第二十六話 ~約束の日が来たので今日の予定を美凪に話をしておいた件~

 第二十六話




『おはよう、凛太郎!!一ヶ月もかかったけど僕の仕事もようやく一段落がついたよ!!凛太郎は多分予想してるとは思うけど、とても大事な話があるから優花ちゃんと一緒に今日の夜は家に居てくれないかな!!夕飯は四人分よろしくお願いします!!』


 早朝。目を覚ました俺のスマホにそんなメッセージが届いていた。

 大事な話がある。そして夕飯は『四人分』用意して欲しい。

 あはは。もう確定事項だな。


 キチンと覚悟は決めていた。だから驚きはそこまでは無い。


 親父の留守から一ヶ月。美凪と同居生活をしたのも一ヶ月だ。


 この期間は本当に色々なことがあったと思う。


 美凪とは何度か二人でデートを繰り返した。

 恋人同士のような距離感になることもあったが、決定的なことは言っていないし、してもいない。

 全てはこの日のためにとっておいた。


 念入りに準備は進めてきたつもりだ。あとは決行に移すだけ。


 俺はベッドから出ると、机の上に置いてある財布の中を確認する。


「よし。大丈夫だな」


 財布の中には二桁以上の諭吉が居る。

 前日のうちから貯金の大半を下ろしてある。

 アクセサリーショップには、予約してある『あの指輪』を今日買いに行くと言う話をしてある。


 そして、肝心の美凪の指のサイズはあいつが寝てる時に採寸してある。


 急に太った。とかそう言うのが無い限りは大丈夫だろう。

 まぁ、サイズ直しは無料でやってくれるみたいだけど、入りませんでしたはかっこ悪いよな。


 そして、軽く伸びをした俺は親父の部屋から出て洗面所へと向かう。


 そこで冷水で顔を洗っていると、後ろから美凪がやって来た。


「おはようございます、隣人さん」

「おはよう、美凪」


 水に濡れた顔をタオルで拭い、俺は美凪に朝の挨拶をする。


 一ヶ月。少しはこいつの美少女っぷりに見慣れるかとも思ったが、そんなことは全くなかった。

 むしろどんどん可愛く見えて仕方が無くなってる。


『恋の病』とはよく言ったものだな。


 なんて思いながら美凪に洗面所を譲る。


「ありがとうございます」

「今日は俺が朝ごはんを作る番だからな。先に行って作ってるぞ」

「はい。了解です!!よろしくお願いしますね」


 だいぶ家事ができるようになってきた美凪。

 朝ごはんと夕ご飯は交互に作ることにしている。


 俺が朝ごはんを作れば美凪は夕ごはん。

 美凪が朝ごはんを作れば俺が夕ごはんだ。


 ちなみにお弁当は朝ごはんを作った人の仕事にしてある。


 なので、今日の夕ごはんは美凪が作ることになるだろう。

 ははは。あいつの成長を親に見せるチャンスだな。


 俺はそんなことを思いながら、スクランブルエッグとウインナー焼き。そして簡単なサラダと味噌汁を作っていった。




「お待たせ」

「いえ、そんなに待ってないので大丈夫です!!ですが流石は隣人さんですね、いつもとても美味しそうです!!」


 テーブルの上に並べた朝ごはんを見て、美凪は瞳を輝かせる。


「毎日そう言ってくれて嬉しいよ。それじゃあ冷めないうちに食べようか」

「はい!!」


 こうして俺と美凪は「いただきます」と声を揃えたあとに朝ごはんを食べ始める。


「うん。今日のスクランブルエッグは良く出来てるな」


 俺が自分の料理を自画自賛していると、美凪が少しだけ悔しそうな表情で言葉を返す。


「悔しいですけどこの焼き加減がなかなか上手くできないんですよね。私が最初に作ったものをなかなか超えられません」

「あはは。確かにお前が初めて作ったあのスクランブルエッグは完璧だったよな。でも、その後のやつも普通に美味しいぞ?」


「普通に美味しいって言って貰えるのは嬉しいです。ですが、パーフェクト美少女の美凪優花ちゃんですからね!!あくまでも理想は高いです!!」

「そうか。それならこれからも精進しないとな」


 そして、そんな話をしていると美凪が話を切り出してきた。


「先程私のスマホにお母さんからメッセージが届いてました」

「…………そうか」


 なるほどな。お前のスマホにもメッセージが着ていたのか。

 確信が深まっていくのを感じるな。


「お母さんが職場で暮らすことになって今日で一ヶ月になりますからね。ようやく戻って来れることになったみたいです」

「そうか。それは良かったな」


「その……それでですね。お母さんが不思議な事を言ってきたんです」

「……不思議なことか」


 小首を傾げる美凪に俺は言葉を返す。


「大切な話があるから、隣人さんと一緒に家にいて欲しい。って言われたんです。それも私の家ではなくて貴方の家で待ってなさいって言われました」

「なるほどな。それは不思議なことだな」


「貴方の家で暮らしていることはお母さんも知ってる事なんですけどね。まぁ私としてはあの部屋に行かなくて良いと言うのは願ってもないことですので!!」

「あはは。お前の自分の家嫌いは治らなかったな」


 あの日の一件以来。美凪はほとんど自分の家に入ることは無かった。


「こうして貴方と一緒に暮らしているんですからあの家に帰る必要は無いですからね!!」

「そうか。あと俺からもお前に話があるんだ」

「…………え?」


 首を傾げる美凪に俺は理由の説明をする。


「放課後にちょっと寄りたいところがあるんだ。だから今日は一緒に帰れない」

「そ、そうなんですか。ちなみにどこに行く予定なんですか?」


 そうだな。あまり隠すのもあれだからな。

 行く場所の話はしておくか。


「予約してるものがあってな。この間に行ったショッピングモールに寄る予定だ」

「ショッピングモールですか。そうすると帰ってくるのは少し遅くなりますか?」


「そうだな。夕飯を用意して待っててくれないか?一応今日は俺の親父も帰ってくるみたいでな。四人分の夕飯を用意して欲しい」

「四人分ですね。わかりました!!今日は肉じゃがを作ろうと思ってたので、多少人数が増えても大丈夫です!!」


 肉じゃがは美凪の『得意料理』だからな。

 こいつの成長を見せる意味でもうってつけかも知れないな。


「美凪の肉じゃがは美味いからな。お前の成長を見せてやるんだな」

「ふふーん!!あの頃の私とは違うと言うことをお母さんと洋平さんに見せつけてやりますよ!!」


 グッと拳を握りながら美凪は笑顔でそう言った。


 そして、俺と美凪は朝ごはんを食べ終わったあと自室に戻ってから制服に着替えた。


 さぁ、今日が勝負の日だ。

 この日のためにずっとずっと我慢と準備をしてきたんだ。


 しっかりと決めろよ海野凛太郎!!


 俺は気合を入れて部屋の扉を開いた。

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