美凪 side ③
美凪side ③
放課後。校門を出て私と隣人さんは帰路に着きます。
そして、しばらくの間他愛のない会話をしながら歩いていると、スーパーに向かう交差点に辿り着きました。
「では、私はこちらですので」
「そうか。じゃあ俺はこっちだから」
真っ直ぐ行けばマンションに。右に行けばスーパーに。左に行けば本屋さんです。
私は右を指しました。彼は左を指しました。
「では、また後で隣人さんの部屋に伺います」
「おう。気を付けてな」
私はそう話して、スーパーマーケットへと向かいました。
『スーパーマーケット』
彼と一緒に来たスーパーマーケット。一人で来るのは初めてです。
私は買い物カートは使わずにカゴを手にします。
そして、入口横にある『ATM』に向かいます。
足元にカゴを置いてから、カバンからお財布を取りだします。
そして、銀行のカードを取りだしてATMの中に入れます。
四桁の暗証番号を入力します。
今までに貰ったお年玉は全部この中に入れています。
超絶美少女の美凪優花ちゃんです。
親戚の方々からはたくさんのお年玉を貰ってきました。
通帳の中には二桁万円は余裕で貯まっています。
「正直な話。これを全額下ろして、そのお金でプレゼントを買っても足らないくらいの恩を、私は彼に感じています」
そう呟きながら、私は千円だけ下ろします。
出てきたお金とカードをお財布にしまいます。
「さて!!買い物の時間です!!」
私は買い物カゴを片手に、店内を歩きます。
お目当ての商品はもう決まってます。
「果物の缶詰と生クリームとケーキのスポンジです」
隣人さんと来たお陰で、このスーパーのどこに何があるかはよく知っています。
私は缶詰のコーナーで桃とみかんのフルーツ缶をカゴに入れます。
そして、もう既に出来ているチューブの生クリームをカゴに入れます。
最後に、ケーキのスポンジをカゴに入れます。
『全部出来合いのものを組み合わせて、手作りなんて烏滸がましい』
なんて言う人が居るかもしれません。
ですが!!私は言ってやりますよ!!
素材から作るケーキも、小麦や卵や牛乳や生クリームなどの素材はスーパーで買うはずです!!
ならば、どこまでスーパーに頼るか。の話です!!
つまり!!私のこれも立派な『手作りケーキ』です!!
私はそう考えながら、レジに並びます。
すると、初めてここに来た時のお姉さんが居ました。
『いらっしゃいませ。ふふふ。今日は旦那様は一緒じゃないのね?』
「だ、旦那様じゃないです!!」
からかうような言い方に、私は焦ってしまいます。
て、店員さんなのに!!お客さんにそんなこと言っていいんですか!?
『手作りケーキを作るなんてラブラブね。もし良かったらそこのチョコレートも加えたらどう?』
「……え?」
私の目の前にあるのは、あの時買わなかった『99円のチョコレート』です。
『多分。千円以内でって感じでしょ。あれなら予算内で済むわよ?』
チョコレートが入った方が美味しいわよ?
「お姉さんは商売上手ですね!!買います!!」
私は店員さんに勧められて、チョコレートを買いました。
『ふふふ。ありがとう。じゃあ有料の買い物袋はサービスであげるわよ』
「ありがとうございます!!」
会計を済ませた私は、買い物袋に商品を入れて自宅へと向かいました。
『美凪の部屋』
しばらく歩くと、私と彼のマンションに辿り着きました。
私は自室の鍵を取りだします。
「本当ならこんな部屋に入りたくは無いです。ですが、背に腹はかえられません……」
流石に手作りケーキを彼の前で作る訳には行きません。
玄関の扉の鍵を開けて、私は中に入ります。
「ただいま」
真っ暗な部屋。ですが、あの時ほどの恐怖はありません。
きっと、目的があるからでしょうね。
彼の部屋と同じ間取り。私は手洗いとうがいを済ませたあと、材料を持って台所へと向かいます。
そして、買ってきた材料を広げます。
「さぁ。美凪優花ちゃんスペシャルお手製ケーキを作りましょう!!」
私はそう言って、ケーキ作りを始めました。
まずはフルーツ缶を缶切りで開けます。
『お腹が空きました。何か食べさせてください』
『なんで初対面の人間に飯を振る舞わなきゃなんねぇんだよ?』
ふふふ。この会話が、貴方との最初の会話でしたね。
缶切りで一つ切込みを入れる事に、貴方との会話が思い出されます。
『美凪優花と申します。好きに呼んでください』
『じゃあ、美凪って呼ぶわ。俺は海野凛太郎だ。好きに呼べばいい』
『では、『隣人さん』でよろしくお願いします』
『……は?』
『先程は意地悪をされましたので、私も意地悪をし返そうと思います』
『お前の飯を無くしてやっても良いんだけどな?……まぁいいや。好きに呼べって言ったしな』
ぶっきらぼう言葉使い。だけどその人柄はとても優しい貴方。
名前で呼ぶのが少しだけ恥ずかしかった。
そんな気持ちもありました。
そうして招かれた貴方の部屋。
振る舞われたハンバーグの味。私は一生忘れません。
『隣人さん!!めちゃくちゃ美味しいです!!』
『あはは。ありがとうな』
私の言った『美味しい』という言葉に、貴方は微笑んでくれましたね。
そして、全く手付かずだった荷物の片付けも、貴方は手伝ってくれましたね。
わ、私の下着を見る。なんて言うこともありましたが……
『……隣人さん。何か言うことはありますか?』
『清楚な下着は嫌いじゃない』
『歯を食いしばってください』
『良いぞ。眼福だったのは間違いない。まぁ、今度はつけてるところも見せてくれ』
『隣人さんのバカー!!!!』
もう。本当にえっちなんですから。
そして、一緒に登校していたら、中学時代の同級生の方と知り合いになって、クラス分けでは同じクラスになりましたね。
更には隣の席になりました。
よくわからないような男の人の隣になるより、貴方の隣の方が百倍はマシでしたよ。
入学式では女たらしの貴方は私の挨拶を無視して、桜井さんとイチャイチャしていましたね?
もー!!隣人さんの女たらし!!
貴方が私に約束した、私の言うことをなんでも聞いてくれる。ふふふ。私は忘れてませんからね?
お昼ご飯を食べて、ゲームセンターで遊んで、楽しい時間を過ごしました。
ですが、家に帰った時に、お母さんが一ヶ月もの間……不在になると知りました。
その時の絶望は、計り知れません。
「貴方が居なかったら……私は生きていないです……」
缶詰の中からフルーツを取りだします。
もったいないですが、中の液体は捨てることにします。
そして、スポンジに生クリームを塗っていきます。
『隣人さん……お願いします。私に……ご飯を作ってください……』
『どういう意味だよ、美凪。お前のお母さんはもう家に帰ってきてるんだろ?』
『皆さんと遊んでいたので気がついたのが今でした。お母さんは今日の夕方に会社に呼ばれて、仕事が大変だから会社の宿泊施設で一ヶ月は寝泊まりをしないといけない。私のスマホにそうメッセージが入ってました……』
『……マジで?』
この時、私は貴方に断られたら生きていけない。そう思ってましたよ。
『はぁ……お前の食生活を俺がなんとかしてやるよ』
『あ、ありがとうございます!!』
貴方からその言葉を聞けた時、私は心の底から安心したんです。
そして、貴方と一緒にスーパーマーケットに買い物に行って、楽しく夕飯を作って、美味しい夕飯を食べて、貴方と一緒に居るのが本当に楽しくて、幸せで……
そんな時間が……ずっと続けば良いって思ってました。
だから……一人で帰ってきたこの部屋は……本当に寂しくて、寂しくて、怖かったです……
『怖い……怖い……怖い……助けてよ……隣人さん……』
生クリームを塗る手が止まります。
私は周りを見ます。
誰も居ない部屋。まだ少しだけ怖いけど、彼への気持ちがあるから頑張れます。
『……隣人さん。お願いがあります』
『……え?お願い?』
『……今夜は、この部屋に泊めて貰えませんか?』
えっちな隣人さん。でも優しい隣人さん。
そんな貴方は、私を叱ってくれましたね。
『……はぁ。美凪。お前、自分が何を言ってるのか、わかってるのか?』
『性欲の塊みたいな男子高校生の一人暮らしの部屋に、風呂上がりの女が、薄着でやって来て、泊めてくれなんて言ってくる。なぁ美凪。自分がどれだけ危険なことをしてるか、お前は全くわかってない』
あの時の私は、初めてを貴方に渡しても構わない。そのくらいの覚悟があったんですよ?
そして、事情を聞いた貴方は私を泊めてくれることを了承してくれました。
本当に……本当に……安心したんです。
深夜。貴方の布団に潜り込んで、その身体を抱きしめた時、とても幸せな気持ちになれました。
怖かった気持ちも、溶けていきました。
「次はフルーツを乗せていきましょう」
クリームを均一に縫ったスポンジの上に、私は桃とみかんを綺麗に並べていきます。
『巨乳同級生の淫らな秘密~制服の下に隠された魅惑の肢体~』
…………。
あんなものが彼の好みなのでしょうか。どう見ても私の方が魅力的なのは間違いないと思ってます。
彼のベッドの上で見つけた本。えっちな彼はそのことを指摘されるととても焦っていましたね。
まぁ、そのお陰で一緒に暮らすことを容認して貰えるようになったと思えば御の字かもしれません。
そして、学校では貴方と一緒の委員になることが出来ました。
桜井さんと一悶着はありましたが、終わり良ければ全て良し。ですからね。
その後、貴方が進路指導室に呼ばれてる間。一人で待っているのは少しだけ寂しかったです。
山野先生との話。生徒会への入会の打診を受けたと知りました。そしてその話を断った理由。
私のためと言ってくれたこと。とても嬉しかったです。
あとは、
『親父も奏も、俺の料理を食べて『ありがとう』とは言っても、『美味しい』と言ってくれることは無かったんだ』
『お前が初めてなんだ。俺の料理を『美味しい』って言ってくれたのはな』
『ありがとう、美凪。俺の料理を『美味しい』と言ってくれて』
貴方の本心を私に話してくれましたね。
だから、私も貴方に本心を話ました。
『私は貴方にこうして頭を撫でられるのは嫌いではありません。なんでしょうかね、安心する感じがします』
『そうか。俺もこうしてるとお前の綺麗な髪の毛が触れて幸せだ』
『ふふーん?そうですか。この髪の毛はお手入れが大変なんですよ?』
『だろうな。でも、とても綺麗だと思う』
そう言って貴方は私の頭を撫でてくれて、髪を梳いてくれましたね。貴方にそうやって触れてもらうと、私はとても気持ち良いんです……
『じゃあ……これからもお手入れを頑張ります……』
これからも、貴方に髪の毛を褒めて貰えるように、触れて貰えるように、頭を撫でて貰えるように……
私はお手入れを頑張りますね……
「最後は……チョコレートを乗せますね」
あの時は買わなかった99円のチョコレート。
それを今回は買って、ケーキに乗せました。
『隣人さん!!このチョコレートが美味しそうです!!99円は安くないですか!?』
『チョコパイ買ったんだから、チョコレートはもういらないだろ?それにな、そこに積んであるやつってのは、今のお前みたいに、『ちょっと安いからカゴに入れよう』って思わせる店側の策略みたいなもんだよ』
『ガーン!!まんまと嵌ってしまいました!!』
『本当に食いたいならアレだけど、今日はいらないよな?』
『……はい』
「本当に必要なものだから、今回は買いましたよ」
私はそう呟いて、最後のチョコレートをケーキに乗せ終わりました。
「完成です」
私の目の前には、スポンジの上に生クリームを塗り、たっぷりのフルーツとチョコレートを乗せた、優花ちゃんスペシャルのケーキが出来上がりました。
「喜んでくれると……嬉しいです」
私はその出来上がったケーキを冷蔵庫の中に入れ、気合いを入れて本気で身支度を整えたあと、隣人さんの待つ部屋へと向かいました。
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