質問に、隣人さんはようやく答えをくれました。
「カレードリアとコンソメスープだよ。椅子に座って待っててくれ」
か、カレードリアとコンソメスープ!!
とんでもないご馳走です!!
ドリアは私の大好物です!!カレーがドリアになるなんて夢のようです!!
私はウキウキした気持ちでスプーンを用意してから椅子に座って夕食を待ちました。
少しすると私の前にカレードリアとコンソメスープが並びました。
りょ、料理が光ってます!!
昼に見たチャーハンなんて比じゃないです!!
これはとんでもないものが出てきました。
そしてこれらは全て私のために作られたものです。
隣人さんの私に対する『愛』を感じました。
「こ、これが隣人さんの本気……ですか……」
「そうだな。美凪に美味しいって言ってもらうために、全力で腕を振るわせてもらったよ」
隣人さんの本気が私のためだけに……
本当に、本当に、本当に嬉しいです!!
「早く食べたいです!!隣人さん、いただきますをしましょう!!」
「ははは。そうだな、俺もお腹がすいたよ」
私のその声に、隣人さんも笑いながら同意を示してくれました。
そして、私と隣人さんは「いただきます」と声を揃えて言いました。
私はカレードリアをスプーンでひと口掬って、ふーふーと息を吹きかけてから口に入れました。
一晩寝かせたカレーの中に、大量のチーズが入ってます。
カロリーの暴力にも思えますがこれがとても美味しいです。
そして下味が付けられたライスと噛み合って暴力的な味わいになってます。
でも……一番心に来たのはこの料理に込められた『隠し味』
彼の『心』です。
私と仲直りしたい。私を喜ばせたい。隣人さんの私に対しての愛情がたっぷりと込められています。
こ、こんなの……告白みたいなものですよ……
「どうだ、美凪。俺としては完璧だと思ってるけど……」
不安げな表情の隣人さん。
私はそんな彼に微笑みながら言葉を返します。
「本当に……本当に……とても美味しいです」
私の目にはうっすらと涙が浮かんでいたかも知れません。
それ程までに、隣人さんの本気の料理に感銘を受けてしまいました。
これより味が良い料理はあるかもしれません。
ですが、私は今日食べたこのカレードリアの味を絶対に忘れません。
これは、私の人生で『一番』の料理です。
「…………そ、そうか。そう言ってくれると嬉しいよ」
隣人さんはそう言うと、カレードリアを一口食べてそう言いました。
そして、そんな彼に私は自分の心を話すことにしました。
「……私は少しだけ、拗ねてたんですよ」
「……え?」
私はスプーンを置いてから彼の目を見て言葉を続けました。
「貴方の目の前にはこんなにも可愛い女の子が居るのに。なんで他の人を見てるんだこの人は!!って」
「そんなつもりはなかったんだけどな。ってのは言い訳だな」
そうでしょうね。多分猫カフェでの一件もあって私は少し神経質になっていたのかもしれません。
きっと、手を離したらどこかに行ってしまう。そんな焦りみたいなものがあったんですよ。
「あはは。私も余裕が無かったんですよ。だって、貴方は気が付いていないとは思いますけど、今日だって色々な女性が隣人さんのことを見てましたよ?」
「そうか。全く気が付かなかったな」
あはは。そうですよね。
きっと貴方は気が付いてないと思ってましたよ。
でも、こうして貴方を私だけの人にしたいって思う。
そんな私の『独占欲』がここまで強いとは思いませんでしたね。
「自分がこんなにも独占欲が強い人間だってことを、今日は初めて知りましたよ」
私は恥ずかしい気持ちを隠すように、スプーンを手に取ってカレードリアを口に運びました。
そして、そんな私に彼は言葉を放ちました。
「まぁ……この言葉をどう捉えるかは美凪に任せる」
「…………え?」
私が隣人さんの目を見つめると、彼な真剣な眼差しで言葉を返しました。
「俺はお前以外の女と恋人になろうとか、そういう気持ちを持つことは今後一切無いと言っておく」
「り、隣人さん……そ、それって……」
こ、こんなのは……じ、事実上の『告白』です。
戸惑う私に、隣人さんは少しだけ苦笑いをしながら言葉を続けました。
「だから……もう少し待っててくれないか?」
「…………え?」
それは、私が『あの日』に言った台詞です。
「必ず。俺がお前を幸せにする。そのための準備や仕込みを今はしているんだ。その過程でお前には不安な思いをさせたり、嫌な気持ちにさせたりするかも知れない」
「……そ、それは私に話して良いことなんですか?」
アクセサリーを用意していた時のように、きっと彼はサプライズを好む人です。
にも関わらず、こうして私にそれを話している。
彼の真意はどこにあるんでしょうか……
「本当は全部隠したまま、サプライズにしようと思ってたんだけどな。あまり隠しすぎても、美凪が不安になると思ったからな」
「そ、そうですか……」
あはは……そうですか。
私が不安になり過ぎないように、自分の気持ちはしっかりと表明してくれていたんですね。
「少しはお前の不安な気持ちを無くすことは出来たか?」
ふふーん。そうですね!!
あなたがそこまで私のことを『愛してくれている』のでしたら話は別ですよ!!
しっかりと待っていてあげます!!
こちらから『告白』をしてあげようかと思いましたが、貴方からの『告白』を待っていてあげますよ!!
「ふふーん。わかりましたよ、隣人さん。この美凪優花ちゃんは待てる女の子ですからね!!貴方の言う仕込みを楽しみにしていてあげますよ!!」
「あはは。そうか、ありがとう」
安堵の表情を浮かべる隣人さんに、私は真剣な目で問い掛けます。
「貴方を信じていいんですね?」
「もちろんだ。俺はお前を裏切らない」
隣人さんは私の目から逃げずにそう答えてくれました。
「了解です!!私は隣人さんを信じます!!」
私は残っていたコンソメスープをぐいっと飲み干しました。
とても美味しかったです!!
「ご馳走様でした!!とても美味しかったです!!」
「お粗末さまでした。それじゃあ食器を洗って、少しのんびりしたら歯を磨いて寝ようか」
「そうですね!!それでは一緒に食器を洗って行きましょう」
こうして私と隣人さんは初めての喧嘩と初めての仲直りを経験して、より仲を深めることが出来ました!!
ふふーん。まぁ色々なことがありましたけど、とても中身の濃い二日間だったと思います!!
そして、お母さんが不在の『一ヶ月』と言う時間があっという間に過ぎていきました。
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