第二十三話 ~ご機嫌ななめな美凪に、誠心誠意謝罪をした件~
第二十三話
「なぁ、美凪。その……いつまでこうしてるつもりなんだ?」
「……なんですか、隣人さん。嫌なんですか?」
「いや……その、別に嫌なわけじゃ」
「ならば良いでは無いですか」
ギューッと美凪は俺の腕を抱きしめている。
帰りの電車の中でも、バスの中でも、色々な人から見られてる。
まぁ……役得ではあるんだけどなぁ……
そんなことを考えながら、俺はマンションまでの道のりを歩いていた。
美凪がこの状態になったのは漫画喫茶の時からだ。
隣の部屋から女性の嬌声が聞こえてきたのがきっかけだ。
『その……美凪さん。二時間がたったと思うんだけど……』
『…………そうですか。では続きは家ですることにします』
『そ、そうか…………』
美凪に抱きしめられること二時間あまり。
その間は彼女の頭を撫でたり、髪を梳いたりとかをして時間を過ごした。
ペアフラットシートだったので、寝っ転がりながら体勢だったのが幸いか。
隣の人は一時間程前に部屋から出ていくような気配があった。
どんな人なのか?と思ってしまったのが運の尽きだった。
ふと顔を上げた瞬間を、美凪に見られてしまった。
『……そんなに、隣の人が気になるんですか?』
『い、いや……そういう訳じゃないんだけど……』
『貴方の目の前にはこんなに可愛い女の子が居るのに、どこの誰ともわからないような女の方が良いと言うんですか?』
『そ、そんなことは無いんだけど……』
『あぁ……そう言えば隣人さんは『大人の女性が女子高校生のコスプレをしてる姿』が好きな人でしたね?年上の女性が好みですか?』
『い、いや……同年代の女の子が好きです……』
『そうでした。隣人さんは教室でするのが好みでしたね?』
『こ、好みという訳じゃないんだけど……』
『…………隣人さんの……ばか……私が満足まで……許してあげません』
『そ、その……どうしたら良いでしょうか……』
『……自分で考えてください』
『は、はい……』
そんなやり取りの末。俺は丁寧に美凪の頭を撫でて、髪を梳いて、謝罪をし続けた。
そのお陰でなんとか彼女の機嫌が多少は直ったけど、こうして俺の腕をギュッと抱きしめるような感じになってしまった。
時刻は夕方から夜に変わる頃。
辺りも暗くなってきて来た時間帯に、俺と美凪はマンションの前に辿り着いた。
「家に着いたな。その……今日も楽しかったな、美凪」
「そうですね。色々な隣人さんが見れてとても収穫の多かったデートだったと思いますよ」
「あはは……」
そんな会話をして、俺と美凪はエレベーターを使って部屋の前に行き、扉の鍵を開けて部屋の中に入る。
「ただいま」
「ただいまです」
よ、良かった……
ここで『お邪魔します』とか言われてたら俺は立ち直れなかったかもしれない……
洗面所で手を洗い、うがいをしたあとに居間へと向かう。
俺が麦茶を取り出すと、美凪はコップを二つ手に取ってテーブルの上に置いてくれた。
「ありがとう」
「いえ、このくらいはしますよ」
か、壁を感じる……
ど、どうしたらいい……流石にこんな状態でずっと過ごすのは嫌だ。だけど一体どうしたら良いのかわからない……
俺は彼女の用意してくれたコップに麦茶を注ぎ、それを一口飲む。乾いた喉を冷えた麦茶が通り抜け、思考が少しだけクリアになる。
別に俺は悪いことはしてない。
だから謝る必要なんかない。
そんなことは思えない。
美凪に嫌な思いをさせてしまった。
好きな女の子の前で他の女に意識を向けるようなことをしてしまった。
男としての本能かもしれないけど、俺の罪だ。
謝罪をしよう。心の底からの謝罪を。
「美凪優花さん」
「……はい。なんですか、海野凛太郎さん」
俺は彼女の目を見てしっかりと謝罪をした。
「お前とのデートの最中に、他の女性に意識を向けるような真似をして申し訳こざいません」
「…………はぁ。わかりました。謝罪を受け入れます」
「ほ、本当か!!」
顔を上げた俺に、美凪はようやく笑ってくれた。
「ずっとプンプンしてるのも疲れましたからね」
美凪はそう言ったあと、俺の目を見て言葉を続けた。
「それでも私はまだまだ怒ってます。なので今夜は私と一緒に寝てもらいます」
「……わ、わかったよ」
俺が了承を示すと、美凪は笑ってくれた。
「すんなり了承をしてくれたのは初めてですね」
「まぁ受け入れる道しかないからな」
俺はそう言って、麦茶を飲む。
「本当はお風呂も一緒に入ってもらおうかと思いましたが、それは勘弁してあげることにしました」
「……配慮してくれて助かったよ」
正直な話。もうお前に手を出したくて仕方なくなってるんだ。
でも我慢をしないといけない。
ちょっとはこっちの気持ちも考えて欲しいとは思ってしまうよ……
「それではお米の準備をしたらお風呂に入って少しのんびりしたらご飯にすることにしましょう」
「そうだな。それに明日から学校だ。今日は早めに寝ることにしようか」
「そうですね。それでは私はお米の準備をしてきますので、お風呂の準備をお願いします」
「了解だ。明日の弁当の分も含めて三合炊いておいてくれ」
「はい。了解です!!」
美凪とそんな会話をして、俺はお風呂の掃除へと向かった。
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