美凪side ③ 中編 その②

 美凪side ③ 中編 その②








 バスと電車に乗って目的の場所に辿り着いた私と隣人さん。


 電車の中では不名誉なことを言われましたが、まぁ許してあげることにしました。


 電車から降りた後、改札口から外に出ます。


 どうやら映画館はここから五分ほどの距離にあるようです。


 私と隣人さんは手を繋ぎながらその映画館へと足を運びます。


「今回の映画は私はとても楽しみにしてるんですよ」


 映画館へと向かう途中。私は隣人さんにそう話を切り出しました。


「わかる。あの監督の六作目だよな。なんだか丸くなった。みたいな事を言われてるけど、どうなんだろうな」

「個人的にはそんなことは無いと思ってますがね。人間性なんてそう簡単に変わりませんよ」


「ははは。なかなか辛辣なことを言ってるじゃないか」

「あの監督が大衆受けするような作品を作るようになるなんて思えませんからね」


 なんて話をしていると、映画館が見えてきました。


 か、かなり大きい映画館ですね……


「わぁ……結構大きいですね……」

「だな。俺も初めて来たけどちょっと驚いたわ」


 私のその言葉に、隣人さんも同意を示しました。


 時計を確認すると時間は上映時間の二十分前でした。


 買い物とかをしたらちょうど良い時間ですね。

 この時間を狙ってきていたのでしょうね。


 なんて言うか……デート慣れしてるように見えます……


「売店でポップコーンとか飲み物を買おうか。チケットは今朝のうちにアプリで購入してあるから、ここでは買う必要は無いから」

「……え?そこまでしてくれてるんですか!!」


 驚く私に、隣人さんは笑いながら言葉を返します。


「当たり前だろ?せっかくのデートだってのに、席が離れてたら意味が無いし、観れませんでした。なんてのもかっこ悪いだろ」

「や、やけにデート慣れしてるように見えますね……今まで何人の女の子を手篭めにしてきたんですか……」


 ジゴロです!!この人はジゴロですよ!!


「いや、正直な話。これまで彼女なんか居たことないし……そもそも女の子とこうして出かけるのだってお前が初めてだよ」


 わ、私が初めて……


「そ、そうですか……私が初めて……」

「今だってめちゃくちゃ緊張してるよ。そう見えないように取り繕ってるだけだよ」


 そ、そうですか!!


 ふ、ふふーん!!という事は、こういった彼の行動は、きっと色々と調べてきた上のことなのでしょう!!


 私のために色々と準備をしてくれている。そういう事なんですね!!


「ふふーん!!そうですか、やはりこの超絶美少女で美の女神の美凪優花ちゃんです!!一緒に居れば緊張してしまうのも当然と言えるでしょう!!」


 これほどの美少女と一緒に居るんですからね、緊張してしまうのは仕方ないでしょう!!

 ですが、私は取り繕った貴方より、自然体の貴方の方が好きです!!


「ですがあまり気にする事はないですよ。貴方が多少何かを失敗しても、私はそれを気にしたりなんかしませんから」

「あはは。そうか、それなら安心だな」


 隣人さんはそう言うと、少しだけ安心したような笑みを浮かべました。





 そして、私と隣人さんはポップコーンとコーラを買って劇場の中へと入っていきます。


 席は真ん中より少し後ろみたいです。私と隣人さんが並んで座れる位置になってます。


 これはなかなか良い席ですね!!


「なかなか良い席ですね!!」

「だろ?今朝取った割には良いところを選べたと思ってる」


 隣人さんはそう言うと、自慢げに笑みを浮かべした。


 そして、私と隣人さんは軽くポップコーンを摘みながら開演を待ちます。


 私にはどうしても苦手な場所があります。

 ひとつは『暗くて静かな場所』です。


 これは先日。マンションの自室でどうしても我慢出来なくて、悲鳴を上げながら彼の部屋に逃げ込んだのが記憶に新しいです……


 そしてもうひとつは『広く開けた場所』です。


 どちらも『寂しさ』を感じてしまうからです。


 暗くて静かな場所に比べれば、広く開けた場所はそこまででは無いのですが、やはり少し苦手です……


 私は彼にその事を話すことにしました。


「その……手を握っててもいいですか?」

「……え?ホラー映画の類じゃないぞ、この映画は」


 あはは……ですよね。やっぱり意外に思いますよね。


 私は彼に事情を話します。


「あはは……正直な話をすると、広く開けた場所って寂しさを感じてしまうんです。映画の内容どうこうと言うよりは、貴方と手を繋いでいると安心出来る。そう思ってください」


 私がそう話をすると、彼は納得したように首を縦に振りました。


「なるほどな。暗くて狭い場所が苦手ってのは聞いたことがあるけど、逆もあるんだな。ごめんな、知らなかったよ」


 隣人さんはそう言うと、私の手をそっと握ってくれました。

 暖かくて少しだけどゴツゴツとした彼の手。

 私の心がじんわりと温かくなってきました。


「別に泣き叫ぶようなものでもないですよ。ちょっとだけ、苦手ってだけです。映画が始まればそんなのは気にならないとは思います」


 こうしていると幸せな気持ちになります。

 きっとそんな気持ちだったからでしょうね。

 私は少しだけ、彼に『本心』をさらけ出しました。


「貴方と手を繋いでいたかった。その理由の方がしっくりくるかもしれませんね」

「……ずいぶんと可愛いことを言うじゃないか」


 意外そうな表情の隣人さん。

 あはは。そうでしょうね。こんなこと言われるとは思ってもいなかったでしょうね。


 だから私は彼に言ってやりました。


「あはは。美凪優花ちゃんはとっても可愛い女の子ですよ。今頃気が付いたんですか?」


 そうしていると映画が始まりました。

 これ以上のお喋りは迷惑になりますね。



「始まりましたね。会話は控えましょうか」


 私が隣人さんにそう言うと、少しだけ意外な言葉が返ってきました。


「そうだな。それと、美凪。さっきの質問だけど答えてやるよ」

「……え?」


 私が隣人さんの方を向くと、彼も同じタイミングでこちらに振り向きました。


「お前のことは、始めて会った時から『笑顔が似合う可愛い女だな』そう思ってたよ」


 真剣な目。私のことを見つめながら、彼はそんなことを言ってきました。


「り、隣人さん……っ!!??」


 私は思わず声を大きくしてしまいました。

 渡りの人からの目がこちらを向いたのがわかりました。


「さ、映画に集中しようか」


 そんな私の心など露知らず。隣人さんはそう言って前を向きました。

 ですが、私は気が付きました。


 薄暗い中でもわかるくらいに、彼の耳が真っ赤に染ってることを。

 もう……恥ずかしいならそんなこと言わないでくださいよ……


 と言うか……



「…………映画に集中なんか出来ませんよ……隣人さんのバカ……」



 そして、スクリーンには映画が映し出されました。



「わぁ……これは凄いですね……」


 私は隣人さんの手を握りながら、有名な監督が作り出した世界観に浸っていきました。

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