第二十七話 ~親父から誕生日プレゼントとして、欲しかった腕時計を貰った件~

 第二十七話




「よし。美凪。外から帰ったら手洗いとうがいだ」

「はい!!当然です」


 俺と美凪は洗面台で手洗いとうがいを済ませ、居間へと向かう。


 そこには既に親父が椅子に座って待っていた。


「すぐに飯にするけど良いか?」

「構わないよ。僕もお腹ペコペコだからね。その方が助かるよ」


「あはは。わかったよ。すぐに作るから待ってろ」


 こうして親父が一緒にご飯を食べるのは本当に珍しい。

 まぁ、明日は俺の誕生日だからな。きっとそのために無理をしてきたんだろうな。


「隣人さん!!私も手伝いますよ!!」

「うん。助かるよ。ありがとう美凪」


 台所に向かう俺の後を、美凪がそう言って着いてきた。


「よし。じゃあ美凪。お前の集大成を見せてもらうぞ」

「しゅ、集大成ですか……」


 ゴクリと唾を飲み込んだ美凪に俺は言う。


「今日の夕飯のサラダ作り。それは全てお前に任せる」

「それは責任重大ですね!!」


 真面目な表情で言葉を返す美凪。


「まずは野菜を洗って、レタスやきゅうりやトマトを包丁でカットする」

「はい!!指を切らないように、細心の注意を払います!!」


「そしたらシーチキンの油を切って、上に乗せる。そしたらサラダの出来上がりだ」

「確かに私の集大成です!!頑張って優花ちゃんスペシャルお手製サラダを作りますね!!」


「俺は隣でオムライスを作ってるからな。じゃあサラダは頼んだぞ、美凪」

「はい!!」



 そんなやり取りを見ていた親父が、


「あはは。何だか新婚夫婦みたいだね、凛太郎と優花ちゃん」


 なんて呟いているのが聞こえたけど、無視をした。



 そして、俺と美凪は台所で共同作業をしながら夕飯を作った。



「お待たせしました、洋平さん!!こちらが優花ちゃんスペシャルお手製サラダです!!」

「ありがとう、優花ちゃん。これはとても美味しそうだね!!」

「えへへ、はい!!隣人さんの指導のお陰ですね!!」


 なんてやり取りを聞きながら、俺も三人分のオムライスを作り終えた。


 レンジでチンしたチキンライスの上に、ふわふわトロトロのたまごを乗せたのが俺と美凪の分。

 しっかりとしたたまごを乗せたのが親父の分だ。


 親父は昔ながらのオムライスが好きなんだよな。


「ほらよ、お待たせ」

「わーい!!オムライスです!!」

「ありがとう、凛太郎」


 そして俺は沸かしていたポットのお湯を注いで、簡単なコーンスープもテーブルに用意した。


 テーブルの上には、美凪の作ったサラダと、俺の作ったオムライス。そしてコーンスープが並んだ。


「うん。ご馳走だね!!」

「はい!!今から楽しみです」

「じゃあ冷めないうちに食べるか」


 俺たち三人は声を揃えて「いただきます」と言ってから、夕飯を食べ始めた。



 俺はまず出来上がったオムライスを一口食べる。


 冷凍食品のチキンライスにたまごを乗せた一品。


 企業努力の結晶。やはり美味しい。これを上回る事は出来るけど、レンジでチンするだけの圧倒的作りやすさには敵わない。


「隣人さん!!チキンライスも確かに美味しいですが、貴方の作ったふわふわトロトロのたまごがいちばん美味しいです!!」

「…………そうか。ありがとうな」


 お前は本当に俺が嬉しいと思うことを言ってくれるんだな。


 次に俺は、美凪の作ったサラダを取り皿に乗せる。


 レタス、きゅうり、トマトは綺麗にカットされ、シーチキンもしっかりと油が切られている。


 彼女の集大成を感じられた。


 俺は軽くドレッシングをかけてからそれを食べる。


「うん。美味しいな。特にこのきゅうり。意図的に厚めにスライスしてるだろ?」

「ふふーん?わかって貰えましたか。薄くするより少し厚めの方が好みだ。と言っていた貴方の好みに合わせてあげました!!」


「ありがとう、美凪。とても美味しいよ」


 俺がそう言うと、美凪は顔を赤くした。


「た、たしかに自分の作ったものを『美味しい』と言われるのは嬉しいですね……」

「あはは。わかってくれたかな」


 そして、俺たち三人は夕飯に舌鼓を打ちながら全ての料理を食べきった。


「ご馳走さまでした」

「ご馳走さまでした!!」

「俺もご馳走様でした」


「じゃあ食器は流しに持ってくから」

「私も手伝いますよ!!」


「ありがとう、美凪。じゃあ二人で持っていくか」

「はい!!そのまま洗い物まで終わらせてしまいましょう」


「うん。そうだな。じゃあそうするか」


 俺と美凪がそんな話をしていると、


「じゃあ僕はちょっと部屋に行ってプレゼントを取ってくるよ」


 と言って親父が居間を後にした。


 食器を流しに入れ、美凪と洗い物をしていると、


「隣人さん。プレゼントってなんですか?」

「あぁ。明日が俺の誕生日なんだよ。だから無理をして親父も帰ってきたんだろうな」


 俺が事も無げにそう言うと、美凪は少しだけ怒ったような表情をした。


「私、知りませんでしたよ?」

「え?だって教えるようなことでも無いだろ?」


『明日は俺の誕生日なんだよ!!』


 なんて、言うもんでも無いし。


「……言ってくれてもいいじゃないですか。隣人さんのばか……」


「……え?何か言ったか?」


 水道で水を流していたから聞き取れなかった。


「何でもありませんよー!!」


 美凪はそう言うと、居間の方へと戻って行った。


 洗い物はもう終わったいた。


「……はぁ」


 俺は水道の蛇口を閉めてから、ため息をついた。


「会って数日だぞ。言うような空気も無かっただろ……」


 俺はそんなことを呟きながら、濡れた手をタオルで拭いて、居間に戻った。



 食後の麦茶を持って居間に向かうと、美凪がコップを人数分用意してくれていた。


「ありがとう、美凪」

「つーん」


 誕生日を教えて無かったのが余程気に入らなかったのか、美凪は挨拶を聞いていなかった、あの時のような表情をしていた。


「教えてなかったのは謝るよ、ごめんな」

「まぁ、そういう流れは無かったですからね」


「ちなみに、美凪の誕生日はいつなんだ?」

「8月31日です」


 夏休みの最終日だった。


「その日は祝わせて貰ってもいいか?」


 俺がそう言うと、美凪は俺に指を突きつけた。


「そう思いますよね?私も同じです」

「……え?」


「貴方の誕生日。祝いたいと思うくらいの感情は私にもありますよ。まぁ今知れたのは良かったです。明日の夜は空けておいてください」

「そうか。うん……ごめんな。でも、ありがとう美凪」


「ふふーん。わかればいいです。じゃあ明日の夜は楽しみにしていてください!!」

「了解だ」


 俺と美凪がそんな話をしていると、


「そろそろ夫婦喧嘩は終わって仲直り出来たかな?」


「「夫婦じゃない!!」」


 親父の言葉に思わず声が揃った俺と美凪は、お互いに見つめ合って顔を赤くした。



「あはは。仲が良くて僕も安心したよ」


 親父はそう言うと、俺にプレゼント包装をされた小さな箱を渡してきた。


「誕生日おめでとう、凛太郎。この中には君が欲しがってた腕時計が入ってる」

「マジかよ!!あれって安いものじゃないぞ」


 お金の管理は俺がしてる。親父には月三万円。飲み会とかで必要なら申告してもらえば幾らでも渡す。そういう風に話をしていた。


 追加のお金を最近渡したことは無かったので、月のお小遣いから出したことになる。


「そんなにお金を使うことが無いからね。凛太郎から貰ってるお金も余ってたんだよね」

「そうか。じゃあありがたく貰うことにするよ」


 俺はそう言って、腕時計のプレゼントを貰った。


「さて、そろそろいい時間だし、お風呂に入ろうか」

「そうだな」


 俺はそう言うと、風呂の準備をしに風呂場へ向かおうとする。


「そう言えば、今日から優花ちゃんはうちで暮らすんだよね?やっぱり凛太郎と一緒に寝る感じかな?」


「「え!?」」


 な、なんで親父が美凪がうちで暮らし始めることを知ってるんだ!?


 それよりも、


「み、美凪と一緒に寝るってどういうことだよ?」


 俺の質問に親父は呆れたように答える。


「えー?よく考えてよ凛太郎。いくら義理の娘になる女の子とは言え、こんなおっさんと寝るのは問題だよ?それに、僕のベッドは大人の男二人が寝るには流石に狭すぎるよ。だったら凛太郎が優花ちゃんと寝るしか無いよね?」


 ぎ、義理の娘って!!結婚すること前提みたいな話をするなよ!!


「み、美凪は……嫌だよな……」


 俺はそう言って、美凪の方を見ると、


「そ、その……私は嫌じゃないですよ……」


 なんてことを顔を赤くしながら言う美凪。


「な、なんで……」

「だって……隣人さんと寝ると……安心しますから……」


 その言葉を聞いた親父は嬉しそうに笑う。


「うんうん!!それなら決まったも同然だね!!凛太郎!!僕は寝たらどんな音でも当分起きない人間だからナニをしてても平気だからね!!」

「ふざけたこと言うなよ!!クソ親父!!」


 そう叫んだ後、俺は名案が思い浮かぶ。


「そ、そうだ!!俺だけ居間のソファで寝れば……」

「ダメですよ」

「み、美凪……」


 冷たい目で俺を見る美凪に、俺は心臓が縮む。


「四月はまだまだ寒いです。誕生日を風邪引いて迎えるつもりですか?」

「で、でも……」


「私は構わない。そう言ってるんです。覚悟を決めたらどうですか?」


 だ、ダメだ……逃げ場が無い……


 俺は観念して、


「わかった……一緒に寝よう……」


 そう答えた。

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