第一話 ~朝起きたら、腕の中で天使が眠っていた件~

 第一話




 土曜日の朝。学校も今日から二連休。


 朝は少しのんびり寝ていようかな?なんてことを考えていたので、特にアラームとかはかけていなかった。


 目が覚めた時間に起きるかな。なんてことを考えていた。


 むにゅん。という幸せな感触をお腹に感じる。


 この感触には覚えがある。だが、どうしてこうなってるのかが理解出来ない……


「……すぅ……すぅ……」


 俺の胸の中で眠る可憐な天使の存在。


 美凪優花が俺の身体を抱きしめながらすやすやと眠っていた。


「……いや。これは流石にダメだろう」


 念の為、俺は周りを確認する。


 やはりここは俺が寝室に使っている親父の部屋。


 つまり、この女は深夜に自分の寝室ではなく、俺の寝室に入ってきて、この状況にした。という事だ。


「絶対に……確信犯だろ……」


 寝惚けて部屋を間違えた。とは思えない。


 きっと美凪は『意図的に』寝ている俺の隣にやって来てこの状態に持ち込んだんだろう。




『私は、貴方に対して非常に大きな好意を抱いています』


『それこそ。これを使うような行為すら、貴方から求められればしても構わない。そう思えるくらいには』




 この発言に秘められた『意味』がわからないほど、俺は鈍感じゃない。


 恋か感謝かわからない。と言うのは美凪の『嘘』だろう。


 俺はあの時、美凪と一線を超えることを『躊躇った』


 それを美凪は敏感に感じ取ったんだ。


『ですが、私はこの気持ちが『恋』なのか『感謝』なのかわかりません』


 こんな言葉を俺は美凪に『言わせてしまった』


 だから俺は美凪に言ったんだ。



『先に言っておく。俺はなんとも思ってないような人間に飯は振る舞わない』


『お前が望むなら『一生』美味しいご飯を作ってやるよ』


 俺もお前のことを好意的に思っている。

 一生お前と共に過ごす覚悟もあるからな。


 ある意味では『プロポーズ』と変わらない。


 これが、美凪からの『誘い』を躊躇ってしまった俺が、こいつに見せられる『誠意』だと思ったから。


「はぁ……勿体ないことをした。とは思ってる。俺だってなんのしがらみもなければお前と……」


 俺はそう呟くと、美凪の身体を抱きしめる。


 好きだと思っている。


 それ以上の感情。愛してる。とも思ってる。


 美凪となら、一生を共にしても構わない。そう思ってる。


 だが……最大の難所が残ってる……


「絶対俺と美凪の親同士が付き合ってる……もしくは再婚の可能性があるだろ……」


 同じ職業。同じタイミングで呼ばれて、同じ期間を職場で過ごす。


『同僚の女性』や『とても信頼出来る男性』


 教えてもいない美凪の『名前』を知っていた親父。


『義理の娘』という発言は、美凪のお母さんと再婚すれば、美凪は義理の娘になるからだ。


 そうなればこいつは俺の『義理の妹』になる……


 それが俺が美凪と一線を超えることを躊躇った『理由』


「隣の部屋に引っ越してきたのも、再婚に向けた準備だったのかもしれないな……」


 だが、そうなるとわからないことがある。


『なぜ美凪のお母さんは俺にこの女と一線を超えることを進めるような発言をしてきたのか?』


 俺のことは親父から聞いているはずだ。

 再婚すれば俺と美凪が義理の兄妹になることも知っていたはずだ。


 だとすれば『世間体』を考えるなら、そんなことはしない。


「一体こいつのお母さんは何を考えてるんだろうな……」


 好意的に捉えるなら。自分の娘に相応しいと思えるような男だと俺が思われたから。


 世間体なんかよりも、大切な娘を任せられる男だと思って貰えたから。


 と言うか、俺の親父も推奨してるような口ぶりだったな。


「でも……そうだな。仮に両親が再婚して、美凪と義理の兄妹になったとしても、俺がこいつに持ってる気持ちは変わらない」


 血の繋がった兄妹では結婚出来ないけど、義理の兄妹なら可能だと知っている。


「……すぅ……すぅ……隣人さん……のバカ……」


「……どんな夢見てんだよ」


 寝言を言う美凪の頭を撫でる。

 サラサラの髪の毛の感触を楽しみながら俺は思う。


 この女を誰にも渡したくは無い。


 俺以外の男に触れさせたくも無い。


 この女の髪のひと房から爪の先まで全部俺のものにしたい。


 この女の初めては全て俺が欲しい。


 デートも、キスも、処女も……全部……全部……


 手放したら背中の羽でどこかに行ってしまうなら、そんなことを俺は許容出来ない。


 ……優先するべきは、親の都合より自分の感情だな。


 はぁ……そんなこともわからないとは、俺もまだまだだったな。


 俺はすやすやと眠る美凪の耳元で囁く。


「告白は俺からするよ。そんなに待たせるつもりは無いから安心してくれよ……優花」


 そう言って、俺は軽く彼女の頬にキスをした。


 このくらいの『イタズラ』なら許されるだろう。


 柔らかい美凪の頬から唇を離すと、彼女が俺を抱きしめる力が強くなった。


 ……そんな気がした。

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