第二十六話 ~美凪に『冷凍食品』の素晴らしさを教えた件~
第二十六話
親父からのメッセージを受け取った俺は少しだけ思案する。
俺、親父に美凪の『名前』を話してたか?
……まぁ、気にする程のことでも無いか。
俺はそう結論付けると、スマホをポケットにしまう。
「誰からのメッセージか、聞いても平気ですか?」
首を傾げる美凪に、俺は笑いながら言う。
「平気だよ。俺の親父からだった。内容はどうやら同僚の女性のお陰で一時帰宅が許されたみたいだよ。夕飯を用意してくれ。って話だった」
「な、なるほど。その……私は居ても平気なんですか?」
ぶ、部外者ですし……家族の団欒には邪魔かなと……
俺はそんなことを言う美凪のおデコを軽くピンと弾く。
「あいた!!な、何するんですか!!」
「何をらしくないことを言ってるんだよ。お前が部外者なわけないだろ。それに何故か親父からはお前をご指名だよ」
「そ、そうですか……なら、ご一緒しますね!!」
ニコリと笑った美凪。
「よし、じゃあ買い物に行くか。今日はお前に『新しい世界』を見せてやる」
「あ、新しい世界。ですか。なんかえっちな響きです……」
少しだけ頬を赤らめる美凪に俺は、
「そんなんじゃないから安心しろよ……」
呆れたように呟きながら、美凪と一緒にスーパーへと向かった。
『スーパーマーケット』
昨日に引き続き、ロヒアにやって来た俺と美凪。
俺は100円玉をカートに差し込んで、カートを引き抜く。
「はい!!カゴです隣人さん!!」
「ありがとう、美凪。助かるよ」
俺は美凪から受けとったカゴをカートにセットする。
そして、二人で店内へと入って行く。
「やはりここに来るとテンションが上がります!!」
「あはは。買わない商品には触れないようにしろよ?」
「むー!!そんな子供みたいなことはしませんよ!!」
頬を膨らませる美凪に俺は笑いながら言う。
「じゃあ美凪。今日のサラダに使う野菜を選んで持ってきてくれ」
「おお!!重要任務です!!責任重大ですね!!緊張します!!」
ビシッと敬礼をしながら返事をする美凪。
俺はそんな彼女に野菜を選ぶポイントを話す。
「まずはきゅうりを三本買う。ロヒアは一本では売ってないから、袋で買うことになる」
「はい!!」
「基本的には選ぶポイントは変わらない。青々として瑞々しいのは当然として、このイボイボが立ってるやつがいいきゅうりだ」
「はい!!質問です!!」
「なんだ?」
「曲がってたり真っ直ぐだったりは関係ありますか!?」
「味に関係は無い。だけど料理のしやすさとかを考えると真っ直ぐの方が好まれるな。真っ直ぐだから美味しいとか、曲がってるから美味しくない。そういうのは無いよ」
「はい!!了解しました!!」
そう言って美凪はきゅうり売り場に行って、袋のきゅうりを選んでいた。
微笑ましい光景だよな。
なんて思っていると、美凪がきゅうりを持って戻ってきた。
「これです!!」
見てみると、青々として瑞々しく。イボイボもきちんと立っていた。良いきゅうりだ。
「良くやった。これは良いきゅうりだ」
「えへへ。ありがとうございます!!」
頭を撫でると、美凪は嬉しそうに頬を緩めた。
「よし、次はトマトの選び方だ」
「はい!!トマト大好きです!!」
俺はトマトのコーナーに言って説明をする。
「やはりロヒアは一個では売ってないからパックで買うことになる」
今日はミニトマトではなく、大玉のトマトを買う予定だ。
「トマトを選ぶポイントは赤々としてしっかりと色付いている。これは基本だが、まずは表面に産毛があるかを見ろ」
「産毛ですか!!」
「まぁ無いことがほとんどだが、あればかなり鮮度が良いトマトだ。あとはこのおしりから伸びている白い線が多いものを選べ。これはトマトの部屋の数を示している。これが多いほど美味しいトマトだ」
「赤々としていて部屋の数が多いトマトを選んできます!!」
美凪はそう言うと、トマトの売り場に向かって行った。
そして、選んで来たものを見ると、やはり良いものを選んで来ていた。
「よし。これも良いトマトだ。偉いぞ、美凪」
「えへへ。次は何を選びますか!!」
「そうだな、次は……」
なんてやり取りをしながら、俺と美凪は買い物を進めて行った。
「隣人さん!!買い物って楽しいですね!!」
野菜とお肉を買い物カゴに入れて、美凪は楽しそうにそう言ってきた。
「そうだな。一人でするとつまらないけど、俺もお前とこうして買い物をするのは楽しいよ」
「ふふーん!!パーフェクト美少女の美凪優花ちゃんと買い物を出来る幸せを噛み締めてくださいね!!」
そんな会話をしながら、俺は美凪を『冷凍食品』のコーナーへと案内する。
「今日はお前に、冷凍食品の素晴らしさを教えてやる」
「れ、冷凍食品ですか……なんか身体に悪そうなイメージが……」
「馬鹿野郎!!」
「はひぃ!!!??」
美凪のふざけた一言に、俺は思わず声を荒らげてしまった。
いけないいけない……
「ふぅ……冷凍食品は企業努力の結晶だ。味良し、コスパ良し、更には簡単に作れる。健康に悪いものなんか入ってない。そして、ちょっと手を加えれば家庭で本格的なお店の味まで楽しめる。そんな食品だ」
「そ、そうなんですね……」
「今日は親父もご飯を食べると言っていた。本当は白米から作ろうかとも思ったけど、流石に時間も掛かると判断した。この冷凍食品のチキンライスを買って、上から卵を被せれば簡単に美味しいオムライスが作れる」
「それは凄いですね!!」
俺は冷凍食品のケースからチキンライスをいくつか取り出す。
「お弁当の中に入れておけば、自然解凍でも美味しく食べられる。夏場なんかは冷凍食品の唐揚げを何個か入れておけば保冷剤の代わりにもなって、食材が痛むのを防ぐ効果もある。冷凍食品は神の食品と言っても過言では無い」
「な、なるほど……これが隣人さんの言ってた……」
「そう。新しい世界だ」
そんな話をしながら、俺と美凪は買い物を終えた。
帰り道ではアイスを齧りながら二人で並んで帰る。
「えへへ。今日の夕飯も楽しみです!!」
「そうだな。ちなみに聞いておくけど、オムライスの上に乗せるたまごはふわとろとしっかり。どっちが好きだ?」
「ふわとろオムライスが好きです!!」
「なるほどね。じゃあ美凪のオムライスはふわとろにしてやるよ」
「出来るんですか!?」
「逆にしっかりしたやつの方が難しいまであるな。ふわとろの方が楽なんだよな」
そうしていると、俺と美凪の住んでいるマンションが見えてきた。
「着きましたね」
「おう。じゃあ部屋に行くか」
エレベーターを使って自分の部屋へと向かう。
そして、自宅の前まで辿り着く。
「合鍵は私がもう出してあるので開けますね」
「おう、助かるわ」
買い物袋を持ってるから、鍵を出すのも苦労するからな。
俺は美凪に玄関の鍵を開けてもらった。
「ただいま」
「お邪魔しまーす!!」
俺と美凪が家に入ると、
「おかえりなさい、凛太郎!!」
奥から親父が姿を現した。
中肉中背。柔和な表情。人が良いを体現した中年男性。
「初めまして!!美凪優花と申します!!よろしくお願いします!!」
美凪は親父に向かって一礼をした。
親父はそれを見て微笑みながら、
「うん。僕も会えて嬉しいよ、優花ちゃん。僕の名前は洋平だよ。じゃあ凛太郎と一緒に入っておいで」
「はい!!ありがとうございます!!洋平さん!!」
美凪がそう言うと、親父は居間の方へと歩いて行った。
「人の良さそうな方ですね」
そういう海凪に、俺はため息混じりで返す。
「人が良すぎるから、仕事を断れなくて毎回死にそうになってるんだがな……」
本当に、頼むから親父まで倒れないでくれよな。
俺はそう思いながら、美凪と自宅にあがった。
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