美凪side ③ 中編 その⑤

 美凪side ③ 中編 その⑤





「ちょっとお化粧を直してきますね」

「了解だ。のんびり猫でも眺めてるから急がなくていいからな」

「ふふふ。ありがとうございます」



 食事を終えたあと、私はお化粧を直すために御手洗へと向かいました。


 そして、お花摘みを終えたあとに手を洗っていると、若い女性の二人組が隣人さんを指さしていました。


「ねぇ、あの人すごくかっこいいよね!!」

「すごく好みなんだけど!!もしかして一人で来てるのかな?」


 なんて話をしてるのが聞こえてきました。


 はいはい。わかりますよ。隣人さんはとてもかっこいいですからね。

 ああして椅子に座ってる姿も背筋が伸びてますし、私が見繕った洋服とも相まってとても様になってます。


 誇らしい気持ちもありますが、私の隣人さんです。

 あなた達には指一本触れさせませんからね!!


「失礼ですが、彼は私の連れですので」


 私は女性二人に強い視線を向けながら言葉を放ちました。

 変にちょっかいをかけられても迷惑ですからね。

 立場はしっかりとわからせないといけませんからね!!


「……え?あぁ……そぅ」

「……ふぅん?」


 私の声に振り向いた二人が、私のことを値踏みする様な視線を向けました。

 ふふーん!!構いませんよ!!

 彼我のレベルの差を思い知るが良いです!!


「……独り身じゃないなら声はかけないわよ」

「お幸せにー」


 女性二人はそう言い残すと、店内へと戻りました。

 彼女たちの言うように、隣人さんの元には向かわずに自分のテーブルへと向かって歩いていました。


「まぁ……彼はとてもかっこいいですからね。これからもこういうことは増えそうですね」


 チラリと隣人さんに視線を向けると、そんなこともつゆ知らず、ガラスの向こう側の猫ちゃんを眺めているようでした。


 自分がどれだけ『モテる男』かわかってないんでしょうね!!


 私は彼の鈍感さに少しだけ憤りを覚えましたが、良い女なので許してあげることにしました。



 そして、私がテーブルへと戻ると、隣人さんは店員さんを呼んでくれました。


 店員さんからは猫ちゃんとの触れ合いに関しての注意事項を教えて貰いました。


 そうですよね。生き物を触る訳ですから、細心の注意が必要です!!


「生き物に触れる訳ですからね、やはり注意していかないと行けませんからね」

「そうだな。決して乱暴にしてはダメだからな」


 そして、店員さんからの指導を終えた私と隣人さんはガラスの扉の前に立ちます。


「さぁ!!いよいよご対面ですね!!」

「そうだな。ちゃんと懐いてくれると嬉しいな」


 扉の前に猫ちゃんが居ないことを確認してから、ゆっくりとガラスの扉を開きました。


 すると、部屋の中はアロマのような落ち着いた匂いに包まれていました。隣の隣人さんを見ると、彼もこの香りに驚いていたようでした。

 そうですね。もう少し生き物臭い感じを想像してましたからね。そんなことは無かったです!!


「もっと生き物臭いのを想像してましたが、全くそんなことは無かったですね!!」

「そうだな。……おっと、俺の足元に早速一匹やってきたな」


 すると直ぐに白い毛並みの気品に溢れた猫ちゃんが隣人さんの足にすり寄ってきました。


 ず、ずるいです!!というか早すぎじゃないですか!!??


 隣人さんは店員さんに教わったように、そっと人差し指を猫ちゃんに差し出しました。

 これは挨拶です。

 すると、猫ちゃんはクンクンと匂いを嗅いだ後に、頬擦りをしてるじゃないですか!!


 もう!!ずるいです!!ずるいです!!ずるいです!!!!


「……やべぇ。可愛いな」


 デレデレの隣人さんに、私は思いの丈をぶつけました!!


「ず、ずるいですよ隣人さん!!」


 そして、隣人さんが胡座をかいて座ると、白い猫ちゃんは彼の脚の中に入って行くじゃないですか!!


「人懐っこい猫なんだな」


 彼はそう言いながら、猫ちゃんを撫でていました。

 その表情はとても穏やかでした。


 ね、猫ちゃんに嫉妬しそうですけど……


 こ、ここに来た理由を忘れる訳にはいかないです!!


「私も早く猫ちゃんと戯れたいです!!」


 私は軽く周りを見渡しました。

 そして、三匹ほどの猫ちゃんが集会をしている場所を見つけました。


 ふふーん!!あそこに行けば猫ちゃんと戯れられます!!


「えへへ……怖くないですよー」


 私は猫ちゃんを怖がらせないように、手を広げながらゆっくりと忍び寄りました。


 で、ですが……私が近寄ると、猫ちゃんたちは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまいました……


「なぁ!!なんでですかぁ……」


 そして、私は諦めずに何度もチャレンジをしました。


 五匹くらい集まっているところにも行きました。

 一匹だけのところにも行きました。


 ですが、どの猫ちゃんも私が近寄るとみんな逃げて行くでは無いですか……


「つ、辛いです……心が折れそうです……」


 そんな私が隣人さんの方を見ると、信じられないような光景が目に映りました。


 あ、胡座をかいている隣人さんの周りに猫ちゃんが集っています!!


 あ、あれはさながら猫ちゃんハーレムです!!


「……お、おかしくないですか!!なんで隣人さんの周りにはそんなに猫ちゃんがいるんですか!!」

「あはは……なんかオーラでも出てるのかな?」


 私のその言葉に、隣人さんは猫ちゃんを撫でながらそんな言葉を返してきました。

 もう……猫ちゃんには逃げられるし、彼の隣は奪われてしまってます……ずるい……ずるいです……


「隣人さんの隣は私の場所なのに……ずるいです……」

「ほらこっちに来いよ、美凪。今ならみんな寝てるから触れるぞ」


 私は彼の言葉に従い、静かに近寄りました。


 そして、眠っている猫ちゃんにそっと手を差し伸べました。


 サラサラの毛並み。とても幸せな感触です!!


「や、やっと触れました……っ!!」

「ははは。良かったな、美凪」


 私は彼の隣に座り、たくさんの猫ちゃんを撫でました。


 その時でした。


 隣人さんが私の頭を撫でていました。


「り、隣人さん……」

「……あ」


 私が隣人さんの方に視線を向けると、彼は私の頭から手を離してしまいました。

 少しだけ名残惜しかったです……


「すまん……なんか撫でたくなってな……」

「そ、そうですか……」


 ふふーん?まあこの超絶美少女の美凪優花ちゃんですからね!!

 猫ちゃんよりも魅力的に映ってしまうのは仕方ないです!!


 なので、私は彼に私の頭を撫でさせてあげることにしました。

 け、決して私が撫でて欲しかった訳では無いですよ!!

 あくまでも!!隣人さんが!!望むからです!!


「どうぞ……」

「い、良いのか?」


 不安そうな隣人さんに、私は言ってあげました。


「貴方の隣は私の場所ですからね……猫ちゃんには渡したくないです……」

「でかい猫だなぁ……」


 し、失礼ですね!!

 ですが、こうして隣人さんに撫でてもらうととても幸せです……にゃん


「えへへ……とても気持ちが良いです……」

「そうか。俺も猫よりお前の方が良いかもしれないな」


 そんなことを言う隣人さん。

 ふふーん!!それは当然ですよ。猫ちゃんがいかに可愛くても私には負けますからね!!


「ふふーん。それは当然ですよ。この美凪優花ちゃんがそこら辺の猫ちゃんに負けるなんて有り得ないですからね」

「猫カフェに来たのに、猫よりもお前の頭を撫でてるとか、来た意味が無いかもしれないな……」


 そうですか。でしたら隣人さんに幸せをプレゼントしてあげますよ。

 私は彼の膝の上に頭を乗せてあげました。


「おい……なにしてやがる」

「ふふーん。この超絶美少女の美凪優花ちゃんに、膝枕をする権利を隣人さんに差し上げますよ」


 光栄に思ってくださいね!!私に対して膝枕を出来るなんて、隣人さんは幸せ者です!!


「これじゃあ美凪猫だな……」


 ぶっきらぼうにそんなことを言う隣人さん。

 ですが、その手は優しくわたしをなでてくれました。


「ふふーん。幸せだにゃん……」


 おなかいっぱいで、横になって、彼の手で撫でてもらって、私はなんだか眠くなってきました……


 このまま眠ったら……幸せですね……


 私は甘い誘惑に身を任せて、夢の中へと旅立っていきました。


 彼が私に向けて何かを言って、そのままキスをしてくれたように思えたのは、きっと幸せな夢だと思います。

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