美凪side ③ 中編 その⑥

 美凪side ③ 中編 その⑥




 猫カフェで隣人さんの膝枕を堪能していた私。

 30分程経ったところで目を覚ましました。



「……ふぁあ……寝てしまいました」


 私は彼の膝から顔を離して、少しだけ身体を伸ばしました。


 隣人さんの様子を見ると、彼もすやすやと眠っていました。


「ふふーん。こうして無防備に寝ているという事は、イタズラをされても仕方ないという事です」


 私はそう呟いたあと、彼の頬に軽くキスをしました。


 ふ、ふふーん!!こ、このくらいのイタズラなら許してもらえると思いますからね。


 それにこれは『マーキング』です。


 ちょっと目を離すと直ぐに彼は他の女性の視線を集めてしまいますからね!!


 そして、私は隣人さんの身体をそっと揺らしながら声を掛けました。


「隣人さん……起きてください?」


 薄らと隣人さんの目が開き始めました。


「ほら……隣人さん……起きてください……」


 私がそう言うと、彼の目が私の目と合いました。


「…………すまない。かなり爆睡してたか」


 少しだけ申し訳なさそうな声色で彼がそう言いました。


「あはは……私も人のことを言えた身分では無いですけどね……」


 私も少しだけバツの悪さを感じながらそう言葉を返しました。

 そして、軽く周りを見て店員さんが近くにいないことを確認しました。

 利用方法外の過ごし方だと思いましたからね。

 あまり推奨はされないと思います。


「あまり眠っていると、店員さんから注意されてしまいますからね。とりあえずは大丈夫そうですけど」

「そうか……それは良かったよ」


 隣人さんはそう言うと、すくっと立ち上がって身体を伸ばしました。


「あー……でも頭がスッキリしたな。昼寝としては最高の時間だったかもしれないな」

「あはは。そうですね。私も気持ち良く眠れました。そんな場所では無いんですけどね」


 あはは。彼のその言葉に同意はしますけど、そんな場所では無いですよね。

 ですが、彼に沢山頭を撫でて貰って、膝枕で眠ることが出来たのはとても幸せな時間でした。

 猫ちゃんとはもう少し戯れたい気持ちはありましたけど……


 私はそんな気持ちになりながらも、時計を確認してから彼に言葉を掛けました。


「さて、隣人さん。そろそろ良い時間ですのでお店から出ますか」

「そうだな。あまり長居すると他のお客さんにも迷惑になりそうだからな」


 そして、私と隣人さんはお会計を済ませてお店の外に出ました。

 店員さんからは特に注意とかもされなかったので、許されたのだと思いました。


 私が腕時計で確認すると十五時を少し過ぎた頃でした。

 まだ帰るには少し時間が早いと思いました。

 もう少し……隣人さんとどこかで遊びたいなと思います。


「帰るにはまだ早い時間ですよね。私、もう少し遊びたいです」

「あはは。そうだよな。俺も同じことを考えてたよ」


 そうですよね!!これほどの美少女とのデートです!!

 こんな時間で終わらせるのは勿体ないですよ!!


「もし良かったら、漫画喫茶でも行かないか?」

「行きます!!」


 彼の提案に私は即答で答えました!!

 漫画喫茶!!行きたいです!!


 お金の都合で買えなかった漫画とか沢山ありますからね!!

 そう言うのが読めるのですから、私にとっては天国です!!

 それに、漫画喫茶に行くのは初めてですからね。

 とても楽しみです!!


「美凪に猫アレルギーがあったらそっちにしようと思ってたんだ。二時間くらいペアシートで漫画を読んだりして時間を過ごそうか」

「はい!!私、漫画喫茶って初めてなので楽しみです!!」


 二時間も漫画が読み放題なんてとても幸せですね!!

 私はとてもルンルン気分で彼と一緒に漫画喫茶に向かいました。



 ……その場で彼のあんな一面を見ることになるとは、この時は思いもしませんでした。




『漫画喫茶』


 帰宅する方向にある駅の前。私でも名前を聞いたことがあるようなメジャーな漫画喫茶がありました。

 外観は綺麗ですし、建物の中は一見するとホテルのようにも見えますね。


 もっと暗くてジメジメしたようなのを想像してました。

 あはは。失礼な想像だったみたいです。



「漫画喫茶ってもっとジメジメした暗いところを想像してましたが、明るくて綺麗でホテルみたいです!!」

「あまり褒められたものでは無いけど、ここで寝泊まりする人もいるみたいだからな。まぁ言っちゃ悪いけど、そうはなりたくないとは思うよ」


 ……ニュースにもなってましたね。

 私もそうはなりたくないとは思います。


「なるほど。色々な利用客が居るんですね……」

「別に何かの犯罪に巻き込まれるとかそういうのは無いし、常識的な利用方法をしてればなんの問題もないよ」

「あはは。なるべく貴方から離れないようにしておきます」


 私は少しだけ怖くなって、隣人さんの腕を抱きしめました。

 そんな私の頭を彼は優しく撫でてくれました。

 えへへ。そうしてもらうと、怖い気持ちは無くなっていきました。


 そして、私と隣人さんはカウンターへと向かいました。

 彼は備え付けの呼び鈴を鳴らしました。

 リーンという音が鳴ると、奥から一名の店員さんがやって来ました。


『お待たせしました。会員カードはお持ちですか?』


 店員さんのその言葉を受けて、隣人さんはお財布から会員カードを取り出しました。

 ふむ……初めての利用では無い。ということですね。


「大人二人。ペアフラットシートで二時間の利用でお願いします」

『かしこまりました。…………70.71番のペアシートになります。どうぞごゆっくりお楽しみください』


 隣人さんは慣れた感じで手続きを終えると、伝票を挟んだバインダーを手に取りました。


「は、早いですね……」

「まぁな。それに会計は帰る時だしな」


 そんな彼に私はドリンクバーへと案内されました。

 そこで私は信じられないものを見つけました!!


 な、なんですかアレは!!??

 そ、ソフトクリームを作る機械ですよ!!


「ここがドリンクバーだ。好きな飲み物を選べる場所だ」

「り、隣人さん!!ソフトクリームの機械があります!!あれは一回いくらですか!?」


 ソフトクリームが無料で食べられるとは思えません!!

 1回いくら位するんですかね!!


「実はあれも無料なんだ」


 隣人さんのその言葉に、私は驚きを隠せません!!


「ほ、本当ですか!?ソフトクリームが食べ放題とか天国じゃないですか!!」

「それに、隣に置いてあるチョコチップやチョコシロップ。メープルシロップも無料だ」


 と、トッピングまで無料ですか!!赤字覚悟の営業では無いですかね!!


「そ、そんなので利益が取れるんですか!?」


 そんな私に、隣人さんは少しだけ心配するような目で言ってきました。


「先に言っておくぞ、美凪」

「は、はい……」


 な、なんでしょうか……


「ソフトクリームは三回までにしなさい」

「ガーン!!!!」


 10回くらい食べようと思ってました……


「あまり食べると腹を冷やすからな。三回が限度だと思いなさい」

「はい……わかりました……」


 た、確かにそうですね……

 食べ過ぎは良くないですからね。


 私は少しだけ残念な気持ちを抱きましたが、我慢することにしました。



 そして、私と隣人さんは飲み物と漫画を持ってペアフラットシートに向かいました。

 私のソフトクリームにはたっぷりとチョコレートソースをかけてあります!!

 ふふーん!!こちらも今から楽しみです!!



「久しぶりに一巻から読みたい漫画があったからな。ちょうど良かったよ」


 隣人さんはそう言うと、部屋の奥に身を移しました。

 そ、その……意外と狭いというか……近いんですね……


「お、お邪魔します……」


 私は飲み物とソフトクリームをテーブルの上に置いてから、彼の隣に腰を下ろしました。


「…………ち、近くないですか?」

「まぁ……もともとはカップルシートって言われてるやつだからな」


 少しだけ頬を赤く染めながら、隣人さんはそんなことを言ってきました。


「か、カップルシートですか!?」


 少し声だけ声を大きくしてしまった私に、隣人さんは人差し指を立てて「シー」としました。


「あまり大きな声を出さないようにな。ここは公共の場だと思ってくれ」

「わ、わかりました……」


 そ、そうですね。反省します。


 すると、他の利用者さんも静かにしてるのでしょうね。

『暗くて静かな場所』です。


 私は少しだけ怖くなって、彼に言葉を掛けました。


「と、隣に行っても良いですか?」


 私の苦手な場所の話を聞いていた隣人さんは、軽く笑いながら了承を示してくれました。


「あはは。良いぞ。せっかくだから隣合って読もうか」

「は、はい!!」


 私と隣人さんは肩を寄せあって漫画本を読み始めました。

 えへへ。なんだか幸せな時間です。


 そう思っていた時でした。


「……は?」

「……どうかしましたか、隣人さん?」


 何やら隣人さんが顔を上げて周りを見渡し始めました。

 どうしたのでしょうか?

 なんだか少し頬が赤くなってるような気がします。


「い、いや……その……」


『…………こんな場所で……ダメ……ん……』


 お、女の人の嬌声が聞こえてきました……


 な、何をしてるんですかね!!こんな所で!!


「…………り、隣人さん……そ、その……」

「はぁ……美凪にも聞こえたのか……」


 私の言葉に、隣人さんが少しだけ呆れたうな表情でそう言ってきました。

 な、なんか初めての経験では無さそうな雰囲気を感じます。


「ど、ど、ど、どうしたら良いんですか?」

「まぁ……シカトするしかないよなぁ……」


 そんなことを言う隣人さん。

 ……なんか、耳を澄ましてそうな雰囲気を感じます。

 ……ふーん。そんなに気になるんですか?女の人の声が。


「ど、どうしたんだよ……美凪」


 そんな私の視線に気が付いたのでしょうか?

 少しだけバツが悪そうな表情で隣人さんが私に聞いてきました。


「他人の声でえっちな気分になってませんか?」

「…………え?」


 図星を突かれているような表情にみえますね!!

 もう!!こんなに可愛い女の子が目の前に居るのに、なんでそんなに周りのことを気にするんですかね!!


 私はちょっとだけ!!不機嫌になったので彼の腕を抱きしめることにしました!!


「み、美凪!?」

「ダメですよ……他の人でそういう気分になるのは私が許しません……」


 わ、私でそうなるのは許してあげます……

 で、でも……他の人でなるのはイヤです!!



「なってない!!なってないから離れてくれないか!!」


 慌てたような隣人さんの声。

 ふん!!そんなの許してあげるわけないです!!


「嫌です。私が満足するまでは離れません」


 私がそう言うと、隣人さんは少しだけ困ったように言葉を返しました。


「ぐ、具体的にはどのくらいの時間をこうしてるつもりなんだ?」

「あと二時間はこうしてようと思います」

「に、二時間!?」


 当然です!!もう!!貴方が悪いんですからね!!

 反省してください!!


「貴方がいけないんですからね。他の女の人に鼻の下を伸ばすから……」

「の、伸ばしてなんか……」


 伸ばしてました!!ささやかに聞こえるくらいの女の人の嬌声を聞こうと耳を澄ましてました!!

 そんなに気になるんですか!?

 もう!!隣人さんのえっち!!


「伸ばしてました!!むーー!!!!許しませんからね!!」


 私は隣人さんの腕から身体に目標を変えて、抱きしめることにしました。

 彼の胸板に顔を埋めてギューッと抱きしめます。


 隣人さんの白いTシャツに少しだけ私の化粧が移りましたけど気にしないことにします!!


 もう!!ばかばかばかぁ!!!!


 こうして私は漫画を読むことも、ソフトクリームを食べることも辞めて、隣人さんの身体をずっと抱きしめていました!!

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