第二十五話 ~美凪には俺からの感謝の気持ちを伝えた件~

 第二十五話




「海野凛太郎。生徒会に入らないか?」


 山野先生から言われた言葉を頭の中で反芻はんすうする。


「……理由を伺っても良いですか?」

「すぐに結論を出さない姿勢は評価出来るな」


 そんなことを言ってきた山野先生に俺は苦笑いを浮かべながら答える。


「あはは。断ることは確定してますが、話くらいなら聞いておこうと思ってます」

「はぁ……だろうな。私も断られると思っていたよ。ダメ元で聞いてみたところが大きい」


 山野先生はそう言うと、タバコに火をつける。


「吸うぞ」

「気にしないでください。副流煙がーなんて騒ぐような人間ではありませんから」


 先生は俺の言葉に、笑った。


 ……桐崎と話してるような気分になる。


 そんな呟きが聞こえてきた。


 桐崎さん……確か、前任の生徒会長だったか。

 去年の卒業生。副会長と一緒に東京の大学に進学したって学園の新聞に載ってるのを見た。


「生徒会は今、深刻な『男』不足なんだ……」

「……はい?」


 ちょっと意味がわからない……


「生徒会長は桜井霧都が務めている。男だ」

「はい」


「副会長は二人居て、一人は会計と兼任をしてる北島永久(きたじまとわ)。女性だ」

「はい」


「もう一人の副会長は書記と兼任をしてる桐崎雫(きりさきしずく)。女性だ」

「はい」


 この人がさっきの先生の呟きに出てきてた、桐崎先輩の妹さんだな。


「そして、私のクラスから桜井美鈴が生徒会に入会すると希望してきた。当然だが、女性だ」

「……あはは。生徒会は会長を中心にしたハーレムですか?」


 深刻な『男』不足といった意味がわかったかな。


「そう思われるような状況になっているんだ。ちなみに、桜井は北島と付き合ってる。桐崎にも特定の相手が居る。そして、桜井美鈴は会長の妹だ。実情はハーレムなんかでは決してないんだがな」

「あはは。でも大衆はそうは思わないでしょうね。面白おかしく解釈するのが常ですので」


「はぁ……そこまでわかってて、それでも入会はして貰えない感じか?」

「はい。自分にはそこまでの時間的な余裕はありませんから」


 俺ははっきりとNOを突き付ける。


「そうか。まぁ学級委員をしてくれるだけ御の字と思うことにするか」

「それに関してはしっかりと行うと約束します」


 俺のその言葉を聞いて、山野先生は手にしていたタバコを吸う。そして、はぁ……と煙を吐いた。


「外には美凪が待ってるんだろ?」

「はい」


「時間を取らせて悪かったな、行ってやれ」

「こちらこそ、ご期待に添えずに申し訳ございません」


 俺はそう言って、先生に頭を下げた。


「気にするな。男に関しては別の部分を当ってみるよ。そうだな、桐崎雫の彼氏とかを引き込んでみるさ」



 そんなことを言う先生を進路指導室に残し、俺は外に出た。



「何を話されたんですか?」


 外に出ると、美凪が少しだけ不安そうな表情で聞いてきた。


「生徒会に入らないか?と打診を受けたよ」


 俺は歩きながらそう話をする。


「……生徒会。隣人さんはその話を……」

「断ったよ。当然だろ?」


 俺がそう話をすると、美凪は意外そうな表情をした。


「生徒会ですよ?何となくですが、隣人さんは生徒会長とか目指してそうな雰囲気がありました」

「あはは。中学時代は生徒会長をやってたよ。でも、高校ではやるつもりは全く無いな」


 俺は笑いながらそう答える。


「その……何か理由があるんですか?」


 そんなことを聞いてきた美凪。

 はぁ?お前マジで言ってるのかよ……


 俺は立ち止まって、美凪の前に立つ。


「り、隣人さん……?」

「俺が部活に入らないのも、生徒会に入らないのも、全部お前のためだよ。なんだよ、そんなこともわかんないのかよ?」


「わ、私のため……」


 キョトンとした表情の美凪に、俺は呆れたように話す。


「そうだよ。一緒に暮らすんだろ?お腹を空かせた美凪お嬢様にご飯を作るんだから、部活や生徒会なんてやってる暇なんかねぇよ。朝にその話はしただろ?」


 俺がそう話をすると、美凪はぱあと笑顔になった。


 何だよお前、不安だったのかよ?


「ふ、ふふーん!!そうですよね!!隣人さんは私の飯使いさんです!!たくさん美味しいご飯を作ってくれないと困りますからね!!」


 俺はそう言う美凪の頭を撫でる。


「……り、隣人……さん?」


 驚いたような表情の美凪に俺は笑いかける。


「親父も奏も、俺の料理を食べて『ありがとう』とは言っても、『美味しい』と言ってくれることは無かったんだ」


「お前が初めてなんだ。俺の料理を『美味しい』って言ってくれたのはな」


「ありがとう、美凪。俺の料理を『美味しい』と言ってくれて」


 俺がそう言うと、美凪は照れたようにはにかみ、笑った。


「え、えへへ……その、照れますね。私は思ったことをそのまま言ってるだけですから……」


 美凪はそう言うと、俺の手を両手で抑える。


「私は貴方にこうして頭を撫でられるのは嫌いではありません。なんでしょうかね、安心する感じがします」

「そうか。俺もこうしてるとお前の綺麗な髪の毛が触れて幸せだ」


「ふふーん?そうですか。この髪の毛はお手入れが大変なんですよ?」

「だろうな。でも、とても綺麗だと思う」


 俺がそう言うと、美凪は頬を赤く染める。


「じゃあ……これからもお手入れを頑張ります……」



「おい。海野に美凪」


「「はい!!」」


 俺たちの後ろから山野先生の声が聞こえてきた。


 振り向くと、呆れたような表情で俺たちのことを見ていた。


「イチャイチャするのは構わないが、学校では控えろよ?」

「「イチャイチャはしてません!!」」


 思わず声が重なった俺と美凪は顔を合わせて赤くなる。


「はぁ……私もそろそろ彼氏でも探すかな……」


 山野先生はそう言って俺たちの横を通り過ぎて行った。




「み、見られてしまいましたね」

「ろ、廊下では控えようか」



 山野先生の背中を見送ったあと、俺と美凪は廊下で反省会を開いていた。


「じゃあ美凪、買い物をして帰ろうか」

「そうですね、今日はオムライスですよね!!私、今から楽しみです!!」


 そんな会話をしている時だった。


 俺のスマホがメッセージを受信した。と伝えてきた。


「……ん?誰だろう」


 俺はスマホを取りだして、メッセージを確認した。



『学校お疲れ様、凛太郎!!お父さんは仕事を同僚の女性に頼み込んで、何とか一時帰宅を認めて貰えたよ!!明日は凛太郎にとって大切な日だからね!!それと今日は一緒に夕飯を食べられるから、お父さんの分もよろしくお願いします!!あと優花ちゃんにも会いたいから一緒にご飯に誘っておいてね!!じゃあ!!』


 なんて内容のメッセージが届いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る