第三十話 ~数学の時間では美凪と一緒に思わぬ恥をかいた件~
第三十話
「誕生日おめでとう、凛太郎!!」
「ありがとうよ、幸也」
「凛太郎くん!!お誕生日おめでとう!!」
「ありがとうな、奏」
通学路を美凪と二人で歩いていると、幸也と奏が後ろからやって来た。
「誕生日プレゼントを用意してるから受け取って欲しいんだ」
「毎年悪いな。でも嬉しいよ、ありがとう」
「あはは。予算千円って縛りの中であれこれ考えるのも楽しいよね!!」
そう言って二人は『小さな箱』を俺に渡してきた。
「何が入ってるかは、内緒だ」
「だけど『絶対に学校では』開けないで欲しいかな」
二人はそう言うと、ニヤリと笑った。
……なんだよ、俺は何を渡されたんだよ。
「受け取りたくねぇ……」
そう言いながらも、俺はせっかく用意してもらった誕生日プレゼントなので、二つの箱を受け取ることにした。
「優花ちゃんは凛太郎くんになにか用意してる感じ?」
「はい。隣人さんからは昨日その話をされました。一応誕生日プレゼントに考えがあるので、それほど慌てることはありませんでした」
「凛太郎は自分のことはあまり話さないからな」
「そうなんですよ。結局彼の誕生日を知ったのも偶然によるものですから」
下手したら、今のお二人のやり取りで知ることになってましたよ。
なんて話をしていた。
「一応。今夜は二人で隣人さんの誕生日をお祝いする予定です」
「あぁ。やっぱり洋平おじさんは仕事大変みたいだね」
「身体壊さないようにしてもらいたいよね」
「同僚の女性と楽しく働いてるだろ。まぁあまり心配し過ぎないようにはしてるよ」
なんて話をしていると、学校へと辿り着く。
「じゃあ自転車を置いてくるよ」
「ちょっと待っててねー」
二人はそう言うと、自転車を漕いで駐輪場へと走らせた。
「予算千円。まぁその範囲では収まりますので大丈夫です」
「お金は持ってるのか?」
俺がそう聞くと、美凪は笑って答えた。
「お財布の中にはありません!!ですが、口座の中には手付かずのお金があるのでそれを少し引き落とします」
「持ってると使ってしまうけど、口座の中なら平気なんだな」
俺がそう言うと、美凪は首を縦に振った。
「そうですね。なのでお母さんもその時必要なお金を渡すしかしてませんでした」
「俺が隣に住んでなかったら、お前はどうなってたんだろうな……」
ため息混じりに俺がそう言うと、美凪は苦笑いを浮かべる。
「あはは……貴方が居なかったら引越しの初日で死んでたかもしれません……」
それは大袈裟だろ。とは思うけど、二日目のあの美凪を思い出したら、笑えなかった。
「ありがとうございます。隣人さん。貴方にはとても感謝してますよ」
上目遣いでそう言う美凪の頭を俺は撫でる。
気持ち良さそうに、彼女は目を細める。
「…………まぁ、気にするな。俺もお前には助けられてるところも沢山あるからな」
「えへへ。これ程の美少女と一緒に暮らしてるんです。大変幸福な事だと思ってくださいね?」
「はいはい。感謝してますよ、美凪お嬢様」
「…………え。あれって俺たちが居るんだってわかっててやってる?」
「凛太郎くんって結構甘やかすタイプでもあるからねぇ」
なんて二人の言葉が聞こえてきたけど、無視をした。
『教室』
そして、俺たち四人は一年一組の教室へと辿り着く。
ガラリと扉を開けると、一人の女子生徒が既に出席していた。
「おはよう、桜井さん」
「おはよう、海野くん」
桜井美鈴さんはいつも一番に出席してきている。
「おはようございます、桜井さん。今日も早いですね」
「おはよう、美凪さん。あはは。お兄ちゃんが早くに登校するからね。永久さんと一緒に三人で来てるんだ」
北島永久さん。確か桜井さんのお兄さんの彼女だったかな。
あれ程お兄さんに対して深い愛を持ってる桜井さん。
お兄さんの彼女になにか思うところは無いのかな?
なんてことを思ってしまうが……
「そうなんですね。兄妹仲が良いんですね」
「えへへ。仲は良いよー。だって永久さんが居なかったら私がお兄ちゃんと結婚してたしー」
「…………あはは。そ、そうですか」
迂闊に踏み込むと、どんな地雷を踏み抜くかわからない……
彼女との会話には注意が必要だ。
そして、そんな会話をしていると、教室に少しずつ人が増えてくる。
俺は自分の席に戻ると、カバンの中から今日使う分の教科書やノート、筆記用具を机に移していく。
「確か、一時間目は数学だったな」
「はい。そうです。予習をする時間は家では無かったので、今少し教科書を眺めておきましょう」
俺と美凪はそう話をすると、一時間目の数学の教科書に目を通す。公式やそれを使った問題。応用辺りを軽く押さえておく。
そうしていると、教室の扉がガラリと開いた。
「うーし、お前ら席に着けー」
そう言って入ってきたのは山野先生だ。
「そろそろSHRの時間だ」
そう言うと、SHRの始まりを告げるチャイムが鳴った。
「よし。じゃあ海野、号令だ」
「はい!!」
俺はそう返事をして、クラスメイトに号令をかける。
そして、一礼を終えた俺たちに、先生が諸連絡をする。
その諸連絡をぼんやりと聞いていると、今日は特に大きな出来事は無さそうだな。と思えた。
まぁ、夜は美凪に誕生日を祝って貰えるみたいだしな。
それが大きなイベントか。
そんなことを考えていた。
SHRも終わり、一時間目の数学の時間を迎える。
チャイムの音と同時に教室の扉がガラリと開くと、初老の男性。根岸先生が姿を現した。
「皆、席に着いているな。よし、授業を始める」
先生はそう話を始めると、授業を始めた。
予習をしていたので、先生の話す授業の内容はすんなりと頭の中に入ってくる。
『予習をしていて正解でしたね』
『そうだな。すんなり授業の内容が頭に入ってくる』
隣の美凪がヒソヒソと話し掛けてきたので、そう返事をした。
『授業の最後に理解度を確認するテストがある。前回の授業の時にそんな話をしてましたよね?』
『そう言えばそうだったな。なるほど、お前の言いたいことがわかったぞ?』
『ふふーん?でしょうね。隣人さんの言うように、そのテストの点数で勝負です!!』
『まぁ、どうせ引き分けになるのが目に見えているがな』
『でしょうね。ですが、こういう張合いがある方が授業に身が入ると思いませんか?』
『あはは。確かに』
なんて話をしていると、
「よし。では海野凛太郎。前に出てこの問題を解きなさい」
「……え?はい!!」
やべぇ!!美凪と話してて授業を聞いていなかった!!
で、でも大丈夫。この授業の予習はしてるし、応用問題にも目を通している。しっかりと回答出来るはずだ!!
なんて思いながら、俺は黒板の前に立つ。
「…………え?な、なんだよ、これ」
わ、わからない。なんだよこの問題……
どう解いたら良いかもわからない問題が目の前にあった。
「わからないのか?」
「は、はい……」
俺がそう答えると、次は根岸先生は美凪にも問いかける。
「では、美凪優花。お前がこの問題を解きなさい」
その言葉に、美凪も焦ったような表情で首を横に振った。
「わ、わかりません……」
が、学年の首席と次席が揃ってわからない問題が目の前にあった。
その様子に、根岸先生はニヤリと笑う。
「そうか、わからないのか。この問題が『まだ習ってもいない東大の受験レベル』の問題だ。という事もわからないのか」
「「……え?」」
その言葉に、俺と美凪は揃って疑問符を浮かべた。
「私の授業では、真面目に授業に参加していない者を問題回答に指名するようにしている。二人でイチャイチャするのは構わないが、時と場所は選びなさい」
「「イチャイチャはしてません!!」」
思わず声が揃った俺たちを、クラスメイトが笑っていた。
「では、海野凛太郎。隣の問題を解きなさい。会話の内容は聞こえていた。予習はしてきたのだろう?」
隣の問題を見ると、今日習う箇所の応用問題だった。
これなら解けるな。
「……はぁ。最初からこっちを指定してくれるのでしたら、普通に解けましたよ」
俺はそう言って隣の問題を解いて見せた。
「それではつまらないだろう。ふむ……正解だ。海野凛太郎。席に戻って良い」
「はい……」
俺はそう返事をして席に戻った。
「か、会話にも気をつけましょう」
「はぁ……そうだな」
俺も美凪も思わぬ場所で恥をかいてしまった。
その事で顔を赤くしながらため息をついた。
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