第八話 ~生徒会長はクラスメイトの兄だった件~

 第八話



『入学式』



 体育館に新入生が続々と集まってくる。

 そして、全員が所定の位置に着いたところで定刻となった。


 教頭先生の挨拶から始まり、祝電が読み上げられる。

 校歌を口パクで歌ってる振りをしてやり過ごし、

 校長先生のありがたいお話を欠伸を噛み殺しながら聞いていた。


 そして、生徒会長の歓迎の言葉の時間になる。



『生徒会長。桜井霧都くん。前にお願いします』

「はい!!」


 山野先生に呼ばれた生徒会長が、壇上へと歩いて行く。


「桜井って……もしかして君のお兄さんか?」


 俺はたまたま隣にいた桜井美鈴さんに聞いてみた。


「うん。そうだよ。お兄ちゃんは二年生だけど生徒会長やってるんだよね」

「へぇ、そうなんだ。三年生を差し置いて、生徒会長になるのはすごいな」


 俺はマイクの前に立った背が高くてガタイの良い彼女のお兄さんに視線を送った。


 生徒会長は俺たちに一礼すると、歓迎の言葉を始めた。


『皆さんこんにちは。生徒会長の桜井霧都さくらいきりとです。新入生の皆さん。本日はこの海皇高校にご入学おめでとうございます。在校生を代表して祝辞を述べさせてもらいます。さて、この海皇高校は創立50周年を超える歴史と伝統のある高校です』


『その歴史の中でも、二年生の時点で生徒会長となった先輩は数える程しかいません。そして、その先輩たちはとても偉大な方々ばかりです』


『そんな偉大な先輩たちと肩を並べられるような人間では、恥ずかしながら自分はありません』


『しかし、自分には信頼の置ける。そして、頼れる仲間が居ます。優秀な副会長二人に支えられ、自分はようやく一人前だと思っています』


『そして、そんな普通の自分だからこそ、優秀な二人には出来ない、普通の人の気持ちが分かり、寄り添うことが出来ると思っています』


『一人でなんでも出来る必要はありません。自分と相手。支え合って生きていくのが人生だと思います』


『皆さんには、これから先の人生において、自分のパートナーと呼べる人を作ってもらいたいと思います。この海皇高校はそれが出来る高校です』


『そして、皆さんの学園生活を寄り良いものにするために、自分は誠心誠意努力します。何かあったらすぐに来てください。生徒会室の鍵はいつでも開いていますから』


『これで祝辞は以上になります。本日はご入学おめでとうございます』


 生徒会長はそう言うと、一礼をして壇上を降りた。




「……すげぇな、あの人」


 俺は思わず呟いた。


 二年生でありながら『生徒会長』と言うある意味生徒のトップに立つ人間が、自分は『普通』だと本心から言えるところ。


 そして、自身の部下に頼れる器量。


『頼る』という行為は、簡単なように見えて非常に難しいと思っている。どうしても恥ずかしい。という気持ちが出てしまう。


 俺には中々出来ないことだ。


 だが、あの人はその『頼る』という行為を生徒会長という地位にある自分が率先して行うことで、決して恥ずかしい行為では無い。と示しているんだ。


 そして、生徒会室の鍵を開いていると言うのも、頼る行為への壁を取り払っているんだ。


 カリスマに溢れ、我が道を行き、皆を引っ張るのが生徒会長だと思っていたが、ああいう生徒会長も居るのか。


 俺が人を尊敬することはあまり無いが、あの人は尊敬出来る。

 そう感じた。




『続きまして、新入生代表による挨拶を行います。新入生代表 美凪優花さん、前へお願いします』

「はい!!」


 山野先生に呼ばれた美凪が返事をして壇上へと歩いて行く。


「へぇ、美凪さんって頭良かったんだね」

「そうだな。俺も意外だったな」


 桜井さんの言葉に、俺は相槌を打った。


「海野くんが頭良さそうなのは、何となく予想してたけどね」

「まぁあいつに次いでの次席だったよ。めちゃくちゃ煽られたから、中間試験では首席になるつもりだよ」


 俺がそう言うと、桜井さんは笑った。


「あはは。そういえばさっきのやり取りは、見ててなかなか面白かったよ」


 その言葉に俺は軽く眉をしかめた。


「見られてたのか……」


「見てたよ。と言うか視界に入ってきたって感じかな?随分と仲良さそうに見えたけど、前からの知り合いなの?」

「いや、知り合ったのは昨日だな」


 その言葉に、桜井さんは驚く。


「え!?知り合って一日でどうしてあんなやり取りが出来るの?」


「まぁ、ここだけの話なんだけど。昨日あいつが俺が住んでるマンションの隣の部屋に引っ越してきてな」

「その時点でもうびっくりだよ」


「夕方くらいに家族の人が仕事に呼ばれて、家にはあいつ一人になってたみたいでな。お金も持ってなくて腹が減ったから飯を食わせてくれって俺の家に来た」

「うん。ちょっと理解が追いつかないかな……」


「あはは。俺もそう思うよ。まぁ俺の家もその日は親父が仕事のせいで夕飯食えないって連絡があったから、用意してた一人前が余っちまったんだよな。それをあいつに食わせてやったんだよな」

「やっさしー」


 桜井さんのからかうような言葉に俺は苦笑いを浮かべる。


「まぁ、あいつの母親が最初に挨拶に来ててな。その時に『隣人同士、助け合いで行きましょう』って言っちゃったからさ。それを言質にされちまったよ……」

「お兄ちゃんが言ってた『助け合い』ってやつだね!!」


「助け合いなら、俺もあいつに助けてもらわないとな。現状俺の方があいつに対して助け過ぎだと思ってるわ。引越しの荷片しだって俺が手伝ってやったし」

「それは今後に期待!!ってやつじゃないかな?せっかく隣の席なんだし。忘れた教科書を見せてもらったり、宿題を見せてもらったり?」


「まぁ……そのくらいしかないよな」


 なんて桜井さんとの会話に夢中になっていたので、



『最後になりますが、このような素晴らしい入学式を開いていただき、誠にありがとうございます!!』



 と美凪が行った挨拶を全く聞いていなかった。


 ……まぁ……いいか。


「あはは……美凪さんの挨拶を全く聞いてなかったね」


 苦笑いを浮かべる桜井さんに俺は言う。


「まぁいんじゃね?どうせ大したこと言ってねぇと思うし」


 あいつのことだから、どっかで聞いたことあるようなことしか言って無いだろ。


 そう思いながら、俺は入学式の残りの時間を過ごしていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る