美凪side ② 後編 その①
美凪side ② 後編 その①
山野先生に、私と隣人さんのやり取りを見られてしまい、少し……いやとても恥ずかしい思いをしました。
ですが、今日の夕飯はオムライスです!!
今からとても楽しみです!!
そう思っていると、彼のスマホがメッセージを受信しました。
どなたからでしょうか?
女性から……それも、桜井さんとか。
先程のやり取りの様子や、私の挨拶を無視して彼女と談笑していた。そんなことが思い出されました。
桜井さんは……お兄さんが大好きな人。そう公言しています。
ですが……隣人さんもかなり良い人です。
も、もしかしたら……
なんだか心がモヤッとしました。
イヤです……こんなことを考えてしまう自分が……
少しだけ自己嫌悪を抱きながら、私は彼に聞きました。
「誰からのメッセージか、聞いても平気ですか?」
「平気だよ。俺の親父からだった。内容はどうやら同僚の女性のお陰で一時帰宅が許されたみたいだよ。夕飯を用意してくれ。って話だった」
「な、なるほど。その……私は居ても平気なんですか?」
ぶ、部外者ですし……家族の団欒には邪魔かなと……
そんな私のおでこを彼はピンッと弾きました!!
お、乙女のおでこに何をするんですか!?
「あいた!!な、何するんですか!!」
「何をらしくないことを言ってるんだよ。お前が部外者なわけないだろ。それに何故か親父からはお前をご指名だよ」
ふ、ふふーん!!そうです!!私が部外者のはず無かったです!!何を不安になっていたのでしょうかね!!
ですが、私をご指名ですか。不思議な感じがしましたが、まあ良いでしょう!!
「そ、そうですか……なら、ご一緒しますね!!」
「よし、じゃあ買い物に行くか。今日はお前に『新しい世界』を見せてやる」
『新しい世界』
な、なんかその……
「あ、新しい世界。ですか。なんかえっちな響きです……」
そんな私の言葉に、彼は呆れたように言いました。
「そんなんじゃないから安心しろよ……」
『スーパーマーケット』
学校を後にした私たちは、昨日買い物をしたスーパーマーケットにやって来ました。
隣人さんは買い物カートを借りに向かいました。
それを見た私は、これから使うであろう買い物カゴを取りに向かいました。
そして、カートを押してやってきた彼にカゴを渡します。
「はい!!カゴです隣人さん!!」
「ありがとう、美凪。助かるよ」
ふふーん!!やはりパーフェクト美少女の美凪優花ちゃん!!
気が利く女の子です!!
「やはりここに来るとテンションが上がります!!」
「あはは。買わない商品には触れないようにしろよ?」
「むー!!そんな子供みたいなことはしませんよ!!」
彼から向けられた、私をからかうような言葉。
もう!!そんな子供じゃありません!!
「じゃあ美凪。今日のサラダに使う野菜を選んで持ってきてくれ」
「おお!!重要任務です!!責任重大ですね!!緊張します!!」
そして、私は彼から野菜の見分け方を教えて貰いました!!
きゅうりは青々としいて、瑞々しくて、イボイボが立ってるもの!!
トマトは赤く色付き、部屋の数が多いもの!!産毛があったら大当たり!!
ふふーん!!覚えましたよ!!
そうして私が選んできた野菜を見た彼は、良くやったと褒めてくれて、私の頭を撫でてくれました。
えへへ……隣人さん。ありがとうございます。
お野菜とお肉を買って、明日の朝に食べる食パンをカートに入れた時でした。
私の目に不思議な商品が映りました。
ケーキの下の部分だけの商品です。
「隣人さん。これってなんですか?ケーキの下の部分だけですよね。上の部分が無いなんて不思議ですね」
私はその商品を指さして彼に問いかけました。
「それはケーキのスポンジだけ売ってるんだよ。手作りケーキを作る時に使うんだ。ケーキのスポンジは失敗しやすいからな」
彼はそう言うと、ケーキのスポンジを手に取りました。
「これに生クリームを塗りたくって、上にフルーツを乗せたら簡単に手作りケーキが作れる。小さい頃に親父の誕生日に作ってやった事があるよ」
昔を懐かしむように、彼は笑いながらそう話してくれました。
彼のことをまた一つ。知ることが出来ました。
「へぇーやっぱりスーパーマーケットって面白い物が沢山売ってますね!!」
そんな会話をしてから、私と彼は冷凍食品のコーナーに行きました。
『冷凍食品』
なんか、身体に悪そうなイメージがありますね。
なんてことを彼に言ったら……
「馬鹿野郎!!」
「はひぃ!!!??」
も、ものすごい剣幕で怒鳴られてしまいました……
「ふぅ……冷凍食品は企業努力の結晶だ。味良し、コスパ良し、更には簡単に作れる。健康に悪いものなんか入ってない。そして、ちょっと手を加えれば家庭で本格的なお店の味まで楽しめる。そんな食品だ」
「そ、そうなんですね……」
「今日は親父もご飯を食べると言っていた。本当は白米から作ろうかとも思ったけど、流石に時間も掛かると判断した。この冷凍食品のチキンライスを買って、上から卵を被せれば簡単に美味しいオムライスが作れる」
「それは凄いですね!!」
冷凍食品はすごいんですね!!
「お弁当の中に入れておけば、自然解凍でも美味しく食べられる。夏場なんかは冷凍食品の唐揚げを何個か入れておけば保冷剤の代わりにもなって、食材が痛むのを防ぐ効果もある。冷凍食品は神の食品と言っても過言では無い」
「な、なるほど……これが隣人さんの言ってた……」
「そう。新しい世界だ」
そして、冷凍食品のチキンライスを購入して、私と隣人さんは家へと帰りました。
その途中でオムライスの玉子について聞かれたので、ふわとろオムライスが好きです!!と答えました。
私の玉子はふわとろにしてくれると言ってくれました!!
今から楽しみです!!
そんな会話をしながら歩いていると、私たちのマンションが見えてきました。
私が彼から貰った合鍵で部屋の扉を開けると、
「おかえりなさい、凛太郎!!」
奥から人の良さそうな見た目の男性が姿を見せました。
この方が隣人さんのお父さんですね!!
私は失礼が無いように、しっかりと挨拶をしました。
こういうことが出来るのもパーフェクト美少女なら当然です!!
「初めまして!!美凪優花と申します!!よろしくお願いします!!」
「うん。僕も会えて嬉しいよ、優花ちゃん。僕の名前は洋平だよ。じゃあ凛太郎と一緒に入っておいで」
洋平さんはそう言って私を迎え入れてくれました。
「はい!!ありがとうございます!!洋平さん!!」
「人の良さそうな方ですね」
私が隣人さんにそう言うと、彼は少しだけため息をつきました。
「人が良すぎるから、仕事を断れなくて毎回死にそうになってるんだがな……」
お母さんもそうですが……やはり人が良いと仕事を押し付けられやすいと言うのもあります。
心配してしまう気持ちは私もよくわかります。
そんな私に彼は空気を変えるように笑顔で言いました。
「よし。美凪。外から帰ったら手洗いとうがいだ」
「はい!!当然です」
私と彼はそう言うと、洗面所で手洗いとうがいを済ませました。
居間に向かうと、洋平さんが既に椅子に座って待っていました。
「すぐに飯にするけど良いか?」
「構わないよ。僕もお腹ペコペコだからね。その方が助かるよ」
「あはは。わかったよ。すぐに作るから待ってろ」
隣人さんはそう言うと台所へと向かいました。
私はすかさず彼に話しかけます。
「隣人さん!!私も手伝いますよ!!」
「うん。助かるよ。ありがとう美凪」
ふふーん!!だいぶ私も家事を覚えてきましたからね!!
貴方のサポートくらいならおちゃのこさいさいです!!
「よし。じゃあ美凪。お前の集大成を見せてもらうぞ」
「しゅ、集大成ですか……」
集大成……一体何を頼まれるのでしょうか……
「今日の夕飯のサラダ作り。それは全てお前に任せる」
「それは責任重大ですね!!」
料理の一品を任されました!!
こ、これは責任重大です!!
「まずは野菜を洗って、レタスやきゅうりやトマトを包丁でカットする」
「はい!!指を切らないように、細心の注意を払います!!」
トマトのカットは初めてですが、カットする形はわかるので出来るはずです!!
「そしたらシーチキンの油を切って、上に乗せる。そしたらサラダの出来上がりだ」
「確かに私の集大成です!!頑張って優花ちゃんスペシャルお手製サラダを作りますね!!」
「俺は隣でオムライスを作ってるからな。じゃあサラダは頼んだぞ、美凪」
「はい!!」
私は意気揚々と野菜を洗います。
ですが、ここで気をつかないといけません。
包丁で手を切るのは、二回目や三回目が多いです。
先程も言ったように、細心の注意を払う必要があります!!
レタスとトマトときゅうりを洗い、ザルに移します。
シーチキンの蓋を開け、油を切ります。
そして、レタスをちぎってボウルの中に入れます。
私は一つ。深呼吸をしてから包丁を握ります。
基本です。彼の言葉と教えをしっかりと思い出します。
『包丁はこうして持て。いいか?親指と人差し指で刃元の中央をしっかりと握り、残りの指で柄を握る。力を込めて握るな。そしたら包丁は奥から手前に引くようにして切るんだ。上から押し付けるようなやり方じゃないぞ?まぁ俺の包丁は研いであるからそれでも余裕で切れるがな。あと、ノコギリみたいにはするなよ?』
『立ち位置にも気をつけろ。素材を抑える手、包丁を持った手、自分の身体。三角形を意識しろ』
貴方の言葉が私の中で生きています。
ありがとうございます。
トマトはヘタの部分を切って落としてから六等分に切り分けます。
ここまでは順調です。
難所のきゅうりのスライスに入ります。
その時、私の頭に彼の言葉が蘇りました。
『私が切ったきゅうりはどうですか?』
『うん。美味しいぞ。このくらい厚みがあった方が歯ごたえがあって好きだと思ったわ』
薄くスライスするより、少し歯ごたえがある方が好き。
私は彼の好みを思い出し『少し厚め』にきゅうりをスライスしました。
彼はこの事に気が付いてくれるでしょうか。
もし、気が付いてくれて……美味しいよって……言ってくれたら……
そんなことを考えながら、私はスライスが終わったきゅうりと油を切ったシーチキンをボウルに入れました。
レタスとトマトときゅうりにシーチキンを加えた優花ちゃんお手製スペシャルサラダの完成です!!
私はそれを持って居間のテーブルへと向かいました。
「お待たせしました、洋平さん!!こちらが優花ちゃんスペシャルお手製サラダです!!」
「ありがとう、優花ちゃん。これはとても美味しそうだね!!」
「えへへ、はい!!隣人さんの指導のお陰ですね!!」
洋平さんは私を褒めてくれました!!
ですが、彼をしっかりと立ててあげるのも良い女と言うものです!!
そんな話をしていると、隣人さんがオムライスを持ってきてくれました!!
「ほらよ、お待たせ」
「わーい!!オムライスです!!」
「ありがとう、凛太郎」
そして、テーブルの上には、私のお手製サラダと、隣人さんの作ったオムライス。そしてインスタントのコーンスープが並びました!!
「うん。ご馳走だね!!」
「はい!!今から楽しみです」
「じゃあ冷めないうちに食べるか」
私たち三人は声を揃えて「いただきます」と言ってから、夕飯を食べ始めました!!
私はまずはオムライスを一口食べました。
冷凍食品のチキンライスは確かにクオリティが高いと思いました。ですが、それよりも私が『美味しい』と感じたのは……
「隣人さん!!チキンライスも確かに美味しいですが、貴方の作ったふわふわトロトロのたまごがいちばん美味しいです!!」
「…………そうか。ありがとうな」
私のその言葉に、彼はすごく優しい笑顔を浮かべてくれました。
きっと、私の言った『美味しい』という言葉に、喜んでくれてるんだと思います。
そして、彼は私の作ったサラダを取り皿に移しました。
ドレッシングをかけて、食べます。
私はその様子をじっと見ていました。
そんな私に、隣人さんは笑顔で言ってくれました。
「うん。美味しいな。特にこのきゅうり。意図的に厚めにスライスしてるだろ?」
「ふふーん?わかって貰えましたか。薄くするより少し厚めの方が好みだ。と言っていた貴方の好みに合わせてあげました!!」
流石は隣人さん!!私が意図的に貴方の好みに合わせてあげたことを理解してくれていました!!
「ありがとう、美凪。とても美味しいよ」
『とても美味しいよ』
彼のその言葉に、私はすごく嬉しい気持ちになりました。
それと同時に少しだけ恥ずかしいような気持ちも……
「た、たしかに自分の作ったものを『美味しい』と言われるのは嬉しいですね……」
「あはは。わかってくれたかな」
そして、私たち三人は夕飯を残さず食べ終わりました。
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