第七話 ~勉強で俺の上に行ったこいつのドヤ顔がうざい件~

 第七話



 しばらくすると、一年一組の教室にクラス分けの紙を見た生徒がぞろぞろと入ってくる。

 そして、皆教壇の上にあるクジ引きに驚いたあと、おっかなびっくりくじを引いていった。


 教室に全員が揃い、最後のくじの人間が席に座った頃。

 スーツを着た若い女性の先生が教室に入ってきた。


「うーし。お前ら、クジは全員引いたな。名前順。なんてつまらん席順ではなく、己の運で掴み取った席だ。その席で一年間を過ごすことになるからそのつもりで」


 マジかよ……ってことは俺は一年間。美凪の隣で過ごさなきゃならねぇのか。


 隣を見ると、同じタイミングで美凪もこちらを向いてたようで、視線があった。


「……何見てるんですか?」

「いや、一年間もお前の隣なんだな。と辟易していたところだよ」

「何を言ってるんですか隣人さん。この超絶美少女の優花ちゃんの隣に一年座れるんですよ。まさしくプラチナチケットです。感謝してくださいね?」

「はいはい。せいぜい目の保養にはさせてもらうよ」


 そんな話をしていると、女性の先生は黒板に名前を書いた。



山野咲やまのさき



「私の名前は山野咲だ。去年卒業したヤツらの担任をしていた。今年はお前たちの担任をすることになる。まぁ、縁があるやつなら三年間の付き合いになるだろう」


「黒板にも書いてあるが、人生でいちばん大切なものは『運』だ。私はことある事にお前たちの運を図る。何か決める時はクジ引きを多用する。直近で言えば明日の委員会の選出も、自他の推薦が無いならクジ引きで決めることになる」


「やりたくない委員があるなら、積極的な参加を進めるぞ」


 そこまで話したあと、山野先生は時計を確認した。


「よし。そろそろ入学式の時間だ。場所は体育館だ。場所を知ってるものはいるか?」


 その言葉に俺は手を上げる。


「はい。自分は学内の主要施設のことはある程度把握しています」


 俺のその言葉に、山野先生はニヤリと笑う。


「優秀な人間は嫌いじゃない。そして、自分の意見がきちんと言える奴もな。海野凛太郎。お前が先頭に立って全員を体育館まで連れて来い」


 すげぇな。初日から顔と名前が一致してるのか。


 俺はそう思いながら、


「了解しました。山野先生」


 と返事をした。


「それでは私はここで失礼する。入学式が終わったらこの教室に戻ってこい。そしたら最初のLHRになる。ここではお前たちの自己紹介になる。それが終わったら諸連絡をして解散だ。今日は午前で終了になる。そのつもりで」


 先生はそう言うと、教室を後にした。


 それを見た俺は席から立ち上がり、全員に声をかける。


「先程先生からも呼ばれていたが、海野凛太郎だ。別にリーダー面をするつもりは無いが、みんな俺に着いてきてくれ」


 俺がそう言うと、一番最初に登校してきていた桜井さんが、率先して立ち上がった。


「体育館までの誘導をよろしくお願いします!!海野凛太郎くん!!」


 ありがたい。こうして誰か一人が賛同してくれると後が続きやすいんだ。


「ありがとう。じゃあ俺は先に外に出ているから」


 俺はそう言うと、教室の外に出る。

 そして、それに続くように美凪と幸也と奏も外に出た。





「実は私も体育館などの主要施設の場所は知ってるんです。ですが、ああいう場で手を上げるのはすごいですね。私には出来ません」


 体育館へ向かい歩いていると、美凪がそう言ってきた。


「まぁ、誰も手を上げないとは思ってたからな。だったらさっさと話を進めるためにも俺がやるべきだろ。こんな誘導程度のことならなんの手間でも無い」


「流石は中学三年間、学級委員をしてきた凛太郎だな。人を率いるのは得意だよな」

「凛太郎くんは高校でも学級委員をやるのかな?」


「そうだな。どうせ誰もやらないなら、俺がやるかな。部活も入るつもりが無いから、その点でも俺が最適だろ」


 まぁ、立候補が無ければ。だけどな。


 そんな話をしていると、体育館へと到着した。


「そう言えば、新入生の挨拶は首席がするんだよな?凛太郎は次席だったんだよな。誰が首席だったんだろ?」

「さぁな。あまり興味が無いな」


 俺がそう言うと、美凪がドヤ顔で胸をそらせていた。


「どうした、美凪。揉んでほしいのか?」

「ち、違いますよ!!なんてことを言うんですか!!このえっち!!」


 美凪はそう言うと、胸を隠すように抱きしめている。


「ふふーん。どうやら隣人さんは入試の成績で私に劣っていたようですね!!」

「なんだと?」


 俺の上には首席しかいない。

 という事はまさか……


「お前が首席だったのか」

「ふふーん!!だから言ったでは無いですか!!才色兼備のパーフェクト美少女だと!!学年首席はこの美凪優花ちゃんです!!」


「アホの子でも勉強が出来るんだな」

「だ、誰がアホの子ですか!!」


 美凪はそう言うと、体育館の奥。舞台袖の方へと向かう。


「新入生の代表として、挨拶をしてきます。『次席』の隣人さんは指をくわえて見てるといいです!!」

「うぜぇ……」


 勉強で負けてこれ程悔しい思いをしたのは初めてだ……


「ふふーん!!いい気分です!!今まで何回も首席を取ってきましたが、今この瞬間が一番気分が良いです!!」


 美凪はそう言って歩いて行った。


「挨拶を盛大に噛んで恥をかけ」

「な、なんてことを言うんですか!!」


 噛みません!!隣人さんのばーか!!


 そう言ってあっかんべーをしながら美凪は立ち去って行った。



「勉強で負けて、ここまで悔しかったのは初めてだ……」


 俺が歯噛みをしていると、幸也が苦笑いを浮かべながら言ってきた。


「あはは。凛太郎がそんなことを言うなんて本気で悔しかったんだね」

「ちょっとまた本気で勉強をするかな」



 中間試験の時に首席を取ってやろう。


 そしてあいつに言ってやるんだ。


『才色兼備のパーフェクト美少女で『次席』の美凪優花さん?』


 ってな。

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