第三十一話 ~美凪が居ない部屋。寂しいなと思う感情に気が付いた件~

 第三十一話




 一時間目の授業では恥ずかしい思いをしたが、その後の授業では特に問題もなく過ごす事が出来た。


 そして、迎えた昼の時間では四人で学食へと向かった。


 昨日使った丸テーブルはやはり空いていたので、遠慮なく使わせてもらうことにした。


 俺と美凪の弁当を作る過程で、少しだけご飯が余ったので、おにぎりを二つ握っていた。


 これも昨日と同じように、サラダとコッペパンしか頼んでいなかった奏にくれてやった。


「中身はシーチキンとシャケフレークだ」

「ありがとう、凛太郎。助かるよ」


「気にすんなよ、幸也。俺とお前の仲だろ?」

「あはは。本当に凛太郎には頭が上がらないよ」


「やめろよ。恩を売りたくてやってる訳じゃない」

「それでも。だよ。何かあったらなんでも言ってくれ。凛太郎の助けになるならすぐに駆けつけるよ」


「なるほどな。そいつは心強い。引越しの荷解きで、まだ終わってない箱がいくつかあるんだ。肉体労働でこき使ってやる」

「あはは。いつでも呼んでよ」


 笑いながらそう話す俺と幸也を、奏と美凪が冷めた目で見ていた。


「ねぇ、なんでご飯を貰ったの私なのに、向こうの方が仲良くなってるの?」

「わ、わかりません……」


 俺の握ったおにぎりなら食べられる奏。二つのおにぎりをきちんと目の前で食べてくれた。


「ありがとう、凛太郎くん『好き』だよ」

「はいはい。どういたしまして、奏」


 そんな、中学時代のやり取りをしていると


「むーー。なんか面白くありません……」


 と美凪がむくれた表情でこっちを見ていた。


「もー!!優花ちゃん嫉妬してるのかわいー!!大丈夫だよ!!私が愛してるのは幸也だけだから!!凛太郎くんは優花ちゃんの人だよ!!」

「し、し、し、嫉妬なんかしてません!!り、隣人さんも何か言ってください!!」


「そうだな……なぁ、美凪。奏にもこうしておにぎりを作ってやったけど、俺が本気で料理を作るのはお前にだけだぞ?」

「う、嬉しいですけど……い、今欲しいのはそういう言葉じゃないですーー!!!」


「あはは。楽しいな、幸也」

「そうだね。随分と視線を集めてるのを気にしなければ。だけどね」



 そして、五時間目は体育の時間だった。


 授業の内容はソフトボール。野球部の幸也がマウンドに立っていた。


 バッターボックスには俺。点差は一点差で負けていた。


 そもそも、この男は俺の時だけは本気で投げてきていた。


 お陰で二打席で二回の三振を喫している。


『隣人さーん!!頑張ってくださーい!!』

『幸也ー!!かっこいいところを見せてね!!』


 バレーボールの授業が終わっていた二人の女子が、俺と幸也を応援していた。


 周りの男子生徒からは物凄い嫉妬の視線を感じる。


「あはは。これは負ける訳には行かないね」

「こっちは二回も三振をしてるんだ。最後くらいは打たせてくれよ」


「ここで手を抜いたら凛太郎に失礼だろ?それとも、打たせてもらった。みたいな勝利が望みかい?」

「ぬかせ!!生徒会室の窓ガラスをぶち破ってやるぜ!!」


 そう言って俺と幸也は三度目のガチンコ勝負をした。


 そして、



「隣人さーん。三球三振は流石にかっこ悪いですよ……」

「現役野球部に勝てるかよ……てか、あんなスピードボールかすりもしねぇよ……」


 体育を終えた俺は教室で美凪にからかわれていた。


 六時間目は国語。これも特に問題も無く授業が進んだ。


 そして迎えた本日最後のSHR。


 山野先生から諸連絡を受ける。


「明日から土日で連休になる。高校生になって初めての週末だ。ハメを外すな。とは言わないが、高校生として責任ある行動をするように。では、月曜日にまた会おう」


 俺は号令を掛けて、一礼をする。


 今日は解散となった。


「じゃあな、凛太郎。俺と奏と部活に行ってくるよ」

「バイバイ!!凛太郎くんと優花ちゃん!!」


「じゃあな、幸也に奏」

「はい。さようなら、成瀬さんに奏さん」


 部活に向かう二人を見送り、俺は美凪に言う。


「じゃあ美凪は寄るところがあるって話だったよな」

「はい。そんな遠いところでは無いので、帰りも遅くなりません」


 俺が尋ねると、美凪はそう答えた。


「そうか。じゃあ俺はちょっと本を買いたいから本屋に寄ってから帰るわ」

「……えっちな本ですか?」


 じとーっとした目で見る美凪。


「違うよ。普通の少年漫画だよ」

「あはは。別に良いですよ?男子高校生なら普通。なんですよね?」


「あまりそのネタでからかわないでくれ……」


 そんな会話をしながら校門から学校の外に出る。


 そして、しばらくの間他愛のない会話をしながら歩いていると、


「では、私はこちらですので」

「そうか。じゃあ俺はこっちだから」


 俺と美凪は二手に別れることになった。


 ……確か、あっちはスーパーがある方だったか。


 そんなことを思いながら、


「では、また後で隣人さんの部屋に伺います」

「おう。気を付けてな」



 そう言って俺は美凪を別れて歩き出す。


 ………………。


 しばらく一人で歩いていると、本屋に辿り着く。


 お目当ての漫画本を一冊手に取る。



 単行本になると『B地区』が解禁になる『普通の』少年漫画だ。


 俺はそれの会計を済ませ、カバーを付けて貰ってカバンにしまう。


 そして、十分ほど歩いた所で家に着く。



 家の鍵で玄関の扉を開けて、中に入る。


 手洗いとうがいを洗面所で済ませる。


 カバンを置いてから制服を脱ぎ、部屋着に着替える。


 そして、飲み物とお菓子を用意して自室へと向かい、買ってきた漫画本を読む。


「…………なんか、つまんねぇな」


 ほんの数日。あいつとは一緒に過ごしてきた。


 思えば、ずっと一緒にいたと思う。


 こうして一人になってみると、少しだけ寂しさのようなものを感じた。


「あはは……あいつの寂しがり屋なところが俺にうつったかな?」


 なんてことを呟きながら、俺はお菓子をつまみながら漫画本を読んで、美凪が来るまでの時間を潰した。


 内容なんか、頭に入ってこなかった。

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