美凪side ③ 中編 その④
美凪side ③ 中編 その④
西川さんのインタビューを終えたあと、隣人さんが私に切り出しました。
「じゃ、じゃあ……猫カフェに行こうか、美凪」
優花とはもう呼んではくれないんですね。
その事に少しばかりの寂しさは覚えましたが、私は彼に了承を示しました。
「そ、そうですね……隣人さん……」
先程のインタビュー。やはり少しだけ恥ずかしい気持ちはありましたね。
失ったものものも多かったように思えますが、得たものも多かったです。
そして、猫カフェへと向かう途中。
やはり先程のインタビューを引きずっていた私と隣人さん。
少しだけ気まずい雰囲気がありました。
「……なぁ、美凪。俺があの場で言った言葉だけどな」
そんな中、隣人さんはそう言って私に話を始めました。
私は彼の目を見つめながら、言葉の続きを待ちました。
彼はそんな私の目を見ながら言葉を続けました。
「別に嘘とか思ってもいない事とかじゃないからな」
真剣な表情。その場限りの言葉じゃないという彼の真意に触れて、私の心臓が跳ねました。
「……そ、そうですか」
か、顔が熱くなるのを感じました。
きっと今の私は真っ赤な顔をしてると思います。
は、恥ずかしいですね……ですが、彼がそう言ってくれたのですから、私も本心を話さないと不誠実です。
私は歩みを止めて、彼の目を見つめながら言葉を返します。
「私も、あの場で言ったことは嘘とか思ってもいない事とかではありません。こうして隣人さんと手を繋いで歩いている時間も、とても幸せなものですから」
「そうか……」
私の言葉を受けて、隣人さんは視線を少しだけ逸らしました。
彼の耳が真っ赤に染ってるのがわかりました。
ふ、ふふーん。勇気を出したかいがありましたね。
そんなやり取りをして、私と隣人さんは猫カフェへと向かいました。
先程まであった気まずさは無くなりましたが、照れてしまうような甘い空気が残っていたように思えました。
そして、しばらく歩いていると目的地へと辿り着きました。
「着きましたね。色々喋ったのでちょっとお腹が減ってます。ご飯物とか食べたい気分ですね!!」
私は先程までの空気を飛ばすように、少しだけ声を張り上げました。
「あはは。そうだな。オムライスとかドリアとかあったらいいな」
そうですね!!オムライスもドリアも大好きです!!
特にカレードリアは最高に大好きですね!!
そんなことを考えていると、店員さんが一名やって来ました。
「すみません。予約とかしてないんですが、利用しても大丈夫ですか?」
隣人さんは店員さんに対してそう問い掛けていました。
きっと彼のことです。本来ならば予約をしておきたかったのでしょうね。
ですが、万が一私が猫アレルギーとかを持っていた時にはキャンセルしなければならない。と思っていたのでしょうね。
隣人さんの言葉に店員さんは笑顔で答えました。
『大丈夫ですよ。すぐにご案内出来ます』
「そうですか、ありがとうございます」
結構な人気店ですが大丈夫だったようです。
彼は店員さんに一礼していました。
本当に彼はしっかりしている人です。
店員さんに対して横柄な態度を取らない。
こういう所も好感が持てます。
「良かったですね!!これで猫ちゃんと戯れられます」
「そうだな。でもまずは昼ごはんを食べながら猫を眺めていこうか」
私の言葉に、彼は笑顔で答えてくれました。
そして、店員さんに案内された席に座ったあと、私と隣人さんはメニュー表に目を通しました。
少しすると店員さんが水を持ってきてくれました。
私はその水を一口飲んでからメニューを確認していきます。
ふむふむ……多少割高ではありますが、こんなものでしょうね。ですがメニューは豊富ですね。
まぁ……冷凍食品かと思いますが。
先日。冷凍食品を食べましたが、まぁまぁの美味しさでしたからね。とりあえずお腹に入れば良しとしましょう!!
「私はミートスパゲティとミートドリアにします!!飲み物はオレンジジュースですね」
私がそう言うと、彼もオーダーを決めたようです。
「俺はカルボナーラと……え?チャーハン??」
ちゃ、チャーハンですか?
彼の言葉を聞いた私はメニュー表を確認しました。
あ、ありました……ご飯物の中にしれっとチャーハンの文字があります。
洋風メニューの中にチャーハンが一つだけ。
ラーメンとか餃子とかそういうのはありません。
い、異様な雰囲気を感じます。
少しだけ気にはなりますが、冒険はしないでおきましょう。
なんて思っていると、隣人さんは違ったようです。
「良し。俺はカルボナーラとこのチャーハンを頼もう。飲み物は烏龍茶だな」
あはは。どうやら彼はチャーハンを頼むようですね。
「へぇ。こんな場所でチャーハンなんて珍しいですね」
「もしかしたらめちゃくちゃ美味しいかもしれないな」
私の言葉に、隣人さんはそう返してきました。
そうですね。もしかしたら大当たりかもしれませんからね。
そして、隣人さんは店員さんを呼ぶために呼び鈴を鳴らしました。
リーンという音が鳴り響くと、店員さんがやって来ました。
『ご注文をどうぞ』
注文表を持った店員さんに、隣人さんが注文を伝えていきます。
「えーと。彼女がミートスパゲティとミートドリアでお願いします。俺がカルボナーラとチャーハンです。飲み物は彼女がオレンジジュースで俺が烏龍茶です」
『ご注文を確認します。ミートスパゲティが一つ。ミートドリアが一つ。カルボナーラが一つ。チャーハンが一つ。オレンジジュースが一つ。烏龍茶が一つ。飲み物はいつお持ちしますか?』
「美凪はどうしたい?」
そうですね。飲み物は食後が良いですね。
「食後でいいですよ」
「じゃあ飲み物は食後でお願いします」
『かしこまりました。それではお待ちくださいませ』
店員さんはそう言ったあと、私たちのテーブルを後にしました。
そして、私は隣人さんに先程のチャーハンの話をしました。
「正直な話。チャーハンは私もすごく気になってたんです」
「あはは。だよな。あれだけなんだか異彩を放ってたからな」
そう言って笑う彼に、私はガラスの向こう側を指さします。
「それにしても見てくださいよ、隣人さん。めちゃくちゃ可愛い猫ちゃんがこっちを見てますよ」
チャーハンも気になりましたが、私はもうあの猫ちゃんたちが気になって仕方ないです!!
早く戯れたいですね!!
「飯を食い終わったらあっちに入れる感じだからな。それまでは見て楽しむってやつだ」
「今からワクワクが止まりませんね!!」
彼と話をしていると、頼んでいた料理がやってきました。
あはは……やっぱり予想していましたけど『冷凍食品』を少しアレンジしたものですね。
まぁ、仕方ありません。私の舌を満足させてくれるのは隣人さんの料理だけですからね。
「ははは。何となく予想はしてましたけど、やっぱり冷凍食品ですね」
私のその言葉に、お店側を隣人さんは擁護するように言葉を返しました。
「まぁ、前も言ったけど、冷凍食品だって美味しいからな。これを超える味を出すのはなかなか手間だからな」
そうですね。別に美味しくないわけじゃないですから。
隣人さんの料理には負ける。そういう話ですから。
なんて思いながら彼と「いただきます」と言おうとしましたが、チャーハンがまだ届いてません。
「おや、そう言えばチャーハンがまだでしたね」
「そうだな。チャーハンの冷凍食品もなかなか美味しいけどな」
そんな話をしていると、店員さんがチャーハンを持ってきました。
『お待たせしてしました。チャーハンです』
「マジかよ……」
「こ、これはすごく美味しそうです……」
み、見ただけでこれはわかりますよ!!
どう考えても冷凍食品ではありませんし、本気で作られた一品だと言えます。
具材は卵とネギとベーコンの三種類のみですが、料理が光ってます!!食戟のソー○のようなオーラが見えます!!
食べたら服が弾け飛ぶかも知れませんね。
一つ言えることは、このチャーハンは絶対に美味しいと言うことです。
そして、私たちは「いただきます」と声を揃えた後に、昼ごはんを食べ始めました。
私は好物のスパゲッティを一口食べました。
あはは……良くも悪くも冷凍食品ですね。
ミートソースの味もそうですが、まぁこんなものでしょうね。
「あはは。やはり良くも悪くも冷凍食品という感じがしますね……」
私がそう言ったあと、隣人さんはのチャーハンを一口食べて目を見開いていました。
「……やべぇ、美味い」
彼がそこまで言うなんて尋常ではありません。
私はそのチャーハンがとても気になりました。
「ひ、一口くれませんか……?」
私のその言葉に、彼はチャーハンをレンゲに一口分救ってから差し出しました。
そして、軽く苦笑いをしながら私に言いました。
「わかった。先に言っておく。俺にはこれは作れない」
「そ、それ程の味ですか……」
「あーん」の形になっていますが、特に気にしないで良いでしょう。私はチャーハンの味が気になります!!
そして、チャーハンを一口食べた私は驚きました。
こ、これはすごく美味しいです!!
ご飯はパラパラで、シンプルな具材を使っているので、とても優しい味がします。
こんな猫カフェで出てきて良い料理じゃないですよ!!
「ヤバいですね、これは!!とんでもない味ですよ!!」
「使ってる具材が高価なものじゃないから、値段も500円だしな。こんな猫カフェで出てきていいような料理じゃないぞ」
そ、そうですね。この料理は特別高いものでもなかったですからね。
私は少しだけはしたないとは思いましたが、彼にもう一口をねだることにしました。
「も、もう一口貰ってもいいですか?」
その言葉に、彼は少しだけ寂しそうな、悔しそうな、そんな表情を浮かべながら言葉を返しました。
「ははは。お前がそこまで言うのは少し悔しいな。さっきは無理って言ったけど、このレベルの料理に挑戦してみるのも悪くない」
私は彼からもう一口のチャーハンを貰い、咀嚼して飲み込みました。
そうですね。このチャーハンは確かに『美味しい料理』だと思います。
ですが私を『幸せにしてくれる料理』では無いんです。
そう『一番』では無いんですよ。
だから私は彼にそれを伝えることにしました。
ふふーん。拗ねてる表情の隣人さんも可愛いとは思いますけどね。
「確かにこのチャーハンはとても美味しいと思います。ですが私にとっての『一番』は隣人さんの料理ですよ」
「そ、そうか……」
私の言葉に、彼の表情が少しだけ緩みます。
「貴方の料理は、私を幸せにしてくれますからね。お腹を満たすだけじゃなくて、心も満たしてくれます。あはは……なんだか恥ずかしいことを言ってますね」
私は照れくささを隠すように、ミートドリアを一口食べました。
あはは。先程のチャーハンと比べると雲泥の差ですね。
そんな私を見ながら、彼が何かを言ったように思えましたが、良く聞こえませんでした。
ふと顔を上げて彼を見ると、真っ赤になった顔を隠すように一心不乱にチャーハンを食べている姿が見えました。
「ふふーん。心配しなくても、私の飯使いさんは隣人さんだけですよ」
私はそう呟いてから、残ったドリアを咀嚼して飲み込みました。
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