美凪side ③ 中編 その③

 美凪side ③ 中編 その③





 映画館を出た私はとても上機嫌でした。

 いやーとても幸せな時間を過ごせました!!


 やはり映画は劇場で見ないといけませんね。

 家のテレビでは迫力が足りませんからね!!


「いやー素晴らしい内容の映画でしたね!!私は大満足です!!」


 私が隣人さんにそう話を振ると、彼も首を縦に振りながら同意を示してくれました。


「そうだな。丸くなったなんて言われてたけど、全然そんなこと無かったな。世界観は全く損なわれて無かったよな」


 ふふーん!!そうですね、やはり私が思っていたように人間性なんてそう簡単に変わりませんからね!!

 見る人を選ぶ。そんな話の内容でしたからね。


 刺さる人には刺さりますけど、嫌悪する人も居るでしょうね。


 まぁ、そういう作品の方が私は好きです!!


 そんなことを考えていると、隣人さんが私に問いかけてきました。


「なぁ美凪。昼ごはんだけど猫カフェで軽く済ませるとかでも平気か?それともどっかでしっかりと食べてから行くか?」


 そうですね。猫カフェで食事が出来る。とは言っても本格的なものでは無いと思っています。

 軽食の延長くらいに考えるくらいで良いかも知れませんね。


 ですが、今日はしっかりと朝ごはんを食べましたからね。

 お腹はそこまで減ってないです。


 今日の夕飯は二日目のカレーです。

 しっかりとご飯を食べられるメニューですので、昼は軽く済ませるくらいで良いかも知れませんね。


 そう考えた私は、彼に言葉を返しました。


「そうですね。朝ごはんをしっかりと食べたので、お腹はそこまで減ってないです。猫カフェで軽食程度で済ませて、夜はカレーをしっかりと食べる。このパターンで大丈夫です」


 私がそう答えると、彼も同じように考えていたようです。


「そうか。俺も同じような感じだったからな。じゃあそうして行こうか」

「はい!!」


 そして、私と隣人さんは手を繋いで猫カフェの方へと歩き出そうとした時でした。


『すみません、ちょっとお時間よろしいですか?』


 後ろから女性の声が聞こえてきました。


「……え?」


 隣人さんが疑問符を浮かべながら振り向きました。


 私もそれに追従するように振り向きます。


 すると、そこにはマイクを持ったスーツの女性と、カメラを持った男性が居ました。


 テレビ番組の取材かなにかでしょうか?


 超絶美少女の美凪優花ちゃんです。田舎に住んでは居ましたが、都会に出てくればこうして声をかけられることは少なくなかったです。


 そんなことを考えていると、スーツを着た女性が軽く自己紹介をしてきました。


『夕方のニュース番組の者です。話題の映画を見たカップルに、感想を聞いて回っているんです。もし良ければ取材を受けて貰えませんか?』


 彼女はそう言って、彼に名刺を渡しました。


「ありがとうございます。拝見します」


 隣人さんと一緒に彼女の名前を確認しました。


 名前は西川瑞希にしかわみずきさんと言うようですね。


 私はスーツの女性の顔をもう一度じっくりと観察しました。


 ほうほう……確かこの方は夕方のニュースでよく見かける方です。


 確か、一昨年に私たちの母校が話題になった『通学路の中心で愛を叫ぶ』って動画のキャスターをやっていたのが印象的でしたね。


「どうする、美凪。取材を受けるか?」


 隣人さんのその質問に、私は胸を張って答えました。


「ふふーん!!遂にこの美凪優花ちゃんが全国デビューをする時が来たのですね!!隣人さん!!もちろん取材を受けましょう!!」

「使われるかどうかなんてわからないけどな……」


 ふふーん!!何を言ってるんですか隣人さん!!

 これほどの美少女の映像ですよ!!絶対に使われるに決まってます!!

 まぁ、貴方もかなりかっこいいですからね!!美男美女のカップルとして全国デビューしてしまうかも知れませんね!!


「彼女からも了承が得られました。質問に答えますよ」


 彼がそう言うと、西川さんは安堵の息を吐きました。


『ありがとうございます。なかなか取材に応じてくれる人が居なくて困っていたんです』


 なるほど。確かに取材となると緊張してしまいますからね。

 それに、テレビに映るかも知れない。と言うを嫌う人も居ますからね。


「あはは。そうですか。それで何に答えれば良いですか?一応この監督の作品は全部見てます。ちきゅうのこえや時速500キロメートルとかも履修してますよ?」


 おお!!隣人さんも初期の頃から見てるんですね!!

 あの監督が有名になる前から観てるのは評価出来ますよ!!


 なんて思っていると、西川さんの質問は予想外のものでした。


『彼女さんとの馴れ初めから聞いてもいいですか?』


 か、彼女さん!!!???


 西川さんの質問は、映画とはまるで関係の無いものでした。


 隣の隣人さんも口を開いて驚きをあらわにしています。


「…………はい?」


 軽く聞き返した隣人さんですが、どうやら質問の内容に間違いは無いようです。

 彼は少しだけ思案した後に言葉を続けました。


「えーと……『優花』とはマンションの部屋が隣同士だったんですよね。たまたま高校生活の前日に、隣の部屋に引っ越してきたんです」


 ゆ、優花って呼びましたね!!

 な、名前呼びです!!


 そ、そうですよね……西川さんには私たちが『ラブラブカップル』に見えているはずです。


『美凪』『隣人さん』なんて呼び方は不自然でしょう。


 で、ですが……突然の名前呼びは照れてしまいます……


『なるほど!!かなり運命的な出会いだったんですね!!』


 そ、そうですね。彼とはかなり運命的な出会いだったと思います。この美凪優花ちゃんの初恋の相手ですからね。


「あはは……そ、そうですね。ちなみにこの映画の感想なんですけど……」


『彼女さんの好きなところとか教えて貰えますか!?』


 こ、これは良い質問です!!

 わ、私気になります!!


「そ、それって映画と関係ありますか!?」


 かなり動揺してる隣人さんですが、西川さんは構わず言葉を続けます。


『番組的には重要な質問です!!』


 私的にも重要な質問です!!


「その……『凛太郎さん』!!私も気になります!!」


 私も隣人さんに倣って彼のことを名前で呼びました。

 えへへ……なんだかとても幸せな気持ちです。


「そ、そうですね……その、優花はとても『笑顔が可愛い女の子』なんですよね」

『ほうほう!!』


 とても嬉しい言葉です。ですがそれは先程も聞きました!!

 違うところが聞きたいです!!


「それはさっき聞きましたよ、凛太郎さん!!他には無いんですか!!??」


 私と西川さんは彼のことをじっと見つめます。

 さぁさぁ!!貴方の心を聞かせてください!!


「あ、あとは……すごく頑張り屋なところがいいですね。最初は出来なかった家事も、少しずつ覚えてきましたし。こちらの言うことを素直に聞いてくれるのも良いと思ってます」


 ふ、ふふーん。そうですね。ですが私が頑張るのは『貴方の為』ですからね。

 他の有象無象のためになんか頑張りませんからね!!


『なるほど!!素敵なカップルで羨ましいです!!』

「は、はぁ……」


 小さくため息を着いた隣人さん。

 ふふーん。貴方の心が見れて、私は大満足です!!


 と、私がそう思っている時でした。


『続いて彼女さんから見て、彼氏さんの良い所は何処ですか!!』

「ええええええええええええ!!!???」


 突然の質問に、私は思わず声を上げてしまいました。


 な、な、な、なんで私まで答えなければならないんですか!?


 そう思っていた私に、隣人さんは意地悪な笑みを浮かべながら言葉を投げかけてきました。


「いやぁ俺も気になるよ。優花は俺のどこが好きなんだ?」

「り、隣人さ……凛太郎さん!?」


 隣人さん。と呼ぶのは適切ではありません。

 ギリギリでそう判断した私は、彼を名前で呼びました。


『番組のために是非とも教えてください!!』


 西川さんはそう言うと、私にマイクを突きつけてきました。

 こ、これは逃げられせん……


「え、えと……凛太郎さんはとてもスラッとしてて姿勢がとても好みです」


 私は昨日彼に伝えた事を答えることにしました。

 こ、これなら話しても大丈夫です……


『なるほど!!確かに猫背じゃないですし、立ち姿がとても素敵な男性ですよね!!』

「でもな、優花。それは昨日聞いたよな?他には無いのか」


 せ、せっかく西川さんが納得してくれたのに、貴方はなんてことを言うんですか!!!???


「な、なんでそんなこと言うんですか!!凛太郎さんの意地悪!!とても意地悪です!!」

「あはは。気になるんだから仕方ないだろ?」


 にこりと笑う彼に、私は大きくため息をつきました。

 わかりました。貴方も話してくれましたからね。私も話しますよ……


「もぅ……わかりました。家に帰ったら覚えていてくださいよね……」

『なるほど……二人は一緒に暮らしてる……最近の高校生は進んでるなぁ……』


 西川さんがそんなことを言ってましたが、もう気にしないことにしました。


「同棲してるのはオフレコでお願いします」

『あはは……わかりましたよ』


 彼がそんなやり取りをしてるのがちょっと聞こえました。


 あはは……そうですね。出来れば内緒にしていて欲しいです。


「そ、その……凛太郎さんはとても優しいんです」

『ほうほう……』


 私がとても怖い思いをした時、いつも彼は助けてくれました。


 その優しさと温かさを思い出すと、段々と恥ずかしいと感じる気持ちが無くなってきました。


「わ、私がとても怖い思いをした時にも助けてくれました。彼に抱き締められて、頭を撫でて貰うととても安心出来るんです……そ、そういう所が好きなところです」

『あ、あまーーい……』


「彼の手に触れてもらうととても気持ちいいんです……幸せな気持ちに……」


 手も気持ち良いですけど、ギュッと抱き締めて貰うともっと幸せに……


「も、もうそのくらいにしておこうか優花!!」

「り、凛太郎さん!!??」


 私の言葉を遮るように、隣人さんは私の身体を抱きしめました。

 し、幸せです……


 で、ですが……いきなりはびっくりします……


「に、西川さん!!このくらいで取材は大丈夫ですか!!」


 彼のその言葉に、西川さんは少しだけ慌てながら言葉を返します。


『そ、そうですね!!ご協力ありがとうございます!!こちらは謝礼になります』

「あ、ありがとうございます」


 そう言って西川さんが渡していたのは『有名な施設の優待券』のようでした。


『うちの企業が経営してる施設になります。夏場はプールなども有名ですね。カップル専用になりますので、変なナンパとかも無いので安心してご利用出来ると思います』

「あ、ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」


 い、一緒に行く相手は私でしょうか……


 彼は大事そうにその優待券をお財布の中にしまい込みました。


『デートの邪魔をしてすみません。それでは私たちはこれで失礼しますね。続きを楽しんでくださいね』


 西川さんはそう言うとカメラマンの方と一緒に頭を下げて別の方の取材へと向かっていきました。


「あはは……こちらこそ貴重な経験をありがとうございます」


 そ、そうですね……とても貴重な経験を出来たと思います……


 ですが、とても恥ずかしい思いもしましたね。


 私は隣人さんの顔を見上げました。


 そこには、茹でダコのように顔を赤く染めた彼が居ました。


 ふ、ふふーん!!い、いっぱい私のことを意識して貰えたようですね!!


 これならインタビューに答えたかいがありました!!


 私は去っていく二人の背中にお礼を言ってあげました。



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