第二十八話 ~どうして美凪にはこういう本が見つかってしまうのか。本当にわからないと思った件~
第二十八話
「……はぁ。流石に美凪と一晩同じベッドで寝るとか、理性が持つ自信が無いんだけど……」
湯船に浸かりながら、俺はボソリと呟いた。
親父は、先程職場に呼び出されてしまった。
『ごめん!!凛太郎!!同僚の女性からどうしても一人では対応出来ない事案が起きたってヘルプが来ちゃった!!』
『そうか。まぁ仕方ないよな。顔が見れたから良かったよ。あまり無理はするなよ、親父』
『システムエンジニアって大変ですね。お身体に気を付けて頑張ってください』
俺と美凪に見送られ、親父は職場へと戻って行った。
『さて。親父が職場に行ったってことは、部屋が空いたということだ』
『ダメですからね?』
『…………え?』
ふわりと笑みを浮かべながら、美凪は言う。
『一緒に寝るのは変わりないですよ』
『何で!?あれは寝る場所がないからって話だろ!!』
『私は貴方と寝ると安心出来ます。これは昨日の夜にわかったことですので』
『いやいやいや!!ダメだろ!!事情も無く高校生の男女が同じベッドで寝るとか!!』
『……寂しいんですよ。一人で寝るのは』
『うぐ……』
『ダメ……ですか?』
『……………………はぁ』
理性を強く持て……海野凛太郎……
今朝みたいなことはもう許されないからな。
『わかったよ……』
『はい!!ありがとうございます!!』
なんてやり取りがあった。
「とりあえず……さっさと寝てしまおう。寝てしまえば理性もクソもないだろ。朝はさっさとベッドから抜け出そう。そうすれば何とかなるはずだ……」
そんな、情けない決意をして、俺は風呂から出た。
脱衣所でしっかりと身体を拭き、洗濯済の下着とパジャマに身を包む。
居間に向かうと、美凪がニュースを見ていた。
「出たぞ」
「はい。では次は私が入りますね」
そう。こいつはお風呂もここで入る。と言ってきた。
自宅の風呂も独りだと怖い。そう話してきた。
ほんと、一番恐ろしいのは、幽霊よりも性欲の塊のような男子高校生だとわからないのだろうか……
美凪の着替えは俺が風呂に入る前に一緒に取りに行った。
それを持って美凪は風呂場へと向かって行った。
俺は冷蔵庫を開けて、冷えた牛乳を取り出す。
コップに注いでから一口飲む。
「ふぅ……少し落ち着い……」
風呂場の方からシャワーの音が聞こえてくる。
それと同時にに美凪の鼻歌が聴こえてきた。
否応なしに想像力をかきたてられる……
「…………あいつはホントにわざとやってるのかよ」
俺は牛乳を飲み干し、コップを流しで洗う。
そして、俺は一足先に自室へと向かう。
『凛太郎の部屋』
と書かれた扉を開け、中に入る。
「ぐは……そうだ、忘れてた……」
勉強机の上には、俺の『秘蔵の本』が無造作においてあった。
俺はその秘蔵の本を机の引き出しの下の二重底の中に入れて置いた。
死のノートの主人公に憧れて作ったやつだ。
やってみたら意外と上手く出来てしまった。
俺はベッドに腰かけながらスマホに入れてある漫画のアプリを起動する。
そして、電子書籍で購入してある、お気に入りのえっちな漫画を開く。
「…………一発抜いとくか?」
……いや、辞めておこう。
なんか今したらあいつの顔が思い浮かびそうな気がする。
そんなことになったら、俺はきっとあいつの顔をまともに見れなくなる。
「筋トレだ……そうだ!!筋トレで性欲を発散させよう!!」
俺はスマホをベッドの上に放り投げると、ダンベルを持ち上げる。
「よし、やるぞ!!」
こうして俺は、鏡の前でフォームを確認しながら、ダンベルで筋トレを行った。
そして、良い感じに汗をかいて来た頃に、部屋の扉がガチャリと開いた。
「……え、隣人さん。何してるんですか?」
「あぁ、美凪。風呂から出たか……ふぅ、筋トレをしてたよ」
風呂上がりの美凪は身体が少し赤く火照っていて、顔も蒸気している。男を惑わす色気がめちゃくちゃあった。
でも、筋トレをしてる俺はそれに何とか耐えることが出来た。
やはり筋肉。筋肉は全てを解決する!!
「お風呂から出たのに、また汗かいてどうするんですか……」
「あはは。まあそこまで沢山汗をかいてる訳じゃないからな。気にする程でもないだろ」
俺は額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
ふぅ。この程度の汗なら匂いとかにもならないだろう。
「そうですか……おや?なにか本を読んでいたんですか?」
「……あ!!!???」
美凪はベッドの上に放り投げられていた俺のスマホに目を向ける。
し、しまった!!電子書籍を閉じるのを忘れてた!!
「ま、待て美凪!!それを見たら……っ!!」
「………………へぇ」
時すでに遅し。俺の静止も虚しく、美凪は俺のスマホの画面をバッチリ見てしまっていた。
『巨乳同級生とする秘密の逢瀬 ~学校の教室で行われる淫らな行為~』
「…………隣人さんはこういうのが好きなんですか?」
「…………いや、その」
「学校でしたいとか、思うんでしょうか?」
「そ、そんなことは…………」
冷たい目でこっちを見ている美凪。
ど、どうしてこういうものばかり見つかってしまうのだろうか……
「はぁ……隣人さんは、えっちですね」
「だ、男子高校生はみんなこんなもんだよ……」
俺は苦し紛れにそう言うと、美凪は呆れたように笑った。
「そうですね。まぁでもいいですよ。そういうことに理解を示してあげるのも良い女の条件です」
「そ、そうか……」
「ちなみに、私のこともそういう目で見てるんですか?」
「…………黙秘で」
俺が視線を逸らしてそう言うと、美凪はケラケラと笑っていた。
「あはは。それってもう答えみたいなものじゃないですか」
「嫌だろ、そういう目で見られるのは」
俺がそう言うと、美凪はふわりと笑みを浮かべながら言葉をかえす。
「そうですね、他の男性なら不快です。そういう視線に晒されることは少なく無かったですからね。電車やバスでは気を付けているんですよ?ですが、貴方は別ですね。何故でしょうかね、見られてないと言われれば悔しいと思い、見られてると言われれば嬉しいと思いますよ」
「……はぁ。あまりそう言うことを言わないでくれるかな」
頭を押えながらそういう俺に、美凪は嬉しそうに笑う。
「あはは。普段は冷静沈着な貴方がこうして動揺している姿を見ると、とても新鮮です。もっとそう言う姿を見たいと思ってしまうんですよね」
「あまりからかわないでくれるかな。俺もいっぱいいっぱいなんだ」
俺のその言葉を聞いた美凪は、とても満足そうな表情をしている。
「ありがとうございます隣人さん、私は楽しいです。昨日は本当に怖くて怖くて仕方無かったです。ですが、やはりこうして貴方と話していると幸せな気持ちになれます」
「一緒に暮らすのは構わない。でも、こうして一緒に寝るのはこれきりにしてくれないか?」
俺のその言葉に、美凪は微笑む。
夜のこいつは、どうも調子が狂う。
「はい。わかりました。それで構いませんよ」
「はぁ……良かったよ」
俺はため息をついてそう言った。
筋トレをした時にかいた汗はもう引いていた。
「それでは隣人さん。そろそろ寝ますか?」
「そうだな。明日も早起きして朝ごはんとお弁当の準備があるからな」
「私も出来ることがあれば手伝いますよ。あ、隣人さんがお風呂に入っている間に予約でご飯の準備はしてあります。1.5合のご飯を炊くようにしてます」
「ありがとう。じゃあ明日は卵の割り方を教えてやるよ」
「わーい。それは楽しみです!!」
「ちなみに殻が入ったらそれはお前の分の玉子焼きになるからな?」
俺がそう言うと、美凪は笑いながら
「美味しく食べられるよう、失敗しないように頑張ります!!」
「うん。じゃあ寝るか」
「はい」
俺と美凪はそう言うと同じベッドに横になる。
「…………いや、無理だろ」
「無理じゃありません」
ベッドの端で横を向く俺を、美凪が抱き寄せる。
「えぇぇ!!??」
「そんなところに居たら落っこちますよ?」
むにゅん。と美凪のおっぱいの感触が背中に伝わってくる。
「ふふふ。幸せです……」
「そ、そうですか……」
抱き枕のような気分なのだろうか。美凪は俺の身体ギュッと抱きしめて、
「おやすみなさい……隣人さん……」
そう呟いて、
「……すぅ……すぅ……」
寝てしまった……
「……嘘だろ」
寝付きが良い。なんてレベルの話では無い。
「こ、こんな状況で寝ろって言うのかよ……」
だが、寝るしかない。
理性は現在進行形でガリガリ削られている。あと十分もしたら取り返しのつかないような行為を、こいつにしてしまうかもしれない。
俺は手元のスイッチを操作して、部屋の明かりを玉電ひとつにする。
オレンジ色の光に部屋が染る。
「……はぁ。寝るか」
俺はそう呟いて、目を閉じる。
「おやすみ、美凪……」
背中に押し当てられた魅惑の感触を忘れるように、俺は夢の世界へと旅立って行った。
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