第28話
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「では、現魔王ことウルミタス・エッジスの処遇について話そう」
私は、仲間を引き連れて戦場に設置された天幕に立ち入った。
いわゆる総司令部だ。
現魔王とその取り巻き、日和見種族の幹部連中が集まっている。
日和見種族の幹部連中は興奮気味であったが、その逆に現魔王とその取り巻きらはしょんぼりとしている。
「我らは、魔神シンの御意志により使わされた4柱の神族のお力添えを得て皇国軍を撃退した」
ここからは演説だ。
皆の興奮が覚めやらぬ内に事を決めねばならない。
「魔神がウルミタスがその役目を全うできぬと看破されていたからである」
私は声を張り上げた。
「本来であれば現魔王の役目を邪魔する気はなかったのだが、我々魔族の一大事とあれば致し方ないことであった」
正当性を主張する。
ちなみに4人の神族は椅子に座ってくつろいでいる。
重役待遇である。
「しかし、一度引退した魔王が返り咲くなど前例のないことだ」
ウルミタスが反論する。
ここで言い負かされたら失脚だ。向こうも一生懸命だろう。
「彼の意思ではない」
ウピルが言った。
援護射撃だ。
「シンの巫女が代弁する」
エンプーサがサバーシを見た。
サバーシに衆目が集まる。
「はい、魔神の御意志です」
サバーシは厳かに答えた。
「どのような経緯で魔王の座に就いたかは問いません。
が、各種族の不評を買い、反乱を防げず、皇国の軍勢の侵入を許してしまった。
これは良い訳できません」
そこで一端、言葉を切る。
「魔王の座にある者としての資質がないと判断せざるをえません」
ザバーシはやはり厳かに言い渡した。
「しかし!」
ウルミタスは反論しようとしたが、
「魔王として失格だとよ!」
「責任取れよ!」
ヴルコラク、ヴァラコルキが野次を入れた。
神族に言われたら反論しにくい。
「ぐっ…」
ウルミタスは口ごもった。
半分以上は出来レースだとその場の皆が分っている。
しかし、反対するメリットがない。
「魔神の意思のままに」
私は頭を垂れた。
「私は気が短いんだよ、さっさと処刑しな!」
エンプーサが怒鳴った。
急かす理由はさっき言った通り、皆が冷静になる前に事を終わらせたいからだ。
神族の機嫌が悪いのを見て、その場の皆が萎縮した。
この4人の力は戦で見たばかりだ。
「許可が出た、皆同意したとみなす」
私は垂れていた頭を起こした。
「魔神よ、我に魔力を!」
私は天を仰いで叫んだ。
周囲の魔力が身体に入ってくる。
魔族なら全員が感じ取れるはずだ。
強大な魔力が私の身体を元の姿へもどした。
角。
牙。
爪。
体付きも一回り以上大きくなる。
元の身体だ。
「裁きを受けよ!」
「ひいっ!」
私はウルミタスに詰め寄り、ヤツの首を掴んだ。
一気に力を込めると、ウルミタスの首が折れて横倒しになる。
現職魔王は絶命した。
*
私は魔王に就任した。
マジニーはレイス族の長に就任し、魔王直属の家臣として働き出した。
サバーシは魔神神殿の神官長になった。
まあ、新たに作ったんだがな。
色々助力してもらったシン神に対するお礼というところである。
ディロピートは元々ボーソン家の跡取りだ。
いずれ婿でも取って魔族の幹部となるだろう。
「魔王様」
マジニーが政務室に入ってくる。
「例の者を連れてきました」
「そうか、ご苦労様」
私はうなずいた。
ウルミタスの他に、気になる者が一人いる。
私を陥れたあの娘だ。
ミス魔族に何度も輝いたアレッサ・グロウズである。
「久しぶりだn……」
アレッサを見た瞬間、私は固まってしまった。
アレッサの姿は変わり果てていた。
前魔王の愛人になったせいで贅沢三昧をして過ごしたせいで、ぶくぶく太ってしまったのだった。
そこにミス魔族の面影はない。
「魔王様、どうかお慈悲を~」
アレッサは涙を流して懇願してきた。
私が権力の座に戻った途端、態度を変えて媚びてきた訳だが、それを許すほど甘くはない。
「どういたしますか?」
マジニーがチラリと私を見る。
「うーん」
処遇を決めようとしていたら、
「迷う事はない!」
「私たちが引導を渡す!」
サバーシとディロピートがやってきて、
バシィッ!
ズバッ!
「ぎゃ~~!!!」
棒と剣で叩き切ってしまった。
アレッサは絶命。
大量の血が床に広がる。
うわー、魔族って怖いわー。
「さて、魔王様」
ディロピートが返り血を浴びたままの姿で、私に向き直る。
「なんでしょう?」
「そ、そのぅ、父上は私を魔王様に嫁がせようとしているようなのだ」
ちょっとはにかんでいる。
罪人を斬り殺した直後にこの物言いは凄いな。
「私をもらってくれますか?」
ディロピートは頬を染めている。
「こらこら、血だらけでいうことじゃないだろ」
サバーシがたしなめる様に言う。。
「なんですか、巫女様には関係ないでしょう?」
「いやいやいや、巫女だから魔王様にはしっかり魔神様の意思を伝えなければ」
サバーシは言うと、
つかつかつか。
と、私の側まで来る。
「私もあんたの側にいるよ」
「ダメだー!!」
ディロピートがもの凄い勢いで駆け寄ってくる。
「魔王様の側にいるのは私だ!」
「いやいやいやいや、死体を片付けるのが先でしょ?」
私はため息をついた。
「なあ、マジニー?」
振り返ると、もうマジニーの姿はなかった。
逃げやがったな!
*
いや、これはこれで嬉しいんだけどね。
めっちゃアプローチをしてくる二人を躱して自室へ逃げてくる。
私は椅子に腰掛けた。
そして、もう一人。
「リチャード」
「はい」
変わらぬ姿で、私の側にいる幽霊。
「お前がいつも側にいてくれたから、私はここまでこれた」
「え、そんな、魔王様のお力ですよ」
リチャードは少し恥ずかしそうにしている。
「リチャード、これからも私の側にいてくれ」
「え、あ……はい」
リチャードはちょっとうつむき加減で、うなずいた。
「あー!」
「何してるんだ!?」
そこへディロピートとサバーシが乱入してくる。
「うわ!? なんだ、二人とも!」
私は驚いて椅子から落ちそうになる。
「抜け駆けは許さないよ!」
「魔王様に嫁ぐのは私だー!」
「はあーっ!?」
リチャードが驚いている。
「私だ!」
「私です!」
「いや、ケンカはやめてくだされ!」
ギャーギャー。
女が三人集まると姦しいとはよく言ったもんだ。
私はソロリソロリと部屋から出ようとする。
「「「あーっ!」」」
「逃げないでください!」
「逃げないでくだされ!」
「逃げんなー!」
「うわー!」
私はドアに向かってダッシュしたのだった。
打倒魔王の元魔王(完)
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